宇宙世紀0060頃、地球連邦の宇宙移民はピークを過ぎて、連邦の予算には少し余裕が出てきました。この頃から、地球連邦軍は装備の更新に積極的に取り組むようになりました。もちろん、新型の戦車や航空機の開発も可能になりました。その中でも最大の航空機が、超大型輸送機CC-350『レモン』です。地球上のどの場所にでも大量の物資を迅速に輸送できる機体とし開発され、第1次生産分の約100機も完成し、さあこれから活躍するぞという時になって、大きな問題が生じました。相前後して開発された連邦軍のロジスティクス標準コンテナを積み込むには、サイズが合わず、どう積んでも無駄が多く発生することが判明したのです。それに対して、コンテナと同時に開発された専用輸送機ミデアなら無駄なく効率的に輸送できます。全ての物資はこのコンテナに詰めて輸送すると決めた連邦軍は、ミデアさえあればそれで十分ということになってしまったのです。結局、100機ものCC-350『レモン』は出番を失い、一度も活躍することなく北米大陸の砂漠でモスボール状態とされ保存されることになったのです。
さて、宇宙世紀0079になると宇宙からジオン軍が降下してきました。しかし、地球上で使用する様々な装備は圧倒的に不足しており、ジオンの技術者は占領地を飛び回って使えそうな物を何でもかんでも物色していました。そして技術者は巨大なCC-350『レモン』と出会ったのです。モビルスーツを始めとする各種装備を迅速に移動させるための輸送機を欠いていたジオン軍は、すぐにこれだ!と飛び付きました。これベースに改造すれば、ジオン軍が必要とする輸送機が素早く調達できると考えられたのです。
ところが、北米占領軍司令官ガルマ・ザビは、改造作業中のCC-350『レモン』を視察したときに、とても素敵なアイデアを思いついたのです。そうだ、これを空中空母にしよう。
ガルマがそう思ったのには理由があります。ガルマの姉のキシリアは潜水艦部隊を創設して地球の海に大きな影響力を及ぼそうとしていました。姉思いのガルマは、自分もキシリアの手助けをしたいと思い、密かに空母部隊の整備を頭に思い描いていたのです。しかし、航空母艦ともなれば建造に費用も時間も必要です。そう簡単に実現できるものではありません。ですが、目の前の超大型輸送機を改造して空中空母にするのなら、時間は掛かりそうにありません。
さっそく、ガルマはCC-350『レモン』を輸送機ではなく、空中空母として改修するように命令を下しました。
そして、CC-350『レモン』は、ガウ級攻撃空母と名を変えて、北米の空へと羽ばたいたのです。
とはいえ、ただの輸送機に、装甲や武装を追加させ、その上航空機やモビルスーツの補給や整備能力を付け加えていけば、重くなるのは必然です。その結果、計画の約半分の搭載機を載せた状態で飛ぶのがやっとという有様でした。補助ブースターで強引に機体を持ち上げつつ飛ばすことで、ようやく、そこそこの搭載量を確保できましたが燃費は極端に悪くなり、航続距離も短くなりました。
現場でのガウの評判は最悪でした。こんな搭載量の少ない空中空母ではなく、搭載量の大きな普通の輸送機が欲しかった、という意見も多く、最前線でしばしば見かける連邦軍のミデアを羨ましそうに指をくわえて見つめる事態も多発しました。
結局、ガウは装甲や武装を外し、単なる輸送機として利用されることが多く、戦闘機やモビルスーツを搭載して敵地に侵攻する攻撃空母らしい使い方をされることはありませんでした。ガウを本格的に投入した戦いは、ホワイトベース隊との交戦が最も有名ですが、これとて、ガルマが友人シャアに対する見栄としてガウを攻撃空母として出撃させたようなものだと言われています。
ガウ最大の活躍は、シャア・アズナブルのジャブロー潜入に呼応するジャブロー攻撃のため、モビルスーツを遠く南米まで輸送して降下させたことでしょう。しかし、このときは航続距離を稼ぐために不要の装備は全て外し、搭載戦闘機も減らし、モビルスーツだけをかろうじて南米に送り届けたようなものでした。当然、自衛のための武装も外していたため、ガウのほとんどは未帰還となりました。それ以後は残された貴重なガウを敵地に送り出すことなく大切に使い続け、終戦の日を迎えたのでした。
終戦の時点でのガウの残存数は12機ですが、それらは書類上CC-350『レモン』として扱われ、もとの砂漠に戻されてモスボールされたそうです。しかし、各種装備を外され、輸送機として使われたガウには、攻撃空母らしい面影は残されておらず、訪問する者達がガウに気付くことはないと言います。
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