正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
エルメス事件の結果、得をした者があるとすれば、それはフラナガン機関に他なりません。実際、この一連の経緯は、偶然と言うにはあまりにフラナガン機関に有利すぎる展開であると言えます。
まず、多額の資金を注ぎ込まれたフラナガン機関が、そろそろ成果を見て欲しいと言われていた頃に、ちょうどエルメスによるソロモン要塞周辺の連邦艦艇撃沈の戦果が上がっています。これにより、ニュータイプの兵器としての有用性を強くアピールした後に、異常発達したニュータイプパイロットの操縦するモビルスーツに、エルメスは撃墜されてしまいます。これにより、戦争に勝つにはより強力なニュータイプ兵器が必要という機運になり、更にフラナガン機関は多額の資金を得ています。そして、誰かが冷静になって疑問を感じる前に戦争は終わり、フラナガン機関に多額の資金を出したキシリア・ザビは疑問を口にできない身体となっていました。言うまでもなく、連邦軍にザビ家の資産が接収される前に、フラナガン機関は最後の資金を提供されています。
では、フラナガン機関が、このような状況を、偶然に頼らずに意図的に作ることができるでしょうか?
まず、エルメスによる連邦艦艇の撃沈は機雷を用いたトリックで実現できます。宇宙要塞ソロモンが陥落することは事前に予測可能ですから、その隙をついてトリックを仕掛けることも、事前に計画可能です。
次にエルメスの撃墜ですが、これは他のどんな敵でもなく、ニュータイプパイロットの乗るRX-78によって撃墜されねばなりません。普通に考えれば、味方ならともかく、敵のモビルスーツの行動まで強制することはできません。しかし、RX-78の支援機Gアーマーのパイロットと、エルメスの護衛機ゲルググのパイロットが兄妹関係にあり、しかもニュータイプ思想の提唱者ジオン・ダイクンの遺児であるとなれば話は変わります。つまり、事前に兄妹が打ち合わせを行い、特定の時刻と場所にエルメスとRX-78を誘導することは可能であり、かつ、二人にはニュータイプという茶番を暴露させないで父の名誉を守るということで、利害の一致を見ることができるのです。
エルメスとRX-78が交戦した場合、その結果は明らかです。エルメスが無線操縦するビーム砲搭載艇の母機に過ぎないなら、現実に戦場で戦果を上げてきたエースパイロットの操るRX-78に勝つことは絶望的と言えます。
つまり、異常発達したニュータイプによりエルメスが撃墜されるという事態は、あらかじめ計画して実施することが可能であったわけです。
次の問題は、実際に兄妹による打ち合わせが可能かどうかですが、関係者の手記に記された通り、この事件の前にテキサスコロニーで兄妹が出会って会話を交わしたという事実があるのなら、そこで打ち合わせは可能だったといえます。少なくとも、同じコロニーに同時にザンジバルとホワイトベースが接舷し、内部で両者のクルーがニアミスしたことは記録された事実です。
さて、これが事実だとすれば、シャア・アズナブルとセイラ・マスは、フラナガン機関の詐欺行為の共犯者ということになります。多くの出来事の中で、セイラ・マスの関与が認められるのは、エルメス撃墜事件のみで、深い関与があったとは考えにくいと言えます。それに対して、シャア・アズナブルの方は、様々な事態に積極的に介入してフラナガン機関に有利な方向に状況を誘導した疑いがあります。特に、ア・バオア・クーの戦いにおいて、グラナダへ脱出しようとするキシリア・ザビを殺害したことは、重要な意味を持ちます。冷静になればフラナガン機関の詐欺行為の数々に気付くかも知れない危険な人物を、これにより抹殺することができたのです。しかも、フラナガン機関に出せる金をすべて出させた後のことです。
更に、キシリア・ザビを殺すことにより、ザビ家関係者はすべて死に絶え、戦争は終結せざるを得なくなります。この混乱により、フラナガン機関の詐欺行為を究明しようなどと考える余裕は誰にも無くなります。
これにより、フラナガン機関の関係者は、せしめた金を持ってどこへでも逃げ出す余裕があったと言えます。
このとき、シャア・アズナブルも多額の資金を手にして逃亡した可能性があり得ます。この資金がその後どこに流れたのかは、はっきりしません。アクシズが再起するのに長い時間を要したことを考えれば、この資金はジオン再興には使われず、シャア・アズナブルが個人的に秘匿した可能性が高いと言えます。そして、後年にシャア・アズナブルが政治家としての活動を始める際に使われたと考えることもできますが、これはあくまで根拠のない推測に過ぎません。
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