正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
1年戦争中期、ジオン側で人型兵器を製造していた企業群は、あらゆる手を使って、利権の保全を試みました。それは成功し、ザクの後継機は、ゲルググとギャンという人型兵器間の競争試作に持ち込むことができました。しかし、これは1つの勝利ではあっても、永遠の勝利ではありませんでした。ゲルググとギャンの競争試作の決定後、早くも更にその後継機を巡る様々な駆け引きが始まりました。
とはいえ、旧ザク、ザク、そしてその後継機と、何世代も連続して軍の主力兵器を供給している人型兵器関連企業の立場は既に強固になっていて、そう簡単に他の企業が入り込める状況ではありませんでした。何より、エースパイロット達の厚い信頼がある限り、人型兵器は主力兵器であり続けるはずでした。
しかし、そんな企業群にも1つだけ恐れるものがありました。それはニュータイプです。彼らは、ニュータイプなど実在するはずがないと思っていましたが、完全に信じ切ることはできませんでした。もし、本当にニュータイプなる人種が存在し、彼らが従来のエースパイロットに取って代わり、戦闘をリードするパイロットになるとしたら、ニュータイプ専用兵器に積極的なモビルアーマー関連企業に、主力兵器生産の利権が奪われる可能性がありました。
そこで、もしニュータイプの時代が来ようと、ジオンの主力兵器の主導権を他に渡さないように、人型のニュータイプ専用兵器の開発プロジェクトが開始されました。これは、従来のMSナンバーではなく、MSNナンバーを付与される全く別系列の兵器体系であると分類されました。
さて、いきなりニュータイプ用の兵器を開発すると言っても、何のノウハウもない段階からコツコツと積み上げたのでは、あまりに時間が掛かります。そこで、モビルアーマーの技術者を引き抜いて、彼らにニュータイプ用人型兵器の開発を任せようとしました。
しかし、もとも人型は最善の兵器の形状ではないという思想の組織で生きてきた技術者達は、オーソドックスな人型兵器の開発に難色を示しました。それに、この時点で使用できる技術はほとんどゲルググに注ぎ込まれており、同じ技術で新兵器を設計したところで、ゲルググと大差ない性能しか発揮できないのは明らかでした。求められているのが、ゲルググの次の世代の主力兵器である以上、ゲルググを突き放す性能を発揮してくれねば困るのでした。
結局、ゲルググを圧倒的に上回る性能を発揮でき、まがりなりにも人型をしていればそれで良いということになり、それ以外のあらゆる要求は取り下げられました。
まず、高出力を達成するために機体が大型化しました。それにより、ムサイなどに搭載して運用することは不可能になってしまいました。サイズが違うと、手の大きさも違ってくるため、既存の手持ち型兵器も使えなくなります。それなら、人間のような手は必要ないということで、手の代わりに有線操縦ビーム砲を装備することになりました。複雑でデリケートな指の制御機構が無ければ、システム全体の制御系が簡素化でき、その分軽量化とレスポンス速度の向上が可能でした。そして、AMBAC機動には腕が2本あれば十分で、足はなくても構わない、むしろデッドウェイトになりかねないということで、格闘戦時に足を切り離す機構も採用されました。更に、ニュータイプの資質を持つ人材が少ないことから、コクピットは最も被弾しやすい機体中央部ではなく、頭部に設置した上で、頭部は独立した脱出艇としての機能を与えられました。これは、多くの有能なパイロットが脱出のチャンスを与えられず戦死した悲劇の再発防止の方策の1つでもありました。とはいえ、これだけの機構が組み込めるのは、機体が大型化したおかげと言えます。ゲルググのサイズでは、採用できないものであったと言えます。
この機体は、新機種としては異例の早さで開発が進みました。要するに、この機体は人型のモビルアーマーであり、実際にはモビルアーマーの派生機種を1つ開発したようなものでしかありませんでした。
この機体は、MSN-02の制式ナンバーを与えられ、ジオングの名前を与えられました。
ジオングとは、地球征服野郎(Geo Conqueror Guy)の略だと言われていますが、かなり苦しい解釈で、やはりジオンの名に引っかけたネーミングというのが真の理由でしょう。
そして、MSN-02は、さっそくア・バオア・クーで様々なテストが行われることになりました。
続きます。
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