正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
オデッサを奪還されること。それは、ジオン軍にとって絶対に阻止されねばならないことでした。戦争を継続したければ、オデッサより採掘される資源は必要不可欠だったからです。
オデッサを任されていたキシリア・ザビも、そのことを分かっていなかったわけではありません。連邦軍がオデッサを狙っていると分かれば、可能な限りの戦力をオデッサに振り向け、しかも最悪の場合は使うようにとひそかに核兵器すら配備させたのです。
しかし、オデッサを脅かす兵器がどういう経路で輸送され、オデッサの正面に出現するか、そのことへの注意を払ったとは言い難い状況でした。キシリア・ザビが気にしていたのは、戦場で向かい合う戦力の量と質だけでした。
とても間抜けな話ではありますが、ゴッグを大西洋から引き上げさせたことが、連邦軍に大軍をジャブローから西欧に輸送することを許し、それがオデッサの敗北に結びついたという事実に、当のキシリア・ザビはまったく気付いていませんでした。
それどころか、水陸両用モビルスーツを諜報活動や後方攪乱に上手く利用していると自画自賛する有様でした。実際、ジャブローの入り口を発見するという手柄を立てていることも事実ですが、それもただでさえなけなしのジオン軍地上戦力をすり潰す切っ掛けになっただけでした。
キシリア・ザビはジャブローの活動は停滞中というレポートを信じて、今なら少数の戦力でもジャブローを攻略できると判断して、北米からモビルスーツを空輸させました。
しかし、キシリア自身がゴッグを大西洋から引き上げさせたことにより、ジャブローの活動は活発化しており、この時期のジャブローはジオン地上軍の全てを投入しても勝てたかどうか分からないぐらい内容が充実していました。何しろ、オデッサ作戦を終えて部隊の再編成のために戻っていた戦力と、星一号作戦に備えて準備中の戦力が全てジャブローに顔を揃えていたのです。完全に、キシリア・ザビは攻撃すべきタイミングを見誤ったと言えます。もちろん、あらゆる物資が滞りなく届いている状況で、ジャブローに攻略すべき隙など、できるはずもありませんでした。
結局、シャア・アズナブルが海中部隊を離れ宇宙に上がったあと、後任になった名もない佐官がそのことに気付いてキシリア・ザビに事情を説明しました。
それを理解するとキシリア・ザビは激怒して当たり散らしたと言います。
そして、指揮下の水中戦力の全てをもって、大西洋の輸送船の攻撃を指示しましたが、それは既に手遅れでした。
水中のモビルスーツを撃沈するように改良された、自動追尾魚雷や拡散散布爆雷投射機、深度1000メートル以上に潜む水陸両用モビルスーツを探し出す機載ソナーシステムなどが既に用意されており、輸送船を楽に沈めることはもはや不可能という状況でした。
終戦間近の時期には、ゴッグによる船団攻撃はまさに死と隣り合わせ、出撃したら2機に1機は戻ってこられない厳しい戦いとなっていました。しかも、ジオン本土を攻めるための大艦隊は既に打ち上げ済みであり、今更ジャブローを追いつめたところで、ジオンの敗北は動かしがたい状況でした。
さて、ゴッグを最も上手く使いこなした部隊は、水陸両用第5戦隊でした。これは最初に編成された実戦向けのゴッグ部隊でもあります。これはジオン軍内部から、海を恐れないということで水泳やダイビングのマニア5名を集めて組織された部隊です。彼らは、いつも水中眼鏡を手放さず、暇さえあれば海に潜っていました。そして、口癖は「海は大きいぞ」だったので、「大戦隊ゴーグル5」の名前で知れ渡るようになりました。
ゴーグル5は、カラフルな原色で機体を塗り、敵を威圧しました。戦争終結までに、全てのメンバーが5隻以上の輸送船を沈めていますが、規定により輸送船撃沈ではエースの称号が与えられないため、名前が知られることは多くありません。
ゴッグは主に集団戦法(群狼戦法)で運用されました。西欧の海岸近くで監視用のゴッグが輸送船団の出発を確認すると、予想針路を衛星経由で連絡します。監視用のゴッグは存在を秘匿するために攻撃は行いません。そのかわり、大西洋に展開するゴッグが連絡された予想針路に向かって集まり、一気に襲撃するのでした。
しかし、終戦末期になると、連邦軍側もゴッグの攻撃を恐れてミノフスキー粒子を大量に散布するようになったため、攻撃側も相互の連絡が取りにくくなりました。集団戦法が取れず、個別の部隊ごと攻撃となったゴッグは、連邦軍の護衛艦の袋だたきに合い、多くは未帰還となりました。
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