正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ジオン軍の水陸両用モビルスーツの開発は、待ったなしの緊急プロジェクトとしてスタートしたものの、具体的に何をどう作ればよいのかお手本もない状況のため、ともかくいろいろなプロジェクトが同時並行でスタートしました。
その数は、すぐに中止されたものも含めれば20を超えるほどです。
その中で、ちゃんと試作機が完成して実用的に動くものは制式ナンバーを与えられましたが、それは10にも満たない数でしかありませんでした。しかも、制式ナンバーを与えられた機種であっても、性能のバランスが悪かったり、実戦での使い道が見いだせなかったり、本格的な量産にまで踏み切れないものが多かったのです。
結局、量産にまでこぎ着けたものは、MSM-03ゴッグ、MSM-04アッガイ、MSM-07ズゴックの3機種しかありません。
その3機種の中でも、MSM-04が最も不幸な境遇のモビルスーツであったと言えます。
MSM-04の開発開始時のコンセプトは、ローコストな輸送船攻撃用モビルスーツでした。単純に輸送船攻撃に徹するなら、それほど大きな性能は必要とされません。輸送船自身は、大した装甲も無ければ、速度もさほど早くありません。このような目標に対して、強力な攻撃型モビルスーツを振り向けることは無駄が多すぎるという考え方が提唱され、それはジオン軍内で一定の支持を得ました。そこで、小型低出力低武装の安価なモビルスーツを大量に作り、大西洋航路を航行する輸送船の全てをこまめに撃破するという構想が立てられました。これを実現するために開発プロジェクトがスタートしました。
さて、このプロジェクトが開始されると、画期的な安さに驚き、他の応用を考え出す人たちが出てきました。それまで、モビルスーツは強ければ強いほど良いというのが常識であり、あえて弱いモビルスーツを作ろうという考えはありませんでした。しかし、弱くても安いモビルスーツにはニーズがあったのです。たとえば、モビルスーツ操縦の初等訓練用に使いたいとか、占領地域の警備用に使いたいという話も出てきました。中でも、もっとも大きなものは、スパイ活動支援用モビルスーツとして使いたいというキシリア・ザビの要求でした。小さく軽く出力も小さいために発見されにくく、しかも安いという特徴に、キシリア・ザビは注目したのでした。
いつの間にか、プロジェクトはこれらの要求を全て満たさねばならない立場に追い込まれていました。
しかし、他の要求はともかく、キシリア・ザビの要求だけは、簡単には実現できませんでした。スパイ活動支援用モビルスーツとなれば、探知されにくいように特に念入りに形状や材質を吟味しなければなりません。それは、本来なら短期間で開発が完了するはずが、大幅にスケジュールが遅延することを意味しました。普通なら、他のニーズに配慮して、そのような要求は却下するところですが、何しろあのザビ家のキシリア・ザビからの要求であるため、却下することは不可能でした。
しかし、キシリア・ザビの強い影響下にあることは、悪いことばかりではありませんでした。ともかく、スパイ活動は早急に支援されねばならなかったので、他のモビルスーツ開発プロジェクトからどんどん人材を引き抜いてこのプロジェクトに注ぎ込みました。
その結果、予定よりは遅れたものの、それほど遅れすぎない時期にこのモビルスーツは完成し、MSM-04の制式ナンバーとアッガイの愛称が与えられました。アッガイとは、悪化させる侵入者(Aggravating Invader)を縮めた名前でした。言うまでもなく、敵地に入り込んで敵に毒を仕込むという意図を込めたネーミングであり、キシリア・ザビの意図が強く反映されたものでした。
それはともかく、北米ではMSM-04の完成は吉報と受け止められました。既にMSM-03による輸送船攻撃は成果を上げつつありましたが、絶対的にMSM-03の数が不足していました。低性能でもいいから、もっと水陸両用モビルスーツがあれば、という思いが関係者にあったのです。
ところが、キシリア・ザビからはあっと驚く命令が下ります。MSM-04はスパイ活動に使用する重要な兵器なので、一般作戦に使用することを一切禁止するというのです。しかも、製造されたMSM-04は全て諜報関連の部隊が使用し、一般部隊向けの製造は行わないとまで言うのです。
誰もがあっけに取られました。それはキシリア・ザビにとってだけ意味のある決定であり、他の目的でMSM-04を望んだ全ての関係者のことはまったく配慮されていませんでした。
続きます。
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