正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
長距離巡航宇宙艦チベ級の完成は、サイド3内のローカルニュースの話題にしかなりませんでした。それどころか、サイド3の住民ですら、壮大な金の無駄遣いではないかと、猜疑の目で見ていたほどです。ろくに戦闘用宇宙船の建造経験もない状況で、いきなり本格的な大型艦を建造するなど、実力もわきまえない背伸びではないかという意見も聞かれました。
しかし、サイド3の宇宙船建造業界は民間船の修理建造だけでなく、連邦軍艦艇の修理を通じてノウハウを蓄積していました。その意味で、チベの建造は、けして実力もわきまえない背伸びではなかったのです。
完成後、サイド3周辺で、チベは徹底的なテストを受けました。様々な細かい問題が次から次へと出てきて対応に追われたため、このテストだけで半年以上の時間を費やしました。しかし、それだけの価値はありました。
これなら自信を持って戦場に送り出せると技術者と軍人達が太鼓判を押した後、チベはサイド3独立警備隊に引き渡されました。そして、このチベ級1番艦は、シャルンホルストと命名され、さっそく、小惑星帯に向け出航しました。
長く退屈な航海も、シャルンホルストは他の艦半分の日数でこなしました。そして、小惑星帯の危険宙域に入ると、まるで待ちかまえていたかのような海賊船フッド号と遭遇しました。フッド号は、超大型客船を改造した快速船で、搭載した火力の大きさと相まって、最も手強い海賊船の一隻とされていました。シャルンホルストは、見敵必戦の精神で、ただちにフッド号との交戦コースに航路変更しました。
フッド号は、最初、シャルンホルストの正体をはかりかねて、戦うか逃げるか態度を決めかねていました。しかし、停戦と降伏の勧告を受けると敵であることを認識し、交戦を決意しました。フッド号の火力からすれば、サイド3の宇宙艦など敵ではないと考えられていましたので、これは妥当な判断と言えました。しかし、まさに海賊退治のために建造されたチベ級を相手にするには、この判断は無謀でありすぎました。
先手を取ったのは、シャルンホルスト側でした。シャルンホルストの艦首に装備された高初速、高精度な長距離砲撃用の30センチ砲の連装砲塔が火を噴きました。幸運の女神に微笑まれたシャルンホルストの初弾は、フッド号から帆船の帆のように広がった放熱パネルを1枚吹き飛ばしました。
フッド号は砲撃を受けたことに気付くと、ただちに反撃の砲撃を始めました。しかし、海賊達が愛用する45口径15センチ砲の砲弾は、チベ級の重厚な装甲により弾かれてしまいました。
フッド号では、「壊れない装甲などない。もっと接近して、同じ場所に大量の弾を叩き付けろ」という指示が飛んでいました。しかし、大量の砲弾を命中させられるほど接近する前に、シャルンホルストの砲弾はフッド号のエンジンを貫通し、動力ブロックを中心に大爆発を起こしました。そして、フッド号は海賊手配リストから消されることになりました。
この出来事が知れ渡ると、小惑星帯の海賊達は震撼しました。チベ級の火力に対抗する手段を、この時点での海賊は持ち合わせていなかったのです。
シャルンホルストは、更に3隻の海賊船を破壊するか降伏させ、そして、サイド3に帰還していきました。
そして、海賊達はチベ級の弱点に気付きました。そう、チベ級は一隻しか完成しておらず、しかも、長期間小惑星帯で活動することはできないということです。補給と整備のためにサイド3に戻っている間は、再び海賊の天下が戻ってきたのです。
サイド3側でもこの事実は重く受け止められていました。最低でももう一隻作らなければ、海賊対策として万全ではないと言えました。チベ級の2番艦以降も、急ピッチで建造が進められました。
しかし、チベ級と海賊の戦いは。遙か遠い辺境の出来事であり、地球連邦側では、海賊相手の戦闘が相も変わらず続いているという認識しかありませんでした。
実際、シャルンホルストが帰還すると、海賊達はそれまで通りの暴れっぷりで木星船団を襲撃しており、その状況から何かが変わったということを感じ取るのは無理だったのかも知れません。
しかし、明らかに風向きは変わり始めていました。
続きます。
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