正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
完成したサラミスへの一般兵士の第1印象は、「ブリキ缶」という愛称によく現れています。装甲と言うにはあまりに薄い船体に、乗組員は恐怖を感じたと言います。
実際、サラミスは多目的巡洋艦と分類されますが、海上海軍の艦艇と比較すれば、小型の巡洋艦と言うよりは、大型の駆逐艦に近い性格を持った艦であると言えます。
しかし、連邦軍の将軍が艦隊演習中に突然倒れたとき、治療設備が整ったルナツーまで、サラミスが記録的な素早さで輸送した事件を契機に、サラミスの価値が見直されていきます。艦隊の戦力として考えれば食い足りない部分が残るとしても、連絡や急病人の輸送などには、高加速のサラミスは実に便利だということが分かってきたのです。
また、サラミスは大量に建造が進んだため、どの部隊でも潤沢に所有することができました。マゼラン級の配備を求めてもなかなか首を縦に振らない兵站部にも、サラミスをくれと言えば、3～4隻をまとめて、どさっと送ってくれたと言います。サラミスは、やがて、連邦宇宙軍には無くてはならない存在となり、「連邦宇宙軍のタクシー」とい愛称で呼ばれるようになりました。
つまり、そこそこの地位がある者なら、手近のサラミスに飛び乗って行き先を告げればひとっ飛というわけです。
ジオン公国のテロ活動が活発化すると、これを抑止するためにサラミスは大活躍しました。何か怪しいものがあると連絡が入れば、すぐさまサラミスが大加速で急行して、まだ事が起こっていなければ抑止力として働き、起こってしまった後なら、住民の避難などに活躍しました。
この活動がピークに達したのは、全バンチ一斉蜂起未遂事件であったと言えます。ジオン公国は、全てのスペースコロニーから一斉に反地球連邦運動を盛り上げるべく、『反地球連邦運動全バンチ一斉蜂起デー』なるイベントを企画しました。さすがに全てのコロニーでとは行かないものの、主要なバンチにおいて、大集会と連邦関連施設への爆破テロが計画されました。
スペースコロニーでは、多かれ少なかれ、地球連邦政府への不満が渦巻いていましたので、この不満を糾合されては、地球連邦としては非常にやっかいな状況になります。このイベントを何とかして潰さねばならない、ということで、特にきな臭いバンチに向け連邦軍の出動が命令されました。
しかし、全バンチ一斉蜂起デーまで日数がほとんどありませんでした。そこで連邦軍が所有するありったけのサラミスがかき集められ、安全限界ぎりぎりの大加速で、各バンチに向けて出発しました。
サラミスはバンチ内部に侵入し、回転軸上に停泊し、コロニー中央部からコロニー内を威圧しました。
ジオン公国は、サラミスのごときブリキ缶、取るに足らないという態度でしたが、その他のサイドの反応は違いました。あっという間にコロニーをガラクタに変えられるだけの武装を持った本物の戦闘艦が、民間コロニー内に停泊しているということが、住民に対して大きなプレッシャーとなりました。
結局、全バンチ一斉蜂起大集会は、ほとんど人が集まらず、反地球連邦的な運動の盛り上がりは見られませんでした。
そして、ジオン公国のテロリストによる連邦関連施設の爆破は、スペースノイドも巻き込み、多くの血を流す結果となりました。
サイド6では、それだけに止まらず、コロニー内で停泊するサラミスに向けて、どこから持ち込んだのか小型の対艦ミサイルを発射するという事件まで発生しました。幸いミサイルは外れましたが、万が一にも命中した場合のことを考えると、サイド6住民は恐怖におののきました。サラミスが姿勢制御を失えば、コロニー回転軸上に止まることはできなくなり、コロニーの地面に落下する危険がありました。それは普通の住宅地や学校・病院への落下の危険があることを意味していました。そのような危険な行為を行ったジオン公国への支持は、スペースノイドの間からも急速に失われていきました。
これが、1年戦争序盤におけるジオン公国におけるスペースノイド惨殺の引き金になったことは間違いありません。ジオン公国の理念に共感しないスペースノイドは、ジオン公国としては容認しがたいものであったのです。
そして、このような状況を作り出したのは、サラミスが迅速にきな臭いバンチに進出できたからということが言えます。その意味で、サラミスこそが、1年戦争の歴史を形作った艦であると言えるかも知れません。
続きます。
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