正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
1年戦争直前の5年間、連邦議会は、ジオン公国との融和と軍事対決の間を何度も揺れ動いていました。有事への備えとして軍事予算は大幅に増額されていたものの、具体的に強化された軍事力をどう使うかという点になると、各派各論が異なっており、地球連邦政府として1つの目標を定めることができませんでした。
しかし、このような政府内部の政争に明け暮れていられたのは、裏を返せば、圧倒的連邦優位の状況が宇宙で形作られていたためと言えます。サイド3(ジオン公国)とサイド6を除く全領域が、連邦への絶対的忠誠を表明しており、もし軍事衝突が勃発するとしても、アースノイド対スペースノイドの最終戦争ではなく、テロリスト集団サイド3と、(中立指向のサイド6を除く)その他全ての戦いになるはずでした。
そのような状況をもたらした最大の功績は、連邦軍の全域常駐構想にあったと言えます。連邦宇宙軍にあっては、通常、宇宙艦は根拠地にあって、時々、管轄範囲を巡回する程度の活動しか行っていませんでした。しかし、ジオンのテロリストへの対抗手段として、人類が居住するあらゆる場所に連邦軍を駐留させ、どんな場所で事件が起ころうと、サイド内では1時間以内、その他の領域でも8時間以内に駆け付ける態勢が整えられました。
そして、その構想を担ったのが、サラミスでした。どこの民間港の片隅にもサラミスが係留されているのが見られるようになり、どんな些細な事件であろうと、ジオン絡みとなれば即座に出動しました。
ジオンのテロ活動は、これにより非常に低調に抑えられ、多くのサイドでは、ジオン公国に勝ち目はなくなったと評価を下されていました。
もしジオンがこの状況を打開しようと思えば、サラミスを沈めるために艦隊を出動させねばなりません。しかし、そうすれば連邦軍もマゼラン級を中心とした主力艦隊を出撃させ、ジオン艦隊を葬り去ることは明らかでした。ジオン公国は、完全に手詰まりであると誰もが考えていました。
さて、一方で、連邦軍は問題も抱えていました。連邦宇宙軍は、巨大組織に成長しつつあり、しかも、あらゆる場所に艦を駐留させた結果、軍の組織を維持するというただそれだけのことに、大きな労力を必要としていました。物資や人員の輸送量は膨大なものに上り、手持ちの輸送船だけでは足りなくなり、多くの民間船を徴用しました。しかし、それだけでは足りず、多くのサラミスが、部隊間の連絡用に駆り出されました。
それは連邦にとって好ましい副作用を生みました。日常的に連邦軍の戦闘艦が宇宙を飛び回り、多くの民間人に目撃される状況は、彼らにこの宇宙は連邦のものであると強く印象づけました。多くのスペースノイドは、連邦に忠誠を誓った方が有利だと考えたのです。その結果、彼らは、1年戦争序盤において、ジオン公国の攻撃対象となったのです。
1年戦争開戦時、サラミスはあらゆる場所に配備されていたため、ジオン艦隊の初動の矢面に立たされたのはサラミスばかりでした。
しかし、周到に戦争準備を行ってきたジオン艦隊は、1隻からせいぜい3～4隻を単位にして押っ取り刀で出動してくるサラミスを軽く蹴散らしました。この時点で、ジオン軍の将兵は、サラミスは恐れるに足りないということをはっきりと印象づけられました。そして、その後の戦いでは、ジオン軍はサラミスを無視してマゼランのみを攻撃しようとしました。
その結果、ルウム戦役の終了時には、マゼランの7割が失われていましたが、それと比較してサラミスの損害は大したものではなく、完全に失われたものは1割にも満たず、多くは軽い損傷で、修理後にすぐに所属艦隊に復帰したと言います。
ルウム戦役後、サラミスは宙空間を高加速で飛び回り、寸断された連邦宇宙軍の組織の建て直しに活躍しました。装甲など無いに等しい「ブリキ缶」のサラミスも、加速性能という点に限れば、いかなるジオン艦をも上回っていました。その結果、飛び回るサラミスをジオン艦が発見しても、それを撃沈することは至難の業でした。ジオン軍の将兵は、高加速で逃げるサラミスを見て、「逃げ足だけは速い」と馬鹿にしましたが、それは正しい態度ではありませんでした。飛び回ったサラミスのおかげで、連邦軍は組織としての秩序と戦闘力を取り戻し始めたのでした。
続きます。
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