正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
見事に反り返ってしまった建造中のグワジン級の艦体。技術者も原因が分からず匙を投げました。
そんなメーカー側の態度で納得しない政府関係者は、各分野の専門家を招いて、厳重な機密保持契約にサインさせた上で、ドックに招きました。
その努力は報われ、専門家達の一人がすぐに答えを見つけました。それは溶接の専門家で、どんな難しい溶接もやってのけるという評判の大ベテランでした。彼は、概要を聞くと即座に、溶接作業の計算書を要求しました。そして、それをぺらぺらとめくると、実際に反り返った艦体を見ることなく、すぐに結論を述べました。
「溶接時の収縮率の違う異なる合金を混用したのに、収縮率の違いを計算に入れていない」
つまり、収縮率の大きい合金が多用された艦上部が大きく縮み、結果的に船体が反ってしまったというのです。
計算と作業を担当したメーカーでは、このような事態は、過去に経験の無いことでした。メーカーがやってきた民間船では、異種材料の混在利用という金の掛かる贅沢は許されず、すべて単一素材の溶接で組み立てられていました。また、船体が巨大になれば狂いが累積して、小さな狂いも大きなものになりますが、これほど大きな船体は手がけたことがありませんでした。その上、グワジン級で初めて使うという材料も多く、素材の物理特性も、よく把握できていなかったのです。
このことを明らかにした専門家は、溶接のプロならその程度分かって当然だと言い残して帰りました。
それを聞いて、グワジン級の計画を推進していた政府関係者も、このメーカーは本当に技術力があるのだろうかと疑い始めました。
しかし、もはや後戻りができないほど、グワジン級の建造は進んでいました。今更、このメーカーは当てにならないから発注取り消しとは言えなかったのです。
そして、問題なのは反り返った艦体でした。今更作り直すだけの予算もスケジュールの余裕もありません。
政府関係者は、サイド3じゅうの宇宙船建造のプロをリストアップして、能力のありそうな者を政府からの要請として出向させ、ドックに勤務させました。
彼らは、艦体を子細に検分した結果、一度真ん中で輪切りして、水平に繋ぎ直すしかないと結論しました。これで、狂いは誤差の範囲内に収まるという計算になったのです。接合部分には、生じるはずの隙間とピッタリ同じ形の補填材を入れることになりました。
しかし、艦体を輪切りにすると言っても、マゼランの主砲の直撃に耐えることを前提とした装甲に覆われたものですから、そう簡単には行きません。
精密に位置をコントロールしながら、ほんの少しずつ船体を切断する作業は、完了するまでに一ヶ月を要しました。しかし、それで終わりというわけではなく、もう一度繋ぎ直すという作業が残っていました。
またもや、予定外の予算が費やされ、スケジュールは大幅に遅延しました。
この事態をどう収拾すべきか。政府関係者は上から下まで悩みました。
「いっそ独裁制にして、民衆の意見など気にせず国家運営できればいいのに」と彼らが愚痴るようになりました。
それは、いつの間にか、愚痴から現実の計画に変化していきました。
連邦に対抗するには、サイド3の住民が、みな一丸となって耐えるしかない、という主張が政府から繰り返し宣伝されました。その宣伝は、やがて、資源を無駄なく有効に使わねば連邦には勝てないから、資源を全て政府がコントロールする必要があるのだという主張に変わりました。そしてそのままエスカレートして、ジオン公国の構想へと発展しました。それが過半数の世論の支持を得ると、デキン・ザビは、公王の肩書きをサイド3議会より与えられ、議会は無期限解散となりました。
これで、グワジン級のために使われた、当初予算にない多額の予算について文句を言う者は誰もいなくなりました。また、具体的なグワジン級の完成時期についても国防機密として民間に明かさないという態度をとれるようになりました。
それと平行して、実はとっくに完成しているのだとか、本当はもっと凄い戦艦を作るために建造がキャンセルされたのだとか、様々な噂が流され、実態をカモフラージュしました。
続きます。
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