正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ファットアンクルは、確実に制空権を取っている後方空域での物資特にモビルスーツの輸送のための機種ですから、いつ敵が出てくるか分からない最前線まで飛んでいくことは想定外のことでした。また、左右の大型ローターによって浮力を得ている一種のヘリコプターですから、狭い平坦地に着陸できるメリットと引き替えに、燃費が悪く、長距離飛行には向いていませんでした。
ところが、徐々にそうは言っていられない状況に陥り始めました。
マッドアングラー隊のシャア・アズナブルより、「ジャブローの入り口らしき場所を発見。増援を求む」という連絡が入ったとき、それははっきりと形を現しました。
これはチャンスと見たジオン地上軍は、全面的にシャア・アズナブルを支援しようと決定し、やっとものになったばかりのMSM-10ゾックを始めとする最強の水陸両用モビルスーツ隊を増援として送ることになりました。
ところが、決定されてから、それをシャア・アズナブルの許に送る方法が無いことが判明しました。
常識的に考えれば、潜水艦で送るのが最も安全で確実です。しかし、シャア・アズナブルは現にジャブロー近辺におり、時間を掛けることはできませんでした。これがザクやグフなら、ドダイで運ぶという選択もありました。しかし、あまりに重いゾックをドダイで運ぶことは無理でした。ドダイで手に負えない重い装備も、ガウなら運べるはずでした。しかし、ザクを運用することを前提としたガウの格納庫に入れるには、ゾックは巨大すぎました。
じゃあ、他にゾックを運べて、大気圏内を飛行できる機体はといえば、その時点で北米にあったのは、ザンジバルとファットアンクルだけでした。
しかし、ザンジバルは基本的に宇宙軍の持ち物で、いくらミノフスキークラフトで大気圏内を飛行できると言っても、危険な輸送任務に喜んで貸してくれる訳がありませんでした。
とすれば、もう残されたものはファットアンクルしかありません。
ファットアンクル装備の輸送隊の方は、この任務に激しく反対しました。敵戦闘機に攻撃されればなすすべなく撃墜されるというだけでなく、そもそも航続距離が不足していました。たとえ帰路のことを考えなくても、シャア・アズナブルの潜伏する場所まで飛ぶことは不可能でした。
しかし、着々と準備は進行していきました。途中までドップの小隊が護衛することが決まり、更に、空中給油機仕様のガウが往路と復路でそれぞれ2回ずつ給油を行うことが決定されました。
確かにファットアンクルの空中給油は、たまに必要に迫られて行われることでしたが、ジオンの制空権外で行うのは、いかにも無謀でした。
それから、ルッグン2機が飛行コースを先に飛んで、ミノフスキー粒子を散布することも決定されました。しかし、それはある意味で気休めに近いものだと言えました。これほど長い距離、十分な濃度でミノフスキー粒子を散布する能力はルッグンには無かったのです。
これは本当に駄目かも知れないと思いつつ、ゾックやゴッグを搭載したファットアンクルは離陸しました。そして、護衛のドップ編隊が、その後から離陸しました。巡航速度の速いドップはすぐにファットアンクルに追いつきましたが、そのままではファットアンクルを追い越してしまいます。
ドップは、低速機に随行する場合によく使われる左右を往復しながら飛行する方法を取りました。この方法は、一見、大型機を戦闘機が攻撃しているかのように見え、時として敵を欺ける方法でもありました。
地上からジオン航空機を監視しているスパイを欺けますように、とファットアンクルの乗員は祈りました。
しかし、ドップの航続距離は短く、すぐに護衛機は引き返していきました。
ファットアンクルは、そのまま予定通りのコースを飛行しました。しかし、ミノフスキー粒子のために、無線通信がうまくできず、空中給油機が予定通り離陸したかどうかも確認できませんでした。
ファットアンクルはそれでもレーダーに引っかかることを恐れ、低空を飛行し続けました。
予定通りの場所で空中給油機と出会うことに成功すると、ファットアンクルの乗組員達はホッとしました。空中給油機からの情報で、作戦は順調に進行中であることがファットアンクルにも知らされました。
続きます。
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