正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ファットアンクルは、モビルスーツを搭載して、南米ジャブロー付近に潜伏するシャア・アズナブルの部隊に向けて、順調に飛行していました。
天気も良く、エンジンも快調。まるで何の問題もないかのような、素晴らしい飛行日和でした。
ミノフスキー粒子の影響で、無線連絡も入らず、戦時ではないかのような、のどかな雰囲気すらありました。
ところが、仕事もほとんどなく、暇なので後方見張りを担当していた通信士が、超音速で接近する2つの機影を発見しました。
敵か!?
味方か!?
機内はさっと緊張しました。
超音速で飛行することができる機体の種類は敵味方を通じて多く、即座にどの機種か断定はできません。しかし、もしこの2機が巡航状態で超音速飛行しているなら、そんな真似が平然とできるのは、連邦のTINコッドしかあり得ませんでした。ジオンのドップは、旋回性能重視の軽戦闘機であり、高速性は重視されていない機体でした。しかも、ドップのけして長くはない航続距離から考えれば、このあたりまでドップが飛んでくる可能性はほとんど考えられませんでした。
やはり敵なのか!?
しかし、ただのヘリコプターに過ぎないファットアンクルの最大速度などたかが知れています。超音速で飛んでくる敵から逃れることはできません。
ファットアンクル側では、気付いていないふりをして飛行を続け、攻撃される直前に回避運動を行おう、と言うことになりました。そこで、ファットアンクルの乗員達は、息を殺して敵機の動きを見つめました。
2つの機影はファットアンクルに接近すると速度を落とし、ファットアンクルの周囲を旋回し始めました。
間近で見る機影はまさに連邦のTINコッドでした。
しかし、旋回するだけで攻撃してきません。
撃ってこない!?
いったいどうして!?
通信士は、通信機に何やらノイズ混じりの声が届いていることに気付きました。
「ジオン……、危険……、空域……、待避……」
どうやら、このあたりの空域にジオン軍がいるから待避しろと言っているようでした。
通信士は同じ周波数で、何回も「了解」と叫びました。
すると、それが通じたのか、TINコッドは旋回をやめ、再び加速してはるか遠くに向かって飛び去りました。
戦後の資料公開により、この時の連邦のパイロットは、民間機を発見して警告を発したことが判明しています。彼らはファットアンクルという機体が存在するという知識は持っていたものの、現物を見たことはなく、発見した機体を民間機と誤認したということでした。もちろん、視界の狭いTINコッドの構造も、誤認させた理由の1つでしょう。また、このあたりに、ジオンの輸送機が悠然と飛んでいるはずがないうという思いこみがあったのかもしれません。
ともかく、あまりに大きな幸運に助けられ、ファットアンクルは撃墜を免れました。
そして順調に2回目の空中給油を受け、とうとうシャア・アズナブルの指揮する潜水艦、マッド・アングラーの艦上に着艦することに成功したのでした。
さっそく出迎えたシャア・アズナブルは言いました。
「ゾック? こいつは使えるのか?」
そんなことを訊かれても、ファットアンクルの乗員は運ぶだけで命がけで精一杯。運んだ兵器の性能まで把握する余裕などあろうはずがありませんでした。
そこで、「ザクの5倍のジャンプ力だそうであります」などと適当なことを言って、早々にモビルスーツと物資を降ろすと、すぐに帰路に就きました。
帰路の1回目の空中給油は順調に実現しました。その後、敵機と遭遇することもなく、空荷のファットアンクルは順調に飛行しました。
しかし、待てど暮らせど、2回目の空中給油をしてくれるはずの給油機は現れませんでした。無線通信で確認することもできず、ファットアンクルの乗員は途方に暮れました。
しかし、北米の基地まで飛行する燃料はどこにもありません。
続きます。
ご注意: このコンテンツは、「バーチャルネットライター と~のZERO歳」と呼ばれるサイトに書き込まれた内容を変換して、本サイトに転送したものです。このコンテンツの内容は、「と~のZERO歳」という仮想人格が書いたものという設定であり、謎のアニメ感想家トーノ・ゼロと限りなく近いものの、必ずしも同一人格ではないことをお断りしておきます。