正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ジオンが地球上に降下し、そこで戦うことを決定した後、予想外の問題が発生しました。それは、実際に地上に降りる予定の兵士達が、いったいどこで寝るのかという問題でした。
もちろん、ホテルや宿舎を確保できる場合は問題ありません。しかし、実際の戦闘ともばれば、テント生活や、塹壕で野宿という可能性もありました。
ところが、地球で生活した経験の乏しいジオンの兵士達の多くは、テントや野宿を異様に怖がりました。彼らは、壁で囲まれていない場所で寝たことがないだけでなく、様々な野生生物が歩き回る地球上の環境を過度に恐れていました。
ジオン軍の上層部は、兵士達の抵抗感が予想外に強いことに驚かされました。このまま地球への降下作戦を実行すれば、兵士達が反乱を起こしかねない状況でした。
そこで、ジオン軍では、大至急、地上専用装備として、組み立て式の移動住居かき集めて、地上に持っていく必要に迫られました。しかし、それは軽量化のためにペラペラの薄い壁しか持っておらず、軍事的な意味での安心感には程遠いものでした。それに、展開、組立、設置に必要な労力も馬鹿になりません。迅速に戦況の変化に対応するのに、適した装備とは言えませんでした。
そこで、地上において兵士に寝泊まりする場所を提供する装甲車両を開発するという計画が急遽持ち上がりました。民間用の大型トレーラーハウスをベースにして、装甲と自衛用の軽武装を追加して、兵士の移動住居とするわけです。
これは、それほど難しい話ではなく、ジオン国内の自動車メーカーでも迅速に開発できそうでした。
よし、これで何とかなりそうだと関係者が安堵したとき。
偉い人が素敵なアイデアを思いつきました。
「戦闘で疲れるのは兵士だけではない。モビルスーツも傷つき、修理と整備を必要とするのである。モビルスーツを収容して安全に整備する能力も持たせなければ十分とは言えない」
そのように強く意見され、装甲トレーラーハウスの開発プランは、人間を収容するためのものから、モビルスーツを収容するためのものに、変質し始めました。
更に、地上で指揮を執るために、必要な設備を追加したら良いのではないかという意見も出され、話は大きく膨らんでいきました。
結局、兵士が安心して眠れる場所を提供するという最初の目的は、どこかに消えていき、そのかわりに地上戦の指揮と、モビルスーツの輸送と整備を主要な役割とする地上戦闘支援車なる装備が開発されることになりました。
大至急の突貫作業で開発が行われましたが、途中で、1機種では全てのニーズに対応できないことが明らかになり、大中小の3機種を開発するということになりました。『小』は最前線で使用することを前提とした車両で、ザク3機を収容し、ホバーで高速移動可能の車両とされました。『中』は、戦いの陣頭指揮を執る前線司令部として運用されることを前提とした車両で、モビルスーツ運用能力よりも、司令部設備が重視されました。『大』は、モビルスーツ36機を収容し、戦闘機や爆撃機を離発着可能な飛行甲板すら持つ、移動する要塞とでも言うべき怪物でした。
このうち、『中』は地上戦闘支援車ダプデとして実現しますが、よほど平坦な場所でなければ移動することができず、少しでも大きな凹凸に邪魔にされると、解体して輸送して再組立する必要が生じました。
『大』の方は、完全に構想倒れで、実際に作ることはできないことがすぐに明らかになり、計画は中止されました。
『小』は、地上戦闘支援車(最前線での通称は陸戦艇)ギャロップとして実現しました。しかし、サイド3で計画時には、『小』と呼ばれていたにも関わらず、いざ地球上に持って行ってみると、ギャロップは異様なまでに巨大でした。
市街地で走行させるには6車線道路の幅が必要で、郊外に出れば、2.5メートル以上の段差があると、そこを通過することができませんでした。ギャロップはホバーで高速走行できるはずでしたが、実際には、段差に注意しながらゆっくりと走らせることしかできませんでした。
続きます。
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