正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
モビルスーツという兵器は、極めて故障率の高いものでした。あれだけ多くの可動部分と高出力を持っていれば、当然の成り行きといえます。しかし、それに加えて、地球上という環境が、泥、埃、湿度、風、など、様々なトラブル要因に満ちていたことが、更に事態を悪化させました。
そのため、最初にジオンが地球上に持ち込んだモビルスーツは次々と故障に見舞われ、緒戦の大勝利をそのまま拡大できず、戦争は膠着状態に陥りました。
この状況で戦場にやって来たギャロップは、モビルスーツ隊にとって救いの女神にも見えました。ザクを立ったまま収容できる巨大は整備スペースを、ある程度平坦な場所ならどこにでも持っていくことができるというのは、それまでの常識では考えられない素晴らしいことでした。
保有する機体の3分の1が稼働すればマシな方、という状況は、ギャロップの整備能力のおかげで、常時ほぼ3分の2が完全稼働可能という状態まで改善されました。こうなると、ジオン軍の指揮官は、欲が出てきます。モビルスーツさえ完全に稼働すれば、地球降下直後に見られたような大進撃が可能になるに違いないと思ったのです。
さっそく、各地で極秘の侵攻作戦が準備されました。よし、これで更なるジオンの勝利は間違いないと誰もが思っていたそのとき。連邦軍が戦力を強化しているという情報が次々と飛び込んできました。しかも、侵攻予定地域に限って、戦力が強化されているではありませんか。
それでジオン軍の作戦が失敗すると思ったわけではありませんが、機密情報が漏れているとすれば、事態は重大です。
さっそく情報部関係のスタッフが動員され、どこから情報が漏れたのか調査が開始されました。それに対応して、作戦の発動はしばらく延期されました。
そして、誰もが予想しなかった驚くべき真相が判明したのです。
ジオン占領地域の住民の多くは、自分たちは地球連邦の市民であるという意識を持っていました。そして、電話や情報回線網の全てをジオン軍が掌握しているわけではありませんでした。ジオン制圧地域内から、地球連邦関連施設に電話を掛けると、大半はブロックされましたが、10回に1回ぐらいは通じてしまうという問題がありました。
ジオン占領下の市民の間では、重大なジオン軍の行動を見ると、さっそく電話して通報してみるということがよく行われていました。
これは通常、問題にはなっていませんでした。たとえば、ジオンのモビルスーツの輸送を見たという情報が伝えられたとしても、それが即、作戦情報の漏洩とは言えなかったのです。市民は、修理のために後送されるモビルスーツを見ても興奮して大騒ぎし、慌てて電話をしていたのです。そのような情報を集計しても、ジオン軍の作戦目標が相手に伝わる気遣いはありませんでした。
しかし、今度ばかりは違いました。少数のギャロップの所在情報は、ジオン軍の作戦目標と密接な関係があったのです。
市民はビルほどのサイズを持つギャロップの移動を目撃すると、皆、驚いて連邦軍に通報しました。更に、ギャロップが腰を据えて動かなくなると、また周辺住民が驚いて通報しました。
その時点で、連邦軍はギャロップがモビルスーツ整備のための移動基地としての性格を持っていることを突き止めていました。ということは、そこから連邦軍は次に何が起こるかを推理できました。多数のモビルスーツを整備して、それを戦闘に参加させないで温存しているとなれば、結論は1つです。一気に戦力を投入して攻めてくるとしか考えられません。
そうと分かれば、ジオンが攻めてくるまで待つ必要などありません。逆襲のために戦力を集めておくことができます。いくらザクが強くても、はるかに多くの数の61式戦車を揃えれば負けると決まったものではありませんし、あらかじめどこから攻めてくるか分かっていれば、砲兵隊の射撃で弱体化させることも可能です。
本当なら、ギャロップそのものを破壊してしまいたい、と連邦軍は考えました。しかし、ギャロップは、砲兵隊の射程距離外に腰を据えて整備を続けていました。フライマンタで空襲しようにも、ギャロップは、どこでも、ドップがすぐに駆け付けられる地域に腰を据えていました。ドップが支配する空域にのこのこ出ていけば、大きな損害が出るのは必至です。
何か良い手はないか、と連邦軍は考えました。
続きます。
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