正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ジオンで高まるギャロップ不要論は、机上の空論でしかなく、現場では依然としてギャロップは必要とされていました。何か積極的な作戦に打って出ようとすれば、ザクを稼働可能状態に整備しなければなりませんが、ギャロップの設備抜きでは、あまりに時間が掛かりすぎました。
しかし、不要論を唱えているのは偉い人たちです。それに異を唱えれば、たとえ主張が正しくても、最も危険な戦場に左遷させられる恐れがありました。
誰もがあえて口を閉じていたとき。
そこで主張を口にする男がいました。
多くの実績を持つ武人ランバ・ラルです。
さすがに、このクラスの有名人が意見を述べれば、偉い人も無視はできません。そして、ランバ・ラル自身もただ異を唱えただけではなく、自分なりのギャロップ活用案をまとめていました。
ラルはギャロップの機動性が活用されていなかったことに問題があると主張しました。自由自在に自分の力で移動できるにも関わらず、同じ場所に長時間止まっているからつけ込まれるのだ、と述べました。
そして、ギャロップは後方の安全な場所に隔離して置いておくものではなく、常に最前線部隊の中核として活用すべきだ、としました。地上軍の侵攻ルートは、あくまでギャロップが移動可能なルートを選び、そのかわり、ギャロップは常に最善の位置を占めるべく常時動き続けるべきだとラルは熱っぽく語ったのです。
更に、ラルは、ギャロップを活用した機動遊撃部隊構想も提案しました。ギャロップの移動に支障のない平坦な地域において、ザク1個小隊とその支援歩兵部隊を収容したギャロップで、遊撃戦を展開するという構想でした。
2.5メートル以上の段差が無ければ、ギャロップはザクの歩行の数倍の高速性を持って移動できました。その点を活用できれば、ギャロップは、ザクを迅速に戦場に展開するための手段としても活用できるはずだとラルは説得しました。この機動性で常に先手を取り、戦いのイニシアティブを取れば、ギャロップが入り込めない地形が存在することはさしたる意味を持ちませんでした。あくまで、ギャロップ向きの地形でのみ攻撃を行えば良いのです。
ラルは、大陸の平坦な土地で、敵の補給路を叩くといった作戦には打ってつけの方法だと述べました。
そういうラルの意見を聞くと、それももっともだと偉い人たちは思いました。しかし、ギャロップの問題点が改善されたわけでもなく、偉い人たちの思考は同じところをぐるぐる回り続けました。
こうして何ヶ月もの時間が無駄に費やされました。
そこに降ってわいたように起こったのが、ガルマ・ザビ戦死というショッキングな出来事でした。
ガルマ・ザビの仇討ち部隊に任命されたランバ・ラルは、戦場として想定される地域の地形を調べると、かつて提案した機動遊撃部隊構想を実行に移すのに最適であることが分かりました。
それだけではありません。ミノフスキークラフトで飛行する宇宙艦、ホワイトベースは航空機としては遅い部類に入るものの、地上兵器の基準で考えれば相当な高速度で移動していました。このホワイトベースに先手を取って攻撃を仕掛けるには、ザクの足を使った移動では間に合いそうにありません。ギャロップにザクを積んで先回りするしかない、とラルは思いました。この作戦は、ギャロップ抜きには成功の見込みすら薄いとラルは考えました。
更にラルはチャンスだと思いました。ここでギャロップを使いこなして、真価を見せれば、頭の固い偉い人も分かってくれるに違いないと思ったのです。
「わしが本当のギャロップの使い方を見せてやる」
そうラルは宣言すると、さっそく地上部隊にギャロップを1台融通するように連絡し、地球に降下するザンジバルに乗り込みました。
ラルの意見に賛成の者も、反対の者も、固唾を飲んで彼の行動を見守りました。
続きます。
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