正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ケンタウルス・ステーションに最初に飛来したのは、ムサイが発射したミサイル群でした。あらかじめ定められた手順通り、127mm速射砲の弾幕が、ミサイルを迎撃しました。しかし、目視照準では十分な射撃を行う事ができず、半数以上のミサイルはケンタウルス・ステーションに直撃しました。
分厚い岩盤の内部に主要設備を持つケンタウルス・ステーションは、この程度の攻撃ではビクともしません。しかし、外部に露出した観測所やアンテナ類は別でした。それらは大きなダメージを受け、中でも、敵が接近する側の観測所が破壊されてしまったのが、ケンタウルス・ステーションには致命的でした。目視で状況を確認するしかないのに、そのための場所を奪われてしまったのです。
ケンタウルス・ステーションの司令官は、腹を決めました。砲台にはともかく敵が見えたら各個の判断で撃てと命じ、そして、作業ポッド隊とセイバーフィッシュ隊はに、出撃して各自の判断で戦えと命じました。
最低限の整備を終えた武装作業ポッドは、次々と見事な操縦で、外に通じる大型エアロックに飛び込んでいきました。
その光景を、セイバーフィッシュのパイロット達は、半ば呆れたように、半ば感嘆するように見ていました。
コロニー建設現場でならした作業員達は、手足のように作業ポッドを操りました。自然と、約20機の武装作業ポッドは、工事作業でよく使われる横一列の隊列を組んで、敵が飛来する方向に向かいました。
すると、前方から、約10個の飛行物体が接近してくるのが見えました。
巨大な人の形をしたもの。
それを見た瞬間、やはり素人は素人ですから、ともかく全機が射撃を開始しました。
しかし、巨大な人型はひらりと、それをかわしていきます。
素人達は、更に慌てて射撃を続けますが、やはり当たりません。
その間に、巨大な人型は接近し、それが一つ目であることまではっきり見えるほどになりました。
人型は、自信たっぷりに巨大なマシンガンを構えたまま接近してきました。
ところが、作業ポッドのパイロット達は、かえって冷静さを取り戻していきました。あれは、コロニー建設の作業機械とあまり変わらないじゃないか。ごつごつと戦闘向きに作られているものの、ただそれだけのこと。宇宙戦闘機が相手ならどう戦えばよいか分かりませんが、作業機械を使った喧嘩ならお手の物でした。
作業ポッドの1機は、いきなり作業アームを振り回して機体の姿勢を変えました。そしてそのまま、人型兵器の後ろを取ると、本来ゲリラが宇宙艦を沈めるために取り付けた大型ビーム砲を放ちました。それは人型兵器を貫通して、大爆発を起こさせました。
これを見た他のパイロット達も、要するにこれは作業機械の喧嘩なのだということを飲み込みました。
アームを振り回して推進剤無しで姿勢を変更する画期的な大発明であるAMBAC機動も、建設現場の作業ポッド乗りから見れば、ベテランなら誰でも身体で覚え込んでいる現場のテクに過ぎませんでした。
すぐに、AMBAC機動を行う兵器同士、双方入り乱れての大乱戦に発展しました。もしかしたら、これは、1年戦争で初めて、連邦軍がザクと互角に渡り合った戦いといえるかもしれません。
しかし、兵器と作業機械の差はいかんともしがたいものがありました。数の上で優越していた作業ポッド隊でしたが、2対1でもザクの優勢は動かし難いものでした。何しろ、分厚い装甲に守られたザクは敵弾がかすったぐらいでは何ともありませんが、作業ポッドはザクマシンガンの銃弾にかすられるだけでフレームがガタガタになって、戦闘継続できなくなりました。
1機、また1機と作業ポッドは撃破されていきました。更に2機のザクを撃破された頃には、作業ポッドの数は半数以下にまで減っていました。
「やっぱりつええ」と作業ポッドのパイロットが痛感していた頃。
セイバーフィッシュ隊は、大型対艦ミサイルを装備してムサイに向かっていました。ザクが作業ポッド隊に気を取られている内に、母艦を叩いてしまおうという作戦でした。しかし、ミノフスキー粒子による電波妨害を受ける状況で、確実な航法を行うことは不可能でした。太陽、地球、月の位置を確認しながらの山勘航法で、セイバーフィッシュ隊はムサイに向かって飛びました。
そして、彼らは幸運の女神に微笑んでもらうことに成功しました。ムサイを遠くに目視したセイバーフィッシュ隊は、腹に抱えた大型対艦ミサイルを次々に発射しました。
続きます。
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