正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ケンタウルス・ステーションでの作業ポッド隊の活躍は、驚くべきものがありました。連邦軍の正規の宇宙戦闘機セイバーフィッシュよりも、ずっと優れた結果を残したと言っても、過言ではありませんでした。
その理由は、主に2つあると考えられました。それは、原始的なAMBAC機動を既に実現していたこと。そして、もともと対艦攻撃を想定した大火力ビーム砲を装備していたことです。主にジオンのガトル戦闘艇を仮想敵としたセイバーフィッシュの固定武装ではザクの装甲を撃ち抜くことはできませんでしたが、武装作業ポッドのビーム砲なら可能でした。
もちろん、武装作業ポッドが性能面でザクに匹敵すると言うわけではなく、結局勝てなかったのは事実です。しかし、もっと戦闘を意識した改良を加えれば、有力な戦力として活用できる見込みがあるかもしれません。作業ポッドの改良なら、新規にモビルスーツを開発するよりも、はるかに短期間で実現でき、製造コストも安いはずです。
そのようなことが綿密に書かれた報告書がケンタウルス・ステーションの司令官によって書かれ、ルナツー経由でジャブローに送付されました。
ルナツーでは、ケンタウルス・ステーションでの戦いの経緯はよく知れ渡っており、この報告書は重大な価値があると言うことで、大至急ジャブローに転送されました。
しかし、それを受け取るジャブローは大混乱状態でした。時まさに南極条約の混迷した会議の日々から、ジオンの地球降下作戦に至る時期でした。
ジャブロー内では、たかが1ステーションの司令官ごときが書いた報告書に目を通す余裕のある者はいませんでした。
その結果、約2ヶ月に渡って、報告書は関係者の机の上で眠り続けることになりました。
その間、ジャブローでは、ジオンのザクに対抗する様々な手段が考案され、議論され、開発や試作が開始されていました。連邦のモビルスーツ開発計画も、徐々に形を成しつつありました。戦線も膠着状態に陥り、ジャブローにも一息つく余裕が出てきました。
そこで、ジャブローでは全面的な戦時組織への改編がおこなわれることが決定されました。宇宙と地上の両方で立体的に展開される戦況に対応するために、縦割りの組織を実情に即した形に再編しようというわけです。
ジャブロー内のあちこちで、書類の山を抱えて、新しい部署に移動する者達が見られました。
そんなとき、引っ越し荷物を整理している一人の佐官が、机の上から記憶にない報告書を発見しました。
それは、武装作業ポッドの戦果と有用性に関する報告書でした。
佐官は引っ越しの準備を放り出して、夢中になってそれを読み始めました。
そこには、連邦軍が早急に必要としていた分野の兵器の具体的な構想が全て書かれていました。
連邦が反撃の主力として想定していたモビルスーツはあまりに高価すぎ、必要な数を揃えられない可能性が懸念されていました。また、量産までの手順の多さから、どんなに急いでも早期の反撃には使えませんでした。しかし、もしのんびり準備をしていると、その間にジオンの大攻勢を受けて、連邦が敗北してしまう可能性がありました。
つまり、モビルスーツが完成するまでの間、戦線を支えるべき兵器が必要とされており、また、モビルスーツが完成したあとには、数の不足を補うための何らかの安価な兵器が必要だと考えられていたのです。
武装作業ポッドは、まさにそれにうってつけの兵器でした。
さっそく、このアイデアはモビルスーツ開発部隊に持ち込まれましたが、彼らは既存の開発計画だけで手が一杯で、武装作業ポッドを設計する余裕はありませんでした。
そこで、軍用作業ポッドなどを開発する部門にアイデアは持ち込まれ、そこで実現する運びとなりました。
部門が違うためRXナンバーではなくRBナンバーを与えられた武装作業ポッドは、迅速に開発を完了し、RB-79ボールとして制式採用されました。といっても、設計のベースは既存の作業ポッドであり、新機種を開発したと言うより、既存の作業ポッドのバリエーションを1つ増やしたようなものでした。
しかし、すぐに問題に突き当たりました。アームを振り回す原始的なAMBAC機動は、軍の宇宙戦闘機パイロットには簡単に修得できないものだったのです。
続きます。
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