正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
あくまで緊急時の代用品として、終戦後には消えて無くなる予定だったRB-79ボール。ところが、いざ廃棄しようとすると、あちこちから「待った」の声が掛かりました。連邦軍の偉い人たちに取って、連邦軍の力を誇示するモビルスーツ部隊を維持することが重要でしたが、現場レベルでは差し迫った戦災復興という仕事が課せられていたのです。
もちろん、破壊され、荒廃した多数のスペースコロニーを再生する役目は、連邦軍ではなくコロニー公社にありました。それを連邦軍の装備で手助けする必要などまったくありませんでした。しかし、宇宙の各所に存在する軍関連の装備、施設などの消耗や被害も激しいものがありました。これまではジオンに勝つまではと先送りにされてきた多くの問題が、どっと連邦軍の現場に押し寄せてきたのです。実際、戦闘部隊は次々に解散され、多くの兵士が除隊して故郷に帰っていきましたが、間接部門や補助任務部隊は戦後処のために、戦争中と変わらぬ忙しさに追いまくられました。
そして、実際に宇宙の設備を点検補修するために必要だったのは、モビルスーツではなく、作業ポッドでした。いくら装甲と火力とパワーがあっても、図体が大きく、微妙な操作に適さず、燃費も悪いGMは、現場からは好まれませんでした。
そこで、ボールをスクラップにするぐらいなら、こちらの部隊に寄越せと言う意見があちこちから出されました。
本当なら、新規に作業ポッドを大量発注して対処すべきところでしたが、戦争が終わったことで予算が大幅に削減されており、そんな贅沢をする余裕はありませんでした。次善の策として、ボールを改修して、武装を外し、完全な作業ポッドとして再生する計画が提案されましたが、予算面で苦しいだけでなく、すぐ欲しいと要望している現場のニーズにも応えられませんでした。
そこで、書類上、RB-79ボールは全てWP-79T(79式作業ポッド甲型)という形式名に変更され、戦闘兵器ではなく作業ポッドに過ぎないとした上で、各部隊に引き渡されることになりました。
各部隊では、勝手に重くて邪魔なビーム砲を取り外して、これらのWP-79Tを作業ポッドとして運用しました。しかし、予算削減で装備の足りない連邦軍ですから、反地球連邦勢力の脅威が高まったりすると、WP-79Tに再度ビーム砲を乗せてGMの不足を補う、ということも行われました。
つまり、書類上RB-79ボールは全て終戦後に消滅したことになっていましたが、現場レベルではGMとボールのコンビは健在であったわけです。
しかし、宇宙世紀0083のデラーズフリートの蜂起を契機に、連邦軍への予算の大幅な増額が認められるようになました。その結果、各種装備の更新と拡充が進みボールでモビルスーツの不足を補う必要性は低下しました。そして、武装したWP-79Tが戦闘部隊のモビルスーツと行動を共にするような光景は見られなくなりました。
しかし、宇宙における拠点周辺の武装パトロールなどにはWP-79Tが用いられることは、その後20年ほど続きました。皮肉にも、1年戦争時代に就役したGMは数年で次々と引退して新型に取って代わられたにも関わらず、ボールの方は20年以上に渡って現役であり続けたのです。
また、このようなボールの有用性ゆえに、数年ごとに少数機数を追加生産するということも行われました。また、あくまで戦闘兵器ではなく作業ポッドという扱いで後継機の開発も行われ、WP-79T2、WP-88、WPS-92Aなどの機種が連邦軍の縁の下の力持ちとして活躍しました。しかし、それらが戦闘部隊に兵器として配備されることはなく、ボールの後継機は一見存在しないかのように見える状況となったのです。
1年戦争に一瞬だけ登場して消えていった出来損ないの作業ポッドもどき、と評価されることの多いRB-79ボールですが、そのコストの安さや、極めて短期間で開発されたことを考えれば、実にコストパフォーマンスが良く連邦軍に貢献した機種であると言えるでしょう。
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