正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
宇宙世紀におけるスペースコロニーの大量建造は、同時に、宇宙空間で使用する多関節作業機械の進歩も生み出しました。それはメカトロニクスの発展ではありましたが、1つだけ進歩の少ない部分が残りました。それは自律判断する制御系です。作業機械を制御するために、人間を使った方がはるかに安上がりであるという事実が、ベテラン建設員に頼るコロニー建設の状況を固定化し、無人作業機械の発展を阻害していたのです。かつては、人間を宇宙に送ることは高コストであると考えられていましたが、スペースコロニーがいくつか完成した時点で、そこに住む住民からみて、宇宙は極めて身近な場所だったのです。
しかしサイド7の建設に着手する頃には、コロニー建設は既にピークを過ぎており、建設機械のニーズも減少の一途を辿っていました。そこで、建設機械メーカー群は、新しい分野を開拓すべく、野心的な取り組みを始めました。彼らが目標としたのは、家庭やオフィスに入り込んで、人間の仕事の手伝いを行う自律型ロボットの開発でした。そのようなロボットは、21世紀初頭から開発が試みられたものの、人口爆発の結果。人間を雇った方がはるかに安上がりという状況から普及しなかったものでした。
とはいえ、すんなりとそのようなロボットが開発できるわけではありません。建設機械メーカー群には、人間の日常生活に密着して稼働する制御ソフトウェアのノウハウがありません。彼らは、それを安価に手に入れるために、主に若者を中心に、ホビーとしてのロボット自作のジャンルを切り開きました。各種コンテストを行い、優秀な応用ソフトウェアを集め、出来のよいものを買い上げて製品に組み込もうとしたのです。
このアイデアは、大成功でした。高精度のパーツが大量に、しかも破格の安値で主に若者達の間に流れるようになると、ホビーロボットの大ブームがわき起こったのでした。
サイド7在住の技術士官テム・レイは、大の大人でありましたが、少々性格に子供っぽいところがあり、これらのホビーパーツを大量に買い込んで、仕事そっちのけてロボット作りを楽しみました。このことは、テム・レイがその後RX-78ガンダムを開発する際に非常に有意義な体験となりました。
しかし、一通りロボット作りを試すと、すぐに遊べる限界に突き当たり、テム・レイはこれらを棄てて当たらしい遊びに夢中になりました。そうなると、仕事場のロボットの部品は邪魔なだけです。テム・レイは、それらの部品を自宅に持って帰ると、息子のアムロ・レイの部屋に放り込みました。
アムロ・レイも父親に似て、そういう技術的な遊びは大好きであり、すぐにホビーロボット作りに、はまりました。
そして、父親と同じように限界に突き当たると、徹夜もできる若い体力と、たっぷりある暇にまかせて、制御用コンピュータそのものを自分で作り直してしまいました。
その結果、サイド7のホビーロボットコンテストに優勝するような人間型アシスタントロボットを製作するほどのレベルにも達しました。
しかし、コンテストには勝ったものの、アムロ・レイはそれで満足したわけではありませんでした。確かに、当時の一般的なホビーロボットの水準から見れば一歩ぬきんでてはいましたが、それでは実際に手元に置いて使いたいかと言えば、そこまで便利なものではありませんでした。動きも鈍く、命令も誤判断することも多く、しかも、何かをさせたければ1から10まで全て詳細に命令する必要がありました。
さらに、アムロ・レイは隣に住む女の子であるフラウ・ボゥから衝撃的な言葉を浴びせられます。
「こんなもん作ってる暇があったら、自分の手で雑用をやりなさいよ。その方がずっと早くて確実だわ」
これはある意味で説得力のある正論でした。しかし、アムロ・レイはそうは受け取りませんでした。アムロ・レイは、フラウ・ボゥを納得させるホビーロボットを作ってみせると決意しました。
しかし、技術面での知識と経験をたっぷり積んだ彼は、万能ロボットが不可能であることを良く分かっていました。
フラウ・ボゥが一番喜ぶ分野でのみ、圧倒的な成果を上げるロボットを作るしかない。アムロ・レイはそう決意しました。しかし、いったい何がフラウ・ボゥが一番喜ぶ分野なのか、アムロ・レイにはさっぱり分かりませんでした。
これは、綿密な情報収集から始めるしかない。そう彼は決意すると、さっそく隣の家を観察する準備に取りかかりました。
続きます。
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