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2003年08月08日
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辺境国の「こんぴうた」

Written By: 遠野秋彦連絡先

 世界の中央に大きな国があった。そして、世界の果てには小さな国があった。大きな国は中原国という名で、まさに世界を支配し、リードする文明国であった。一方、辺境の小国は中央国という名前だが、実態は蛮族の集合体だった。とはいえ、中央国という名前を付けた者が誇大妄想狂だったわけではない。頭の悪い蛮族の首領達をたばねて中央集権国家とするには、ここが世界の中央であり、中央にいる王こそが世界を統べる王であると主張する必要があったのだ。もっとも、そのような主張は国境の中だけのことで、中原国に使節を送るときは、つつましく辺境国を自称した。

 さて、辺境の蛮族の国にも、最新テクノロジーの「こんぴうた」という機械の噂が入ってくるようになった。複雑な計算をあっと言う間にこなし、軍事や経済に不可欠なものとして、中原国を中心に、普及が始まっているという。

 噂を聞きつけた辺境国の王は、「こんぴうた」を1台中原国より買い付けて、辺境国の王立大学のエリートにそれを調べさせた。その結果、単純作業には向くが知恵は人間に大幅に劣り、文化には無縁の機械という結果報告が上がった。つまり、軍人や商人には有用だが、文化レベルの高い王侯貴族には何の役にも立たないという。気の利いた短歌の一つもひねれない機械ということで、辺境国の王の興味は急速に薄れていった。しかし、「こんぴうた」のことを忘れる前に、一つだけ大臣に指示することは忘れなかった。建前上、商人は卑しいとされていたが、贅沢三昧するための富を稼ぎ出すには商人は有益な存在だということを、王はよく分かっていた。だから、彼らが、他国の商人に負けないよう、商人向けの「こんぴうた」を普及させる努力を払うように、大臣に命じた。

 さて、命じられた大臣は面食らった。なにしろ、「こんぴうた」どころか、オーディオコンポの配線もできない機械音痴なのだ。何から手を付ければよいのかさっぱり分からない。すぐに、大臣は、誰かにこの役目を与えて責任をなすりつければ良いと気付いた。

 とはいえ、王宮主導で行う以上、プロジェクトのリーダーは、それなりに身分のある者があたらねばならない。これは重要な問題だった。少数の特権階級の関係者だけでポストをまわし、けして優秀な庶民上がりの官僚などに出世の切っ掛けを与えてはならないのだ。たとえ「こんぴうた」であろうと、この原則を曲げるわけには行かないのだ。

 大臣は、さっそく、有力貴族を訪問した。そこの三男がポストもなく遊んでいると聞いていたからだ。だが、ポストの内容を説明すると、即座に断られた。

 機械の面倒など貴族が見るものではない。そのような仕事を押しつけようとは失礼ではないか、というのだ。同じ王宮主導のプロジェクトなら、勅撰短歌集の編集委員など、もっと文化程度の高いポストを持ってこい、と言われ、大臣は頭を下げて逃げ出した。

 さすがに、有力貴族はプライドが高すぎたかと思い、今度は平均よりも少し落ちる貴族を訪問した。だが、そこで出てきた貴族の夫人は機械になど触れては穢れが移りますと言って、息子を「こんぴうた」担当のポストにつけることを頑として拒んだ。大臣は、別に「こんぴうた」に触る必要など無いのですよ、と言ったが、同じ部屋にいるだけでも匂いが服に移りますと夫人は絶対に認めようとしなかった。そして、夫人から、じゃああなたなら得体の知れない機械と同じ部屋で仕事をすることが耐えられますか?と言い返されると、大臣は何も言えず、すごすごと帰るしかなかった。なにしろ、大臣自身が機械から逃げたかったのは、まぎれもない事実である。

 大臣は、他のつてを辿ってみたが、駄目であった。機械などに関われば穢れる。穢れれば、その後の出世に響くというのが、特権階級の平均的な意見だった。

 仕方がないので、大臣は、庶民出身の有能な官僚から抜擢することにした。ただし、野望の厚い者を登用すると後でけ落とされかねないので、実直で策も巡らさず、王宮への忠誠の厚い若者を慎重に選んだ。

 さっそく大臣は、その若者を呼んで、仕事を命じた。若者は有頂天になって、喜んで仕事を引き受けた。普通なら、王宮主導のプロジェクトのリーダーなど、平民出の官僚が手がけられる仕事ではない。これも、日頃真面目に勉学に励み仕事にいそしんだことが評価されたのだろうと、若者は感激した。そして、当然のように、これは出世の最初の手がかりだと信じた。ポストを歴任しながら出世の階段を上がることは、王宮では普通だったからだ。まさか、大臣が、用が済んだらお払い箱にしようなどと思いながら若者を抜擢したとは、夢にも思いもしなかった。

 さて、若者はさっそく、中原国に飛んで、「こんぴうた」のレクチャーを受けた。勉強は苦ではなかったし、熱心な若者のために、中原国の技術者達も喜んで知識を伝授した。辺境国に戻ると、若者はすぐに組織作りに取りかかった。王宮には作業スペースがないということで、王都の外れの古城を改築して、場所を作った。電子技術や数学に明るい若者達を集め、辺境国で使う「こんぴうた」とは、どのようなものであるべきか、毎晩遅くまで議論した。また、実際に「こんぴうた」を使う商人達の意見も熱心に聞いてまわった。

 その結果、問題は2点に絞られた。中原国と辺境国の帳簿の付け方の違いと、文字の問題だ。中原国は複式簿記だったが、辺境国ではもっと原始的な方法を使っていた。これは、同じような方式を使っている国が他にあり、その国に向けて作られたソフトを手に入れて小修正すれば良いと分かった。問題は、文字であった。中原国では23種類のアルファベットだけで、何もかも表現する文字文化を持っていたので、中原国の「こんぴうた」はそれらの文字を扱うように設計されていた。しかし、辺境国では俗に五万種類と言われる膨大な種類の表意文字を使っていた。商品名や書類の宛名を、辺境国の文字で表現できねば、とても商売の現場では使い物にならない、というのが商人達の意見だった。

 若者は、文字問題さえ解決できれば、これで「こんぴうた」を国内に導入できると確信した。そこで、中原国と違う文字を使っている他国への導入状況を調べた。その結果、自国で使用する文字を全て書き出した文字表を作成し、それを国家標準として義務化し、「こんぴうた」のメーカーにこれを扱うように設計を変更せよと伝えれば良いことが分かった。国家がメーカーに義務を与えることは、メーカーには苦痛ではないかと若者は心配したがそうではなかった。メーカーは、国家が義務を明確化した方が楽だというのだ。

 確かに文字表を作る手間も馬鹿にならない。その手間を国家が肩代わりした方がメーカーも楽だろうと若者は納得して、さっそく文字表の作成に取りかかった。

 こんなものはすぐにできるだろう、というのが若者の予測だった。若者が学生時代に使った字典にあらゆる文字が載っていたのだ。これを書き写して表にすれば良い。手間は掛かるが、そんなものは、臨時雇いの事務員を使えば済むことだ。

 だが、作業を初めてしばらくすると、暗雲が漂い始めた。最初の出来事は、若者の部下の一人が、自分の名前を書くための文字が足りないと言い出したことだ。若者は慌てた。何しろ、国内で最も権威ある字典を元に文字表を作っているのだ。字典が間違っているはずがないので、間違いがあるとすれば、表を作る作業で起きたはずだ。さっそく、作成途上の表の見直しが行われた。その結果、間違いがぽろぽろと発見された。普段から文字の正しい書き方に注意を払っていない臨時雇いの事務員に正確な作業は無理だったのだ。更に悪いことに、部下の名前を書くための文字については作業ミスを発見できなかった。つまり、もともと字典に載っていなかったのだ。

 若者は反省した。権威の威光で字典は無謬であると、つい思い込んでいたが、字典も出版物である以上、間違う可能性はある。これからは、字典の正しさも確認しながら作業しなければならない。その上で、作業内容のチェックも二重三重に厳密化しなければならないと思った。

 それはさておき、字典の間違いは見過ごせなかった。国内の多くの者達が、これを根拠に学んでいるのだ。さっそく訂正を申し入れるため、若者は部下を連れて字典の著者である大教授の研究室に足を運んだ。

 王宮主導のプロジェクトであるという肩書きが利いて、大教授は会ってくれた。だが、話を聞くと大教授は即座に言った。

 字典に間違いはない。それは誤字である。間違って書かれた文字である以上、そのようなものを「こんぴうた」なる機械の文字表に載せる必要はない。

 それを聞いた部下は激怒した。地方の名家の血を引いていて、名前には相当の自負心があったのだ。先祖伝来、我が家に伝わる名前なのだ。千年も使ってきた文字が間違いなどであるはずがない。

 だが、若者は思った。もし、これが誤字なら、部下の一族が正しい文字を使うように方針を変えるべきだろう。

 しかし、部下の次の発言で若者はまた混迷した。

 大教授とおなじぐらい権威ある王都の大博士の出版している字典には正しい文字として掲載されている、というのだ。

 大教授は、真っ赤になりながら、いかに大博士がインチキであり、自説が正しいかを主張した。だが、大教授も大博士も、どちらも有名で権威ある学者であった。

 若者は念のため、大博士も訪問して話を聞いてみた。

 すると、今度は大博士が、全身全霊を込めたかのごとく熱心に、いかに大教授が間違っているかを語った。

 仕事場の古城に戻ると、さっそく、大教授の字典と、大博士の字典を付き合わせて調べる作業を命じた。その結果、内容に何百文字も違いがあることが分かった。

 若者はやむを得ず、両方の字典の文字も含むように文字表の作成方針を変更した。これで、どちらの学者も満足してくれるだろうと若者は期待した。

 だが、そうはならかった。文字表が一応形になったときに、若者は確認のため、両学者にそれを見せに行った。その結果、誤字を載せてはいかん、と頭ごなしに怒られる羽目になった。つまり、大博士が正しいとするが大教授が誤字だとする文字を載せると、大教授は黙っていない。かといって、その文字を落とすと大博士の方が絶対に承認してくれない。また、逆のケースもあった。

 若者は途方に暮れて、彼を任命した大臣に相談した。

 大臣の答はシンプルなものだった。文字は文化であり、機械を扱う役職が文化に踏み込むのは僭越である。

 若者は必至に、「こんぴうた」を国内に普及させるためには文字表が必要だと訴えた。

 それに対して大臣は答えた。結果が良ければ僭越な行為に目をつむることもあるだろう。まずは結果を出して見せろと。

 両学者の意見の対立を解決する方法については、何もアドバイスをもらえなかった。

 とぼとぼと仕事場の古城に戻ると、更に驚くべき話が待ちかまえていた。新しく雇った事務員の名前に使う文字が、両学者のどちらの字典にも載っていないと言うのだ。若者はもはや両学者にお伺いを立てずとも結論が見えていた。両学者とも、その文字は誤字だと断言するだろう。だが、先祖伝来、その文字を名前に使っている人達が存在するのだ。とすれば、商人が請求書の宛名を「こんぴうた」で印刷するとき、その文字が使えなかったら困るだろう。

 商人に普及させるには誤字も含む文字表が必要であるとして、文字の研究者ではなく、人名の研究家の教授に教えを請いに通った。その結果、国内に存在するあらゆる人名の一覧が手に入り、そこに記載された文字を全て表にまとめる作業が始まった。

 若者は、今度こそ、表が完成すると思った。収録する文字の種類は爆発的に増えたが、誰も自分の名前を書く文字がないと文句は言わないだろう。

 だが、表が形になると、二つの問題点が露わになった。

 まず、メーカーから、種類が多すぎて容量オーバーだと言ってきた。

 部下達も困惑していた。自分の名前に使う文字にしか見えない文字が何種類もあって、どれが自分の名前の文字なのか解らないというのだ。慌てて人名学者に問いただすと、文字の種類を、点の向きの違いや線の角度まで気にする人と、気にしない人がいるということだった。細かい分類は気にする人の基準で見た場合だが、気にしない人は点の向きが右向きだろうと左向きだろうと同じ文字と見なしているというのだ。

 人名学者は、そのことを重大な問題だと思っていないようだったが、「こんぴうた」を扱う若者には重大な問題に思えた。よく似た形で区別できない文字があれば、「こんぴうた」の検索機能でどの文字を入れれば目的の情報に到達できるか分からない。若者は必死に対策を考えた。よく似た文字を区別せずに検索する機能を作れば、問題を解決できるのではないか。そう思ってメーカーの技術者に相談したが、技術者は難しい顔になった。文字を区別する基準が一人ずつ違うのだから、一人ずつ別々にシステムを設定する必要がありますよ、と技術者は答えた。若者は少しだけ希望を抱いた。だが、手間もコストも膨大だから、現実的には無理でしょう、と技術者が付け加えると希望は砕けた。

 若者は、ようやく、自分が足を踏み入れてしまったものの正体に気付いた。辺境国は、しょせん辺境の蛮族の国。文字一つとっても、権威ある学者までが、勝手に自分の主張を繰り返すだけで、何の拠り所にもならない。そこに文明国の機械を持ち込んでも、うまく機能するはずがないのだ。

 しかし、ここで結果を残さないで終わることは、若者の未来を閉ざすものだった。若者にとってチャンスはこれ一つしかないのだ。

 若者は腹をくくった。国王の命令に背いて外国に行きながら金銀財宝を持ち帰って許された将軍の事例から考えれば、金さえ国庫に入れば何とかなる、と若者は考えたのだ。もう学者はいい。実際に使う商人さえ満足して、商取引が拡大すれば国庫は潤うのだ。

 若者は、商人をまわり、実際に業務上で必要とされる文字に絞り込んで、文字を集めた。商人がわざわざ請求書の宛名を書くような大物の名前だけは、特別にきめ細かく分類した。しかし、プライドが高いだけの貧乏人の名前は細かく分けずに、似た文字は一つにまとめてしまった。商人が請求書の宛名に使わない文字など、どんどん取り去ってしまえ、と若者は部下の尻を叩いた。どうせ、容量不足で入らないものなのだ。

 文字表のサイズは驚くほど小さくなった。ピークで十万文字に達しようかと見えたものが、五千文字にまで縮小した。その結果、メーカーもこれなら容量は問題ないと太鼓判を押したし、どこが違うのか分からない文字が並んでいるという苦情も無くなった。商人達も、これが「こんぴうた」で使えるなら、すぐに欲しいと口を揃えた。

 若者は胸を張って、王宮主導プロジェクトの名で、この文字表を公布した。それを見た中原国の「こんぴうた」メーカーは、さっそく辺境国向けのシステムの開発を開始した。

 若者は内外の評判が悪くないことにホッとした。これで、実際に「こんぴうた」が使われるようになれば、若者の出世の一段階をクリアしたことになる。

 だが、数日後に若者は王宮に呼び出された。そこには、大臣と並んで、大教授と大博士が待ちかまえていた。

 驚くべきことに、あれほど反目し合っていたはずの大教授と大博士は、声を揃えて若者が文化を踏みにじる行為を行ったと糾弾した。

 若者は、「こんぴうた」は商人が実務で使うためのもので、文化のための道具ではないと主張した。だが、大教授と大博士は、外国では文学の研究に「こんぴうた」が使われていて、実際、国内でも民間の文学塾が「こんぴうた」の導入を検討中であるという事例を上げた。だから若者の文字表は文化を破壊するものだと主張したのだ。文字表の作成をせめて自分たちのような文化人に任せればよいものを、卑しい商人などに任せるから、文化的に重要な文字がいくつも欠落しているというのだ。

 それを聞いて若者は腹が立ってきた。この二人の権威の意見通りにしても表はできなかったではないか。そう若者は反論したが、それは大臣の目に、機械装置ごときが文化に口を出すのは差し出がましいと映ったようだった。

 若者は、その場でクビを言い渡された。プロジェクトリーダーを解任されるだけでなく、官僚という立場も奪われた。

 若者は、無職の平民として、街に放り出された。そして、風の噂が若者の耳に入った。大臣は最初から若者に出世させる気などなく、理由を付けてクビにするつもりだったいうのだ。若者は、自分の考えの甘さを思い知らされた。

 すぐに、新しい文字表を大教授と大博士が組んで作成するという発表がされたが、それはそのままうやむやになり、続報はなかった。あの二人が一緒に1つの文字表など作れるはずがないことは、事情を知る者なら誰が考えても明らかだった。

 その間、若者がリーダーシップを取って作成した文字表を組み込んだ「こんぴうた」は国内に普及した。驚くべきことに、それは王宮にも納入され、大教授と大博士のいる大学や研究所にも普及していった。よく、自分の名前の文字が入ってないという意見を耳にしたが、たいていは代用になる似た文字があった。似た文字すらない場合もあったが、それは極めて僅かな事例で、そもそも文字の妥当性が疑われるようなものばかりだった。つまり、文字表にない文字があることは、社会的には深刻な問題にはなっていなかった。

 つまり、若者の作った文字表で良かったのだ。

 この文字表を組み込んだ「こんぴうた」は辺境国では便利で有益なものとして、どんどん定着していった。それなのに若者の名前は常に文化の破壊者として取り上げられ、けして名誉を受けることはなかった。

 若者は本当に、辺境国というものに嫌気がさした。嫌気がさしていたので、国際「こんぴうた」シンポジウムで、文字表作成の体験談を講演して欲しいという依頼を受けたとき、喜んで辺境国を出て、中原国に旅行した。そして、そこで中原国のメーカーから我が社に来ないかと誘われたとき、断る理由もなかった。

 若者は、過去の経験を生かし、まだ「こんぴうた」が普及していない国に、その国情に合わせて設計変更するという仕事に取り組んだ。それは、世界中のあらゆる文字に触れるエキサイティングな仕事であった。若者は、辺境国人をやめて、世界人になったようなものだった。

 やがて、若者は年老いた。

 その間に、辺境国も変わっていた。

 若者がいない間に、辺境国は内戦に見舞われていたのだ。特権を独占する王侯貴族に対して、「こんぴうた」を使って力を付けた商人達が、特権の解放を求めて対立したのだ。商人達は勝利し、王制は廃止され、議会制民主主義の国家に生まれ変わった。

 その新しい議会が、若者を辺境国「こんぴうた」の父として表彰したいと言った。やっと自分の仕事が認められたことが嬉しくて、若者は喜んでそれを受けることにした。

 そして、若者は再び故郷の辺境国の土を踏んだ。やっとこの国も文明国に脱皮できたのかと若者は感慨が深かった。

 だが、それは早計だった。

 若者は、表彰式の後のパーティーで、辺境国の偉い人達に取り囲まれた。彼らは口々に言った。もう誰も逆らわないように、ぜひとも、全国民を「こんぴうた」で管理したいのだ。特権階級は我々だけでよいのだ。ああ、もちろん、君も我々の仲間だ。子々孫々、特権は我々だけのものだ。

おわり

(遠野秋彦・作 ©2002,2003 TOHNO, Akihiko)

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