学校探偵・内山田教諭とスクールファイブ
Amazon.co.jp


小説・火星の地底世界バルシダー
Amazon.co.jp


火星の地底世界の古代王国【合本】
Amazon.co.jp


宇宙重巡洋艦高尾始末記: 辺境艦隊シリーズ合本
Amazon.co.jp


全艦出撃! 大宇宙の守護者: オルランド・スペース・シリーズ合本
Amazon.co.jp


青春小説 北区赤羽私立赤バニ学園: 制服はバニーガール女装
Amazon.co.jp


坂本龍馬対ゾンビ: Japanese Dawn of the Dead
Amazon.co.jp


彼の味方は動物達と月の姫
Amazon.co.jp


小説・宇宙機動遊撃艦隊: ラト姫物語・セラ姫物語合本
Amazon.co.jp


本土決戦1950: 無敵! 日本陸軍ジェット戦闘隊
Amazon.co.jp


魔女と勇者の秘密: 遠野秋彦ファンタジー小説合本
Amazon.co.jp


無敵合体ロボ軍団 ~遠野秋彦ロボット小説合本~
Amazon.co.jp

2003年08月21日
遠野秋彦の庵小説の洞total 2287 count

日本全国東京化計画

Written By: 遠野秋彦連絡先

 その年も、相変わらず日本全国は不況にあえいでいた。深刻な不況なのに、というべきか、それとも不況だからこそ、というべきか、政治も混乱していた。衆議院選挙と参議院選挙が同日に投票が行われるのを前に、政党は分裂したり集合したりを繰り返したのだ。そして、投票時には、何の偶然か、地方出身議員が大半を占める大日本地方党と、都市出身議員が大半を占める全日本都市党に、大半の議員が分かれて所属していた。

 選挙でどちらが勝ったかは言うまでもない。どちらの政党にも、同程度の票が集まったものの、地方の一票は、都市の一票よりもはるかに重いのだ。あっさりと大日本地方党は衆議院と参議院で安定多数を確保した。

 もちろん、その結果に不満を抱く者は多かったが、一票の重みに何倍もの差が付いていることは、最高裁判所も認めた合法的な状態だ。不満はあれど、それをひっくり返す方法はなかった。

 大日本地方党は与党となり、もはや都市部の議員の意見を聞く必要がないことに気付くと彼らは驚喜した。そして、これまで都市住民から田舎者とバカにされた恨みを今こそ晴らすべきだという子供っぽい意見が出された。今まで、都市部ばかり優遇された不公平を正せ、というのだ。それはある意味で子供っぽい冗談のようなものだった。しかし、日本全国を東京並みの環境にするというアイデアに、地方の土木建築業界は即座に飛び付いた。道路や鉄道を建設し、様々な施設も建てることになるからだ。

 さっそく、外聞をはばかるような金銭が業者と議員の間を飛び交い、冗談は真面目な政策にすり替わった。都市住民だけが新しい娯楽を楽しむことができ、様々な便利なサービスを受けられるのは不公平であり、平等の精神に反する、と言えば、耳障りが良かった。都市住民からは不満がわき上がったが、そのことは大日本地方党にとって、どうでも良いことだった。何しろ、都市住民のすべてが敵に回っても、容易に安定多数の議席数を確保できるのだ。

 この政策の第1弾として何から手を付けるかアンケートが取られた。その結果、新幹線という意見がトップになったが、少しばかりスケールが大きすぎて、即座に実施して成果を出すには向かなかった。では、すぐ実行できるという条件を満たすもので、人気の高いものは何かというと、ディスコであった。これなら、中規模の建物を全国に建てるだけで良く、比較的短期間で実現できそうだった。

 さっそく、政府が設計させた標準型ディスコの図面があちこちの自治体を通じて業者に引き渡され、日本全国、住民がいる場所なら山奥まで、まったく同じ形をした建物の建設が始められた。そんな80年代みたいな時代遅れのデザインでどうする、という意見は都市部でしか囁かれなかった。80年代のディスコブームも経験していない者達にとって、それですら、眩しいほどきらびやかであったのだ。住民達が、興味しんしんで見つめる中、突貫工事でこれらのディスコは完成した。

 完成後は地方自治体に引き渡されたが、いきなり公営ディスコを運営しろと言われてスムーズに行くはずがなかった。特に、DJの不足は深刻だった。多少なりとも、その手の音楽の知識があってアナログレコードの掛け方を知っている者達が全国からかき集められた。当然、ほんの素人同然で、スクラッチしてはレコード針を痛めるような事件も多発した。だが、そのことはさしたる問題にはならなかった。やってくる客達は初体験づくしで、DJが何をする仕事なのかも分かっていなかったからだ。適当に、それらしいCDを掛けっぱなしにしているだけでも、みんな満足した。時には、なけなしの知識をひけらかして「パラパラをやってくれ」という客もいたが、いざパラパラの曲を掛けても、デタラメに身体を動かすだけで満足して帰っていった。パラパラには正しい振り付けがあるという知識すらないのか、とDJ達は驚いたが、彼らとて正しい振り付けを他人に教えられるほど完璧に覚えている訳ではなかったのだ。

 こうして全国に建設されたディスコは大盛況となった。農作業の後はディスコで身体を動かして身体をほぐす、という年輩の男女も増えた。

 この大盛況に大日本地方党は満足した。こんなにも盛り上がれば景気も良くなるはずだ。この方針でどんどんやろう、ということになった。次に計画されたのは、健康ランドだった。農作業の後は、健康ランドで一風呂浴びてディスコに繰り出したい、という意見が多かったからだ。次々と全国で新しい建物が着工した。

 しかし、最初の興奮が過ぎると、多くの者達が、ディスコの音楽に騒がしすぎるという感想を抱くようになった。もともと若者向けの刺激的な娯楽であるところに、中高年が殺到したのだから致し方ない。

 最初にそれを口にした男は、「北島四郎はないのか」とDJにリクエストした。DJは、自分の持っているCDの中に三波夏夫のダンスアレンジアルバムを発見して、これならありますがと告げた。それでいいよと男が言ったのでDJはそれを掛けたが、すぐに男は「違う違う」とDJに詰め寄った。「こんな変なのじゃなく、普通のを頼むぜ」と男は言った。DJはようやく悟った。男は、ユーロビートやハウスやトランスやラップにアレンジされた踊れる曲ではなく、踊るように手を加えていない原曲を求めていたのだ。

 このブームはすぐに全国に広がった。全国の公営ディスコでは、演歌や民謡が定番として流れるようになり、踊るよりも飲む者が多くなった。いつの間にか、ダンスフロアは縮小し、畳が並べられて宴会スペースが作られた。近所の飲み屋から板前が出張してきて、フロアの中でつまみを作るようになった。

 DJならでは仕事は無くなり、かわりに売れない演歌歌手や流しのギタリストなどがその席に座るようになった。

 その結果、もはやディスコとは名ばかりの音楽居酒屋になっていた。そこではたと誰もが気付いた。流しのギタリストが来る居酒屋に過ぎないとすれば、昔馴染みの居酒屋にでも行った方が安い。そういう居酒屋もない地方でも、屋台を一つ出せば、もっと安くサービスできると分かり、金儲けに敏感な者達は抜け目無く稼いだ。

 今や、ディスコはガラガラになっていた。

 更に、しばらくすると居酒屋からも人影は消えた。遊ぶ金が無限に続くわけがないのだ。このあたりが、皆の遊べる限界だったのだ。

 いつの間にか、どこの地方でも、昔通りの生活が戻っていた。

 残ったのはガラガラのディスコと、建設途中の健康ランドだった。

 入場料収入が無くなり、ディスコの運営費に悲鳴を上げた地方自治体は次々とディスコを閉鎖した。

 困ったのは政府である。ディスコの建設費用は、30年掛けてディスコの収益で回収する予定だったからだ。閉鎖されては政府の丸損である。その上、最初の公営ディスコブームのときに、絶対に儲かると錯覚した政府は、膨大な国債を発行することを前提に健康ランド建設に着手してしまったのだ。だが、国債の人気は下がり続け、健康ランドの建設資金も調達不能になり、全国の健康ランド建設はストップした。

 そこで政府は考えた。いつも、便利で刺激的な生活を送っている都市住民に、このツケを払ってもらおうと。地方を都市並みにできないのなら、今度は、都市住民に地方並みの不便さを堪え忍んでもらい、その結果浮いたお金で借金を返そうというのだ。

 だが、そこにかつての都市はなかった。

 荒廃したスラム街があるだけだった。

 地方重視の政策のため、都市を維持するための予算が削られ、住環境が悪化していたのだ。治安も悪化してビジネスにも支障が出ていた。その結果、大企業は、日本の都市に見切りを付けて、海外に社員ぐるみで逃げ出した。既に工場は海外にあったから、難しいことではなかった。下請けの産業も、大企業の後を追った。アジア諸国も、この動きを歓迎し、土地を提供したり、税制を優遇したりした。どう見ても、刹那的な娯楽に金をつぎ込む政府よりも、産業振興に金を使う政府の方が魅力的だった。

 国家の借金は、都市住民ではなく、地方在住者が負担するしかなかった。税率は上がり、農村では警察や軍隊を使った強引な作物の取り立てが行われた。

 抗議する農民に警官はディスコの廃墟を指さした。

 「おまえら、あそこで楽しんだんだろう。ならそのツケを自分で払うのは当然だ」

 「何をいっとる。楽しむために高い入場料を払ったんだぞ」と農民は言い返した。

 「その程度のはした金で、こんな立派な建物が建つかよ」と警官は農民を殴り倒した。

 農民は、意識が遠のきながら、昔の自分たちはどうしてディスコなんか欲しかったのだろうと思った。しょせん、あの程度のものなのに。

おわり

(遠野秋彦・作 ©2002,2003 TOHNO, Akihiko)

★★ 遠野秋彦の長編小説はここで買えます。

https://www.piedey.co.jp/pub/

Facebook

遠野秋彦

キーワード【 遠野秋彦の庵小説の洞
【小説の洞】の次のコンテンツ
2003年
09月
04日
人の形をしたものを狩れ
3days 0 count
total 2439 count
【小説の洞】の前のコンテンツ
2003年
08月
08日
辺境国の「こんぴうた」
3days 0 count
total 2139 count


学校探偵・内山田教諭とスクールファイブ
Amazon.co.jp


小説・火星の地底世界バルシダー
Amazon.co.jp


火星の地底世界の古代王国【合本】
Amazon.co.jp


宇宙重巡洋艦高尾始末記: 辺境艦隊シリーズ合本
Amazon.co.jp


全艦出撃! 大宇宙の守護者: オルランド・スペース・シリーズ合本
Amazon.co.jp


青春小説 北区赤羽私立赤バニ学園: 制服はバニーガール女装
Amazon.co.jp


坂本龍馬対ゾンビ: Japanese Dawn of the Dead
Amazon.co.jp


彼の味方は動物達と月の姫
Amazon.co.jp


小説・宇宙機動遊撃艦隊: ラト姫物語・セラ姫物語合本
Amazon.co.jp


本土決戦1950: 無敵! 日本陸軍ジェット戦闘隊
Amazon.co.jp


魔女と勇者の秘密: 遠野秋彦ファンタジー小説合本
Amazon.co.jp


無敵合体ロボ軍団 ~遠野秋彦ロボット小説合本~
Amazon.co.jp

このコンテンツを書いた遠野秋彦へメッセージを送る

[メッセージ送信フォームを利用する]

メッセージ送信フォームを利用することで、遠野秋彦に対してメッセージを送ることができます。

この機能は、100%確実に遠野秋彦へメッセージを伝達するものではなく、また、確実に遠野秋彦よりの返事を得られるものではないことにご注意ください。

このコンテンツへトラックバックするためのURL

http://mag.autumn.org/tb.aspx/20030821133317
サイトの表紙【小説の洞】の表紙【小説の洞】のコンテンツ全リスト 【小説の洞】の入手全リスト 【小説の洞】のRSS1.0形式の情報このサイトの全キーワードリスト 印刷用ページ

管理者: 遠野秋彦連絡先

Powered by MagSite2 Version 0.36 (Alpha-Test) Copyright (c) 2004-2021 Pie Dey.Co.,Ltd.