2003年09月01日
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人間失格 太宰治 新潮文庫

Written By: 川俣 晶連絡先

 やっと読み終わりました。薄い本だから、読み始めると早いですね。それから、続きが読みたくなる魅力もあると思います。

 感想は、一言で言い切れない深く複雑な表現しにくい部分が多々ありますが。

 2つだけ言えることがあります。

 1つは、けっこう感情移入できる部分があったこと。このデタラメな主人公に対して、そういう部分があったというのは、ちょっと驚きかもしれません。ただ、私の場合、女が寄ってきて世話を焼いてくれることはないし、金持ちの父親もないので、まったく共感できない部分はありますが。

 もう1つは、この作品はいったい何を描いているのかということ。解説にいろいろ書いてありますが、それとは違う感想を持ちました。

 この作品は、社会性の獲得に失敗した男の話だと感じました。社会を異物と感じていながら、社会との関わりを持ちたくて仕方がない男の話です。人間は社会的な動物であって、社会との関わりを持たねば生きていけません。それにも関わらず、主人公は自分から意識的に社会の中に入っていこうとしません。1つに、主人公は、精神的な去勢、つまり自分は何ら特別な人間ではないという現実にぶち当たって乗り越える行為を実現できなかった男だと言えます。

 精神的な去勢というのは、正確にはどんな表現だったか忘れましたが、ひきこもりの本で読んだ言葉、概念です。その本では、自分は何ら特別ではないということを思い知ることに失敗した人間が引きこもりになると書いていましたが、この作品の主人公は、そういう意味で一種のひきこもり的な側面を持つ人間のようにも思えます。たとえば、あの絵を見せられれば自分の才能を証明できるのに、ということに後々までこだわっていたりするあたり、そういう雰囲気を感じました。

 そこから逆に考えていくと、現代の引きこもりという現象は、平成の特殊な出来事ではなく、構造的に昔からあったものだと言えますね。

 まあ、それは根拠もなく思ったことに過ぎませんが。

 こういう特異な作品を書ける太宰治の才能は凄いなと思いました。でも、死んでしまっては終わりですね。