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2003年09月18日
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平成の悪夢 (連載第1回)

Written By: 遠野秋彦連絡先

 校内通話機の呼び出し音が鳴った。

 一瞬、無田百吉は、その音が何か分からなかった。

 学生のイタズラであるのは明らかだった。

 設定を変えて、標準の呼び出し音の代わりに、流行の朝鮮人歌手の歌のイントロに入れ替えたのだろう。

 そのことに気付くまで、数十秒が浪費された。

 無田は磁気媒体と紙が雑然と積まれた机の上を探った。そして、受話器を探り当てるとそれを耳に当て、言った。

 「はい、無田です」

 相手は、この歴史学研究塔の受付にいる私設衛兵だった。

 「バンコク文化新聞のリー・スミスさんて人と約束してますか?」

 「バンコク……? 文化新聞……?」

 「ちょっと、胡散臭そうな男なんで、問題あればこちらで追い返しますが」

 「ちょっと待って」と無田は電気算盤の操作盤を叩いた。

 無田は蛍光体表示管に浮かび上がった文字をチェックした。

 「ああ、それなら聞いている」と無田は答えた。「そうか。もうそんな時間か。野口先生が多忙なので、私の方にまわってきたんだ。会わないのでは、野口先生の顔を潰してしまうよ」

 「はあ、分かりました。では、研究室の方に行かせます」と私設衛兵は答えた。

 無田は、仕事を一段落すべき時だと気付いた。

 そして、あまりに多くの資料の溢れる自分の机の上を見た。

 日本通史という学問は、日本列島という限定された土地を相手にするものだが、そのかわり時間が限定されない。資料が爆発的に増えるのは必然と言えた。だが、それにしても、これは多すぎだった。

 お茶を置く場所もない。

 無田は客が来る前に、と慌てて整理を始めた。

 だが、整理も半ばの状態で、客人は研究室のドアを叩いた。

 「無田先生はこちらでしょうか?」と、どこにでも居るような無国籍な顔をした男が顔を覗かせた。当節、この東亜連邦内で、人種的純血を守る人間を捜すのは難しい。

 「バンコク文化新聞の?」と無田は訊いた。

 「ええ、リー・スミスです」と男は答えた。名前もいかにも無国籍だ。スミスというのは、英語風の名前だが、イギリスの影響を受けた地域に祖先を持つのだろう。だが、それは、あまりに遠すぎる過去の話だろう。簡日語を自由に操るこの男にとって、スミスという名前に何の特別な意味もないに違いない。

 「まあ、お座り下さい」と無田は空いている椅子を勧めた。

 「これはどうも」と男はそれに座った。

 「さて」と無田は言った。「バンコクの新聞記者が、日本通史に興味をお持ちとは珍しい。百年ぐらい前には、バンコクでも日本ブームがあったと聞きますが」

 「ええ、まあ」と男は頭をかいた。「確かに、今時の若い者は歴史になど興味を持ちません。同じ東亜連邦内の他の地域どころか、自分たちが住んでいるバンコクの歴史すら、さっぱり興味を持たない程でしてね」

 「なら、なおさら分かりませんね。日本人が日本の歴史に興味を持つのなら分かりますが」そこで無田は言い直した。「いえ、当節の日本人は、日本史になど興味を持っておりませんな。一部の歴史上の有名人を除けば」

 「そのようですな。いや、私の興味は本当のところは歴史にはないのですよ」

 「なら、どうして私のところに?」

 「私の疑問に答えられるのは、日本通史の研究家ではないかと思いまして」

 「歴史の問題ではない疑問に、私が答えられると?」

 「まずは話を聞いていただけますか?」

 「ええ、いいでしょう」と無田は話を聞くポーズを取った。

 「我々の東亜連邦は、世界1の繁栄を謳歌しています」とリー・スミスは言った。「地理的には、中国大陸から北はシベリア、南はインドネシア、東は北米大陸のロッキー山脈まで。広さだけではありません。内側に広大な太平洋を抱え込んで、海を安価な物流ルートとして使える。そして、天皇陛下万歳を叫ぶ万民はすべて陛下の前では平等という身分差別の無い世界。全臣民が平等に陛下を輔弼(ほひつ)するというシステムによって安定する亜細亜型民主主義。軍事力経済力ともに、世界1の国家と言えるし、その中で生きている我々から見ても、とても住みやすい社会と言えます。敵対勢力といっても、欧州は一つの連合体になろうとして何度も失敗している状況だし、インドは多民族国家ゆえに国家をまとめるのが精一杯。南米も諸国乱立で、一つの勢力にまとまる兆しもありません。東亜連邦の軍事力による世界平和という構図すら否定できない事実と言えましょう」

 「それは、誰も知っている常識ですね」と無田は言った。「つまり、何が問題なのでしょうか?」

 「ああ、これは失礼」とリー・スミスは軽く頭を下げた。「つまりですね。我が東亜連邦の繁栄に私も大きな恩恵を受けているわけで、私も素晴らしいことだと思っているのですよ」

 「それで?」

 「ですが、この繁栄を、当然のことと受け入れてしまって良いのでしょうか?」リー・スミスは、急に深刻な表情に変わった。無田は、彼の声の質まで変わってしまったような気がした。

 「それはどういう意味でしょうか?」

 「東亜連邦の成立は、歴史の必然なのでしょうか。それとも、何かの偶然の結果に過ぎず、ちょっと何かが違っていれば、あり得なかった状況なのでしょうか」

 「歴史のイフですか」と無田はうなずいた。「最近、中国人の間で、架空戦記というものが流行っているそうですね。あの戦いでこうしていれば、大中華帝国は負けることが無かったという。そうなれば、今頃、日本生まれの天皇を中心とした東亜連邦ではなく、中華帝国の皇帝を崇拝する国家が続いていたという……」

 「いやあ、私も2、3冊読んでみましたがあれは駄目ですな。ただのストレスのはけ口でしかありませんな」

 「ああいう話を聞きたいというわけではないのですか?」

 「まさか」と男は激しく首を振って否定した。

 「では、いったい?」

 「真面目な話、現在の東亜連邦に至る歴史の中に、いろいろな出来事があるわけですが、その中に、容易に結果が変わりそうな危ういことがあるかどうか、そこが気になるのですよ」

 「歴史というものは」と無田は言った。「世間で思う以上に必然の積み重ねと言うことが言えます。あの事件の結果が違っていたら、という話はよくありますが、個別の事件の結果が変わっても、歴史の大きな流れは変わりません。社会や経済の大きな動きは、人間の力で押しとどめることはできませんから、結局、ある人物がやらなくても、他の誰かがやることになるでしょう」

 「すると、東亜連邦の成立も、必然であると?」

 「ええ」と無田はうなずいた。「まず、亜細亜の利権を得るために欧州人が進出してきたと言うのが前提となる事実です。すると、亜細亜の富が欧州に吸い上げられるという構造ができあがります。しかし、亜細亜側から見れば、それが面白いわけがありません。必然的に、欧州勢力を亜細亜から追い出す方法というものが求められるわけです。その結果、欧州勢力に拮抗するだけの自由で活動的な社会が生まれるのは必然であると言えます」

 「しかし、それだけでは、欧州のような諸国乱立状態になるのではありませんか?」

 「経済とは、規模拡大による利益を受けるものです。ですから、より多くの富を望むなら、大きな単位で商売を行う方が良いに決まっています。利益を重視するなら、必然的に大きな政治組織が成立します」

 「ですが、欧州はそうなっていませんね?」

 「単純に利益を最大化することを考えれば、大きな国家が望ましいのですが、実際には既得権益というものがあって、他人が大きな利益を得ることよりも、自分の小さな利益を守る方が大切という人は多いのですよ」

 「亜細亜にも、そういう既得権益がたくさんあったのではありませんか?」

 「ええ、そうです。ですが、日本では、ポルトガル人の支配によって、その種の既得権益がすべて破壊されてしまったのです」と無田は説明した。「無い既得権益を守ろうという動きは起きません」

 「では、もしポルトガル人が日本を支配しなかったら?」

 「日本に、欧州のように既得権益にがんじがらめになって、繁栄から縁遠い低迷した国家が成立した可能性はあり得ますね」

 「日本が既得権益から解放されないとすれば、日本の力で解放された亜細亜諸国もやはり開放されないと言うことになりますね。そうすると、東亜連邦はあり得ないと……」

 「心配する必要はありません」と無田は言った。「ポルトガル人による日本の支配は、これも歴史の必然です。織田信長が国内の宗教勢力を叩くためにキリスト教の国内布教を推奨した結果、キリスト教を用いた日本支配のシステムが構築されたのです。もし、ポルトガル人による日本支配を無かったことにしたいなら、織田信長という人物が居なかったということにでもするしかありません。もっとも、彼が居なければ別の人物が同じことを実行した可能性は高いと思いますが」

 「織田信長は居るが途中で退場してしまう、という筋書きならどうでしょう?」とリー・スミスは言った。「ポルトガル人勢力を受け入れるけれど、それは不完全に終わることになるのです」

 無田は驚いた。リー・スミスが自分の歴史観を持っているらしいことに気づいたからだ。しかも、織田信長と言えば、日本が外国の支配下に置かれる直接的な原因を作った男として、忌み嫌われる存在だ。織田信長に関して語りたがる者は、日本人だけでなく、東亜連邦全体でも少数派なのだ。

 「何かお考えがあるのでしょうか?」と無田は質問してみた。

 「たとえば。たとえばですよ」とリー・スミスは言った。「1582年、織田信長は本能寺という寺に宿泊中だったのですが、そこを明智光秀が襲撃して、信長を殺してしまったとしたら」

 無田は更に驚いた。織田信長が宿泊した寺の名前まで具体的に知っているとは。しかも、明智光秀とは戦国武将の中でも無名の存在であり、無田も名前ぐらいしか知らない存在だ。

 リー・スミスは更に続けた。「信長が殺されたと知れば、すぐに忠実な部下である羽柴秀吉が、敵討ちをすることになります。これも必然的な流れと言えるのではないでしょうか?」

 「そうなっても不思議はありませんね」と無田はうなずいた。

 「すると、羽柴秀吉が信長の後継者として天下を支配することになります。羽柴秀吉は関白の地位を得て豊臣秀吉を名乗り、大阪に城を築きますが、秀吉は所詮1代限りの傑物です。秀吉の死後、関東で機会をうかがっていた徳川家康が豊臣家を滅ぼして天下を取ります。しかし、徳川家康から見て、キリスト教に利用価値などありません。むしろ、キリスト教を利用した日本支配の臭いを嗅ぎ取って、国内からキリスト教勢力を追い出し、更には外国との付き合いを遮断する鎖国政策すら打ち出してしまうのです。その結果、日本国内には、士農工商という厳しい身分差別のある閉塞した社会が成立してしまって……」

 「ちょっと待ってください」と無田は慌てて彼の言葉を止めさせた。「いいですか。それは現実の歴史ではありません。現実には、そんなことは起きていないのです」

平成の悪夢 連載第2回に続く。

(遠野秋彦・作 ©2001,2003 TOHNO, Akihiko)

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