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2003年10月03日
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平成の悪夢 (連載第2回)

Written By: 遠野秋彦連絡先

平成の悪夢 (連載第1回)

平成の悪夢 (連載第2回) §

 「ちょっと待ってください」と無田は慌てて彼の言葉を止めさせた。「いいですか。それは現実の歴史ではありません。現実には、そんなことは起きていないのです」

 「は、はあ。確かにその通りなのですが……」リー・スミスは自分が勢いよく喋りすぎたことに気付いたのか、少し恥ずかしそうに低い声で言った。

 無田はリー・スミスの勢いに飲まれそうになった自分を立て直すため、半ば自分に言い聞かせるように言った。「戦国時代に、天下を取るために身内の寝首を取るのもよくある出来事ですから、誰かが織田信長の首を取るという仮定はできます。しかし、それが誰であるという必然性は無いし、織田信長の後継者が羽柴秀吉だったとしても、彼がどんな地位を得るかは分かりません。更に、どう名前を変えるかも、予測できることはありません」

 「ええ、そうです」とリー・スミスはうなずいた。「分かっているつもりです。こんな話は妄想に過ぎない」

 「ですが」と無田は言った。

 そのまま気になっていたことを口にしようとして少し迷った。本当は言わない方が良いのではないか。そんな考えがふと頭を横切った。明らかに彼はどこかおかしい。そんな彼の話に深入りするのは危険そうに思える。だが、ただの危ない男と思って、適当にあしらうには、彼の話には気になる言葉が多すぎる。

 無田は結局、言おうとしたことを口にした。「話があまりにも詳細ですわね。あなたが自分で考えたストーリーとも思えないのですが……」

 「ええ」とリー・スミスはこっくりとうなずいた。「私が考えたものではありません。ですが、私の中から出てきたものなのです」

 「おっしゃることが良く分かりませんが……」

 「夢を見るのです」とリー・スミスは言った。「毎日ではありません。平均して、週に1回か2回。夢の中で私は、別の世界に生きているのです。妙にリアルな世界で、現実の世界で1日経過すると夢の中の世界もちゃんと1日の時間が過ぎるのです。あまりにも突飛なので、夢を見ながらこれは夢だと分かるのですが、その世界の中での辻褄は全て合っているのです。ほら、夢と言えば、いくら走っても追いつけないとか、あるはずの場所がみつからないという経験があるでしょう? そういう夢らしいことが何も起こらないのです」

 「あるはずの場所が見つかる夢もあるでしょう」

 「ええ、そうです。ですが、あの世界は他のどんな夢とも違っています」

 「その夢の中で、織田信長は明智光秀に殺されたと……」

 「そうです」

 「その光景を目撃したのですか?」

 「まさか。何百年も昔の話ですよ」

 「なら、どうして、織田信長は明智光秀に殺されたと分かるのですか?」

 「その世界では常識ですから。子供でも知っています。学校でも教えているし、映像放送のドラマの題材にも何度もなっていますから」

 「にわかには信じがたい話ですね」

 「何しろ夢ですから」そう言ったリー・スミスの口調に、無田は彼が理性ある常識人であることを確信した。

 「それで、その夢の歴史は、どういう結末を迎えているのでしょうか?」

 「さっき、徳川家康が天下を取ったところまで話をしましたね。徳川家康は諸外国との交流を絶つ鎖国政策を実行します。それに加えて、厳しい身分制度を強制して、商工業者を徹底的に抑圧します。そのため、日本は世界から取り残された後進国に没落していきます。そんな政策がいつまでも続くわけが無く、天皇を担ぎ出した反乱勢力によって滅ぼされます」

 「なるほど。それで、歴史は正常な流れに戻るというわけですね?」

 「いえ、違います。驚くべきことに、新しく日本の支配者となった勢力は、驚く無かれ、後進国と化した日本を立て直すために、欧州から技術や制度を導入しようとしたんです」

 「なるほど。東亜連邦が成立しなければアジアでの産業革命は起こらず、欧州の立ち遅れた産業革命の結果を導入するしかない、と言うわけですな」

 「そうです。ですが、強引な欧米文化の導入は国内の反発を招いて、反動で天皇陛下の崇拝がはびこってしまうのです」

 「良いことではありませんか。陛下の前では万民が平等なのですから」

 「いえ、とんでもない。その世界では、天皇陛下とは、一部の特権階級の傀儡に過ぎないのですよ。しかも、天皇陛下の名を借りて、敵対する文化を全て根絶やしにするような、非道なことが行われるのですよ。日本の領地になったアジアの国々では、元々ある文化を全て否定して、日本の文化慣習を押しつけようとしたんです」

 「そんな馬鹿な」と無田はあまりの内容に衝撃を受けた。「文化とは気候や歴史的経緯の上に成り立つもので、別の土地の文化を押しつけても、上手く行くはずがない。そんなのは常識以前のことだ」

 「ですから、その世界の日本は、すぐに破綻します。勝ち目の無い戦争をアメリカ合衆国に吹っ掛けてボロボロに敗北してしまうのです」

 「あめりか……がっしゅうこく?」

 「ああ、夢の中で北米大陸に成立している大きくて強力な国家です。文化や軍事力で世界1の影響力を持つ国家です。この世界の東亜連邦のような立場を持つ国家が、北米大陸にできているんです」

 「しかし、多民族がひしめきあう北米大陸で、そんな強力な統一国家が成立するとは考えにくいですが……」

 「ともかく、その世界では成立しているのですよ」とリー・スミスは言った。「豊かな広大な土地を活用すれば、強力な国家は作ることができます」

 「それで、日本は戦争に負けてどうなったのですか?」

 「アメリカ合衆国の属国のような形になり、軍事力も制限されて、経済中心の国家に生まれ変わったのです」

 「それで、本来あるべき日本の姿になったというわけですね?」

 「そうであれば良いのですが」とリー・スミスはため息をついた。「調子がよいのは最初だけで、すぐに既得権益ががんじがらめになって、経済が廻らなくなってしまうのですよ。その結果、私が見ている時代には、10年も続く深刻な不況があるのです。出口の見えない不況がね」

 「不況になれば、その原因を取り除くのが普通でしょう」

 「ええ、そうです。ですが既得権益がそれを邪魔するのです。みんな、どうすれば良いかは分かっているのに、それを実行できる人間が誰も居ないのです」

 「まるで悪夢ですな」

 「はは、まさに悪夢そのものですよ」とリー・スミスは力無く笑った。「見る度ごとに脱力感に襲われます」

 「ところで、その世界の中で、あなたはどんな立場なのですか?」と無田は訊いた。「東亜連邦の無い世界でもバンコクに新聞はあるのですか?」

 「ありますとも。バンコクはタイという国の首都ですから、新聞社がいくつもあります。私は、東京に駐在員として赴任しているのです」

 「トウキョウ?」

 「ああ、済みません。文字としてはヒガシのミヤコと書きます。古い時代の漢字で書けば、この世界のアズマノミヤコと同じ字です。場所も同じです。ですが、読み方が違うのですよ。アズマノミヤコと書いてトウキョウと読みます」

 「なるほど。中国文化の影響が強いと言うことですね」

 「ええ。それで、私は日本語が堪能な記者と言うことで、重宝がられて東京に送り込まれているというわけです」

 「今、日本語と言いましたか?」

 「はい。その世界には簡日語は存在しないのです。45種類の仮名を覚えればどんな文章も読み書きできる便利な簡日語の代わりに、平仮名と片仮名と漢字を交ぜ書きする日本語が使われています。その上、欧州文化の流入も激しいので、アルファベットも使われます。これを全部覚えないと日本語は読み書きできません」

 「まさか。文明国が、そんな複雑な言語を使うはずがない。それでは、文盲率が跳ね上がってしまう」

 「それが、そうでもないんですよ。その世界の日本では、誰でも日本語を読み書きできます」

 「みんな努力家なのですね。この世界の日本人と違って」

 「そうでもないでしょう」とリー・スミスは言った。「みんな、日本語を覚えるだけで脳みそを使い切っているようですよ。そうでなきゃ、原因が分かっている不況が10年も続くなんてことはあり得ないでしょう」

 「確かにそうですね。まともな人間なら、問題を解決しようと努力を払いますね」

 「目覚めている人間なら、ですね」

 「ああ、そうか。夢の中の話でしたね」

 「そうです」

 「ところで、その世界では、どんな暦を使っているのでしょうか? やはり年号が使われているのでしょうか?」

 「ええ。天皇陛下が代替わりするごとに、新しい年号が定められる慣習になっています。今は、平成という年号が使われています」

 「平成……。あまり年号らしくない名前ですね」

 「ええ。でも、それが今上天皇の御代の名前なのです」

 天皇陛下が代替わりするごとに年号を変えるとは、どう考えても変な習慣だな、と無田は思った。

 だが、悪夢なら致し方あるまい。

 非常識なことばかり起こるからこそ、悪夢なのだ……。

 ふと、気付くと、記者との会話の話題は、野口教授の最近の動向に変わっていた。

 最近、政府関係の秘密の仕事をしているらしいので、記者も気になるのだろう。だが、無田自身、野口教授が何をしているのか知らない。

 それゆえに、憶測ばかりの実りのない会話に流れていった。

 だが、無田の心には、なぜか平成の悪夢という言葉が深く滞留してよどんでいるのだった。

平成の悪夢 (連載第3回)に続く。

(遠野秋彦・作 ©2001,2003 TOHNO, Akihiko)

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