2003年11月10日
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覇者の戦塵1944 インド洋航空戦(上) 谷甲州 中央公論新社

Written By: 川俣 晶連絡先

 かなり前に読み終わっていた本ですが感想を書いていませんでした。

 架空戦記というのは、イマイチ面白みが感じられませんが、その1つの理由に、武器は超兵器、登場人物は政治家や軍隊の高級指揮官ばかりということがあります。

 それに対して、なぜ「覇者の戦塵」シリーズが読めるのかと言えば、一国の軍隊の看板を背負って立つような凄い兵器ではなく、そして、下っ端の最前線にいる兵士から見た世界が描かれているからと言えます。それは、美化された戦争ではなく、異国の特殊な状況に立たされた日本人の物語であると言えます。そこが、とても良いところですね。

 この巻でいえば、潜水艦搭載の小さくひ弱な偵察機や、装甲は無いに等しい民間船改造の仮装巡洋艦などが活躍します。必死に搭乗員を助ける活動が続く描写があったり、敵の意図を考えたり、連絡の取れない潜水艦の艦長の行動を予測したり、努力する人間の魅力がとても良く描かれているところが良いですね。

 襲ってくる敵機も、複葉のイギリス機、ソードフィッシュだし。

 しかし、表紙が迷彩塗装された仮装巡洋艦という地味なもので、はたして売れるでしょうかね。並んで置かれている景気の良い架空戦記本は、超戦艦大和のような凄いものばかりなのに。

 もちろん、個人的には仮装巡洋艦の方が好きです。それは言うまでもありませんね。