2004年01月12日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編 total 3719 count

四季 秋 森博嗣 講談社

Written By: 川俣 晶連絡先

実に簡単で分かりやすいことながら §

 最近、読書の時間が少ないと思っていました。どこかで、きちんと本を読む時間を確保しないと、未読本が減りません。

 というわけで、えいやっと、寝る前の時間に読書しようと思いました。

 本当は、サン=テグジュペリの夜間飛行の読書を再開したところで、この続きを読むのが順当かと思ったのですが、鞄を見ると入っていません。仕事場に置いてきたようです。そのかわりに、今日買ったばかりの四季 秋が入っていたので、これを読み始めました。

いつものように、あっさりと予測を裏切られて §

 まず、四季シリーズでありながら、実質的にS&MシリーズとVシリーズの隠された関係を明らかにする内容であり、しかも主人公は西之園萌絵であって、四季とは言えません。それにも関わらず、四季というキャラクターが大きな存在感を持ってそこにあるのは見事な表現力ですね。

森博嗣め、しめしめとほくそえんでいるだろう §

 と思わせるような内容ですね。

 既にどこかでさりげない描写で示していたかもしれませんが、へっくんが犀川であるという驚きの事実。

 既に、S&MシリーズとVシリーズは時代がずれているという状況は示されていましたので、そこから、時代がずれた形で両シリーズの登場人物が交わる話はあり得る状況ではありましたが。それでも、けっこうな驚きと言えますね。

どこまでが用意された伏線かというと §

 おそらく、Vシリーズ開始時点で各登場人物がS&Mシリーズとどう関係するかを緻密に設定したのだろうと思います。もちろん、そのことは、適切な時が来るまでは、しらんぷりを続けるということです。

 しかし、レゴなど、「すべてがFになる」との関係に関しては、おそらく後付けで考えたのだろうと思います。さすがに、あの当時にここまで緻密な設定を考えていたとは思えません。ですが、既に出版されてしまい、今更動かすことができない状況に別個の意味を与えるようなトリック的文章を考えるのは面白いと思います。

 そういうことは、遠野秋彦氏もやっていて面白いと言っています。たとえば、イーネマスというのは、本来先に構想された作品より前の時代の物語を先に書いたような状況であるために、もう1つの作品の前提条件となる結末として終わることが要求されていたそうです。しかし、そういう拘束は、かえって燃えるところがあり、しかも突き詰めていくと予想もしなかった展開が導き出されたりして、面白いのだと言います。

 そこから考えると、きっと、この作品を書くことは、作者にとって、とても面白い行為だったのではないかと推測します。

でも、あえて書き加えるなら §

 世間ではS&Mシリーズの方に人気があるうようですが、Vシリーズの方がずっと良くできた面白い話だと思います。こうして、登場人物が並ぶと、その感は強くなりますね。

冬遠からじ §

 というわけで、あと1冊、「冬」が出ることが予測されます。ここまで、こんな話をぶち上げてくれたあとで、いったい「冬」が何を語るのか。

 おそらく、作者はいろいろな言葉のトリックを既に仕掛けているに違いありません。

 今から楽しみですね。