誰が言い出したのか、まことしやかに流布される謎の解釈。
今回のIT都市伝説はこれだ!
16bit時代のWindowsはDOSのグラフィックライブラリに過ぎない §
16bit時代のMicrosoft WindowsはDOS(MS-DOS/PC-DOS)のコマンドプロンプトから起動していました。また、Windowsアプリケーションであっても、int 21hのMS-DOS API呼び出しを多用するプログラミングを要求されました。たとえば、Windows 2.xなどでは、新しいプロセスを起動するために、WindowsのAPIではなく、int 21h経由で新しいプロセスの起動を要求する必要がありました。
このような事情があるためか、16bit時代のWindowsはDOSのグラフィックライブラリに過ぎないという解釈がまことしたやかに語られていました。また、そのように言い切ることが、正しい物事を知る通であるかのように見られる風潮もありました。
実際はどうなのか §
16bit時代のWindowsは、主にKernel, GDI, Userというモジュールから構成されます。このうち、グラフィックラブラリに相当するのはGDIのみです。では、他のモジュールは何をするものかというと。Userはユーザーインターフェース(シェルではない。念のため)の提供を役目とします。たとえば、GUIのユーザーインターフェースを構築するためのパーツなどが含まれます。これも広義のグラフィックライブラリのうちと考えることができるかもしれません。
では、最後に残ったKernelとは何かというと、メモリやプロセスを管理するモジュールです。これを広義のグラフィックライブラリのうちと考えるのは、少し無理がありすぎるでしょう。
ここで、おやと思った人がいるかもしれません。既に、プロセスを起動するには、MS-DOSのAPIを呼び出すと説明したばかりです。それなのに、プロセスをKernelが管理するというわけです。
このような矛盾したかのような説明は、ある事実を理解することで、すっきりと解きほぐすことができます。その事実とは、16bit時代のWindows環境下のint 21hは、実際にはWindowsによって処理されているということです。つまり、MS-DOSのAPI呼び出しは、Windowsが受け取り、MS-DOSとは異なる機能性が付与されているということです。
このような構造は、おそらく、同じ機能に対するリクエストを複数用意することが非効率的だと考えられたためではないかと推測します。不必要な複雑さを与えず、シンプルにすることには価値があります。16bitパソコンの乏しいリソースも節約できます。
では、MS-DOSは何も使っていないかというと、そうではありません。MS-DOSの機能のうち、そのまま使用できるものは使われていました。特に、ファイルシステムの管理には、ほぼ丸ごとMS-DOSが使われていました。これにより、特殊なファイルデバイス(たとえばMOなど)を使う場合、MS-DOSのドライバを正しくインストールするだけで、Windowsからアクセスが可能になっていました。
従って、16bit時代のWindowsとDOSの関係をより正しく言い換えるなら、(厳密に正しいものではありませんが)以下のようになります。
16bit時代のWindowsはファイルシステムの機能を除くDOSのほぼ全ての機能を置き換え、それにGUIの機能を付け足すライブラリの集合体である (グラフィックライブラリも含むが、それは一部に過ぎない)
