2004年03月28日
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バカの壁 養老孟司 新潮新書

Written By: 川俣 晶連絡先

 電車の中で読んでいたら一気に読み終わってしまいました。

 この本の評価は非常に難しいところです。

 功罪相半ばするというか。中庸ということではなく、突出した「功」と、それと不釣り合いなほどの、そりゃあないだろうと言いたくなる「罪」。そのギャップの大きさが、とてもつもない個性を発揮している希有な本という感じがします。

§

 現在、あまりにも多くの人達が見落としている当たり前のことを、次から次へと読者に投げつけるところは痛快ですね。内容の多くは私も思っていたことですが、それを分からない人達にどう伝えて良いか、考えあぐねるほど難しいところがあります。表現がまずいと、ただのバカの烙印が押されかねませんし。いや、表現が良くても、自分は分かっているはずだという人達は読まずに誤解してバカという烙印を押しかねません。そういう難問を、いけしゃあしゃあと正面から突破してしまった感があります。これも年の功?

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 とはいえ、褒めてばかりもいられません。

 かなり、議論としてはうかつな内容もあちこちに見られます。

 その典型的な一例が、脳をy=axという式で表現してしまうあたりにありますね。出力の強度が係数aによって変化するというのは良いとしても、1次関数になるというのは、ちょっと飛躍した話であるように見えます。(せめて、y=f(x)と書いてくれれば……。それでもまだ突っ込む余地はあるのですが)

 また、話をあまりに単純化しているという印象を持つ箇所も多くあります。

1つの連想 §

 90pのあたりで、昔は軍隊が身体性を規定していたという話を読んで連想したことがあります。

 それは、大学の学生実験でレポートの再提出の繰り返しとなって精神的にボコボコにされた経験です。書いても書いても再提出。おまえなど、相手にされないゴミのような存在だと、身体に叩き込まれたような感じがします。それと、軍隊に入った若者が鬼軍曹にしごかれて自分がゴミだと思い知らされるのは、もしかしたら似たようなことなのだろうかと。

 もし似ているとすると、次に気になるのは、こういう経験は全ての大学生が経験することなのか、あるいは、学部や学科、先生によって経験したりしなかったりするのか、と言うことです。そのあたりのデータを集めたり、あるいは、そのような経験に有無が人間性に影響を与えているのか、といったことを見てみると面白いかも知れないと思いつつ。そんなことをやってる暇は無いですね。

 しかし、もしもああいう出来事で、身体性を認識させることができるなら、日本が軍隊と徴兵制を再び持つよりも良い方法があると言うことになって、ちょっと面白いかも知れません。