ガンダムのマンガの中で、心底これは凄いと思ったものは3つ。ボンボンコミックスのMS戦記、トニーたけざきのガンダム漫画、そしてこれです。
特に、旧ザクを読み間違って付けられた1日ザク(いちにちざく)はネタとして面白いので、時々話題にすることがありますが、予想外に知らない人が多いのが実情でした。
とはいえ、誰も知らない、というほどマイナーではなく、しばしば1日ザクという名前を目にすることがあります。たとえば、ガンダム ネットワーク オペレーションというオンラインPCゲームの機体情報を見ることができるgnoviewerというツールを使うと、通常は目にすることができない機体の情報も閲覧できますが、その中に以下のような機体があります。
搭載 | 機体名 | 補給 | HP | 回避 | 先制 | 距離1 | 距離2 | 距離3 | 移動 | 附加情報 |
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10 | 1日ザク | 10 | 999 | 77 | 88 | 555/80 | 555/80 | | 汎用3 | デバック用 |
表示画像はザクIのものが使われているようですが、デバッグ用の強力な機体を1日ザクと名づけているのは、明らかにこの作品を意識してのことでしょう。
なぜ、についての答え §
なぜ、この作品が知られていないのか。その理由は、ずっと入手困難だったから、と言うことだろうと思います。そこまでは疑問の余地はあまり無いと思います。
では、なぜずっと入手困難だったのか。なぜ再刊されなかったのか。
その理由が、本書の目次を見て分かりました。
原稿紛失。それが理由だったわけですね。
本書は、過去に出た版の出版物を元に作成されているそうです。それゆえに、まさに過去に見たあの本そのままのページが再現されています。変更点、新規書き下ろしは、たぶん表紙を除いて 無いのだろうと思います。
分かってみれば簡単な理由ですが、これだけ重要(主観)な作品の原稿が無くなるとはいったいどういうことでしょうか。
内容について §
内容は凄くいいですね。
基本的には、1年戦争末期のジオン国内の状況を、敗戦間際の日本の状況になぞらえた話と言えます。通常、ジオンはナチスドイツになぞらえることが多いと思いますが、あえて身近な日本というところが、まずオリジナリティがあってポイントになります。
そして、主人公は、崇高な理念ではなく、現実の家事や育児に対処する行動原理によって戦うヒロインです。敵が悪だから倒すのではなく、他人の迷惑を考えない公徳心を欠く行動を取るから、お尻を叩くのです。これも、重要なポイントですね。
更に、本来科学とメカによって成立するガンダム世界に魔法と変身を持ち込んでいます。もちろん、時代背景を考えれば、ロボットに魔法がつながるのは良くあるパターンです。しかし、魔法抜きで成立しているガンダムという作品の世界観を壊すことなく、そこにある割り切れない何かの気持ちの隙間を使って、魔法を成立させているところが良いセンスだと思います。たとえば、シャアとキャスバルが同一人物ではないような描写は奥深いですね。
そして、ストーリー構成の上手さ。やはり、ガンバスターのようにザンジバルの上に出てくる1日ザクのシーンは泣けます。
というわけで、ガンダムが好きな人は必読だ!と書こうと思ったけれど、きっと少なくない割合の人達が、こんなものはガンダムではないと言うと思うのでやめておきます。