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2004年10月14日
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死神家の人々

Written By: 遠野秋彦連絡先

 神は世界と人類を創造した。

 地に満ちる命を見て神は喜んだ。

 しかし、喜びもつかの間であった。

 創造した生き物たちは、みな限りある命を持っていた。つまり死んでしまうのである。

 神は心を痛めた。そして、生き物たちに不死性を与えようと必死になって努力した。

 しかし、それは不可能だった。

 神は不死であったが、それは神の身体の一部をなす特性であって、それを生身の身体を持つ生き物に分け与えることはできなかったのである。

 やむを得ず、神は、神を創造したはずである神の神、メタ神に祈った。メタ神なら、不死の生き物を創造できると思ったからだ。しかし、メタ神などという都合の良い存在が、そう簡単に見付かるはずもなく、祈りは孤空に消えた。

 神は、生き物の死は必然だと悟るしかなかった。しかし、そのまま放置しても、生き物は死んで少なくなっていくばかりである。せっかく作った世界が滅んでいくのを見るのは、神としても嬉しいことではなかった。

 そこで、死んだ生き物が再び新しい生を得る輪廻転生のシステムを世界に組み込んだ。死んだ生き物の肉体は滅ぶが情報は滅びない。そして、情報は新たな生き物を生み出す源となるのだ。

 神は、これで完璧だと胸をなで下ろした。

 だがそれは早計だった。

 生き物たちは、相互に触れ合って、情報を増やした。生き物が死んで、その情報を新たな生き物に移し替えようとしても、収まりきらなかったのだ。それを納めるために、生まれる子孫の数を増やし、分散させるしかなかった。とはいえ、神の力を持ってすれば、その程度はたやすいことだった。神はあらゆる物を支配しているのだ。子の身体を増やすぐらい、何でもなかった。

 そして、世界は生き物で満ち溢れていった。それは神が想定した楽園内には収まらず、過酷な楽園外にも広まっていった。

 やがて、神は増えすぎた情報に音を上げた。輪廻転生させるには死ぬ生き物の情報を回収し、それを新しい肉体に入れてやらねばならないが、その手間が増えすぎてしまったのだ。神は全ての物を支配する力はあったが、情報は支配下になかったのだ。おそらく、情報はメタ神なら支配できると神は思ったが、彼は神であってメタ神ではない。

 神は、自らの限界を悟り、いっそ、この世界をそのものを終わらせてしまおうかと思った。しかし、せっかくここまでやってきた世界でもあるし、何より愛着があった。

 そこで、神は名案を思い付いた。

 生き物たちを生み出したのと同じように、輪廻転生の情報を扱う者達を生み出してしまえば良いのだ。

 さっそく神は、生き物の情報の輪廻転生を司る男を作り出した。

 初の死神の誕生である。

 死神は、神よりなすべき仕事のレクチャーを受けると、自分の存在意義の重大さに震えた。自分がしっかり仕事をしなければ、あらゆる生き物が輪廻転生せず滅んでしまうのだ。そこで、死神は必死に働いた。

 しかし、死神が働けば働くほど、生き物は増え、世界は情報に満ち溢れた。

 死神は音を上げた。

 神は、増え続ける生き物に対処するには、死神も増え続ける必要があると考え、女死神を生み出すと、死神にパートナーとして与えた。二人は喜怒哀楽を共にし、情報を増やした。その情報が、新しい肉体に魂を与え、死神の子らとなって仕事を助けた。

 死神家の誕生である。

 死神の子らも結婚し更に子をなした。生き物の数も増えたが、死神の数も増えていっために、輪廻転生は円滑に行われた。

 神は満足したが、ある時ふと違和感を感じた。

 神は不死の者を生み出せない。それなのに、なぜ死神達は死なないで全員仕事をしているのだろうか。

 さっそく神は調べて見た。

 そして大きな勘違いに気付いた。

 死神であろうと、死ぬ時には死ぬ。しかし、死神の情報を回収する者はいない。情報は、死神家の中に残る。そして、死神家の者達は、彼らにも模造の身体を与え、活動させていたのである。模造の身体などいくらでも作れるので、一度死んでしまえば、それ以上死ぬ気遣いはなかったのである。

 神は、この状況はまずいと思った。死んだ死神に模造の身体を与えて生き延びさせるなど、本来神の領域に属する生死の権限を侵しているようなものでる。

 神は、さっそく死神の情報を回収して輪廻転生させるメタ死神を生み出す決意をした。しかし、それを生み出そうとして、はたと手が止まった。同じことがもう一度繰り返されたらどうしよう……。つまり、メタ死神は誰も情報を回収しないので、模造の身体を使って死んでからも生き続けてしまうかもしれないのだ。

 そこで、そのような問題を自動的に抑止するメタシステムを構築することにした。

 死んだ死神は、メタ死神によって情報が回収され、死んだメタ死神は、メタメタ死神によって情報が回収されるのである。より上位の死に神が存在しない場合には、自動的に最初に死んだ者が上位の死神の第1号となり、それ以後に死んだ下位の死神達の情報を回収するのである。そして、回収した情報を元に異性のパートナーを得れば、仲間を増やすことができる。

 このシステムであれば、どのようなレベルであっても、死神に死人が出れば、その時点でその階層の死神の情報を回収するシステムが自動的に生み出される。たとえば、メタメタ死神が最初に死んだ時には、死んだ者がメタメタメタ死神の第1号となって、メタメタ死神達の情報を回収するのである。そして、パートナーを得て仲間を増やしていく。

 これで、神は安心して、自分が生み出した世界を眺めていることができた。

 しかし、神は爆発的にメタ階層を増やしていく死神達を注意深く見守るべきであった。

 メタの数が増えるごとに、死神達は必然的により上位の力を行使する権限を獲得していった。徐々に、神の行使する力を自らの中に取り込んでいった。

 やがて、最初のメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタ(メタ×100)死神が誕生した時、彼はあらゆる物質を自由に扱う力を持っていた。つまり、神と同等の力を持っていたのだ。

 そして、最初のメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタ(メタ×100)死神が死んだ時、システムに含まれたメカニズムによって、最初のメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタメタ(メタ×101)死神として転生した。彼は、物だけでなく、全ての情報を扱う力を持っていた。それは、神を凌駕し、メタ神と同等の力であった。

 メタ神となった死神は、あたりを見回した。すると、本来なら既に死んでいるはずの者が、延々と生き続けている姿を見つけた。その者は、自分が不死だと信じていたが、何のことはない。既に死んでいるのに模造の身体に入り込んで、生きているつもりになっているだけだった。

 さっそく死神は、「神」と名乗るその者の情報を回収した。

(遠野秋彦・作 ©2004 TOHNO, Akihiko)

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