2004年11月01日
トーノZEROアニメ感想蒼穹のファフナー total 4040 count

運が良けりゃ死ぬし、悪けりゃ生き残る!?

Written By: トーノZERO連絡先

 謎のアニメ感想家(笑)、翼の騎士トーノZEROのアニメ感想行ってみよう!

 今日のファフナーの感想。

サブタイトル §

第17話 「生存 ~しかけ~」

あらすじ §

 人類軍は竜宮島を離れますが、2隻のうち1隻を残していきます。

 しかし、それは島を破壊を目的に自爆させるために残したものでした。カノンは、そのために自ら自爆のスイッチを押すために残されます。

 日野道夫はそれを知ると、島に取って返します。それを撃墜しようとする人類軍のシステムを狩谷はダウンさせて道夫を援護します。

 人類軍は潜水艦の弾道弾で島を攻撃させます。

 日野はそれを迎撃に向かい、マークザインの一騎はカノンの説得に向かいます。

 カノンは人間らしい心を取り戻し、爆破を止めます。

感想 §

 あまりに泣かせます。

 いきなり開始早々こんな台詞が。

真矢「一騎君、やったんだ。あんなに疲れていたのに」

 勝利を褒め称えるのもなく、お礼を言うのでもなく、彼がとても疲れていたことを気遣うとは本当に優しい泣かせる台詞です。

 開始早々この台詞を聞いた瞬間に涙が出ました。

 そして、コア(乙姫)と総士の会話。

乙姫「意志じゃないよ。これは夢」

 また涙が出ました。いい台詞です。堅苦しく「意志」を問題にする総士に対して、とても人間らしい「夢」という言葉で応える乙姫。とても泣けます。

 しかし、その程度で泣いているのは甘かった!

総士「なんでも望み通りにしよう」

乙姫「家族みんなで暮らしたいな。安心して、ただの我が儘だから」

 なんですか、この台詞は。

 もう本当に泣けますね。フェストゥムのようになることもできたはずの島のコアが、家族という暖かな言葉を使い、そして一緒に暮らしたいと言います。それだけでも泣けるのに、更にそれに続く言葉が「我が儘」とは。乙姫は島の全てを掌握しているというのに、自分の望みが我が儘であると言い、それが実現されないことを承知しているとは。そして、それにも関わらず、それを口にするとは。口にするというのは会話すると言うことであって、もちろんそれは本作にとって重要なテーマ性を持つ行為です。

 まだまだ続きます。

カノン「戦闘の途中で攻撃をやめた臆病者だ」

司令官「攻撃をやめた? 褒めてやらねばならんな」

 またまた泣ける台詞です。実に嬉しそうな父親の顔が泣かせますね。カノンと戦おうとしなかった一騎の行動は、誰にも認められて来ませんでした。しかし、現場にいなくても、それが意味するところを父親は理解し、微笑むことができるわけですね。

 まだ終わりません。

総士「さあ、話そうか」

 なんと不器用な言い方でしょう。会話をするのに、そんな言い方はないでしょう。そして、そのあまりの不器用さは「おまえって本当に不器用だな」と一騎にまで言われてしまいます。しかし、その不器用さは誠実さの表れでもあります。

 まだまだあります。

真矢「私だけいない。私が撮った写真だから当たり前か。私はどこにいればいいんだろう」

 ただ単に自分が撮ったというだけの理由で映っていない写真から、こんな哲学的な考えに進むとは。凄い台詞センスです。

道夫「運が良けりゃ死ぬし、悪けりゃ生き残る」

 常識の逆ですが、それが実感になるとは何と凄い状況であるか。

 更に一騎によるカノンの説得が凄いですね。

一騎「命令されたとき、安心しただろう」

一騎「おまえはどこにいるんだ」

カノン「まえはいた。今はもういない」

一騎「おまえ、いるじゃないか。そこに」

一騎「おまえがそう決めたんなら、一緒に消えてやる」

 ごちゃごちゃ理屈を述べているような状況ではありません。

 これらの台詞に圧倒されます。

感想の続き §

 オープニングの映像が一部変わっていますね。マークザインが登場していますね。今回から? これだけのことをやっておきながら、主役ロボットの交代という、商業的ロボットアニメのパターンが踏襲されているのはちょっと可笑しい感じもしますね。

 竜宮島を通してフェストゥムは人類の情報を読み取っている、というのも凄い話ですね。人類軍に嫌われるわけです。

 総士と一騎との会話で、総士の薬が話題になります。総士はパイロットが感じた痛みが戦闘後に総士の身体で再現されることがあると言います。それを押さえるための薬だとか。総士は実に厳しい人生を送っていることになりますね。パイロットの痛みを共有しているとは。しかも、そのことをパイロットには伝えていません。不器用な奴です。

 乙姫は、長くて三ヶ月生きていられるという寿命が明らかにされます。それでも明るく振る舞う乙姫はある種の希望ですね。

 同化現象を起こしながら個体であることを保つ、という特徴を共有するマークザインと乙姫。これもまた凄い話ですね。同化とはなんぞや、個体とはなんぞや、ということが問われる状況です。おそらく、個体とは個体であり続ける意志であり決断である、ということなのでしょう。

 日野道夫の生きた帰還は1つのホッとする結末ですね。けして自己犠牲で死んではいません。

感想の続きの続き §

 そして、今回の最大の見どころは、やはりカノンの説得シーンですね。

 ここで行われたことは、「会話すること」「選ぶこと」です。

 まともに会話することによって、カノンの中の本来ある人間性が呼び起こされていきます。一騎が行った会話は、軍人の会話ではありません。あたりまえの人としての会話です。パイロットとして優秀であるか、というような職業人としての会話ではありません。そして、その会話の中で浮かび上がってきたのは、カノンは選択を放棄した存在だということです。しかし、カノンにも選ぶことができます。一騎は、会話ができること、そして自分の考えで選ぶことが可能だという認識をカノンの中に復活させたと言えます。それこそが、コミュニケーションに苦しむ「個」をカノンの中に復活させたと言えるでしょう。しかし、その苦しみさえもが可能性であり、希望と言えます。

 これによって、会話、選択、個といった既に提示された本作の概念が、今回は別の形、カノンを救済する形で描かれていますね。分かりにくい概念を繰り返し異なるシチュエーションで描き込むことで、より分かりやすくしようという試みでしょうか。とても泣かせる良いシーンでした。