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2004年11月12日
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さあ少女達よ、魔女となりて世界を快楽と堕落に導こう

Written By: 遠野秋彦連絡先

 甘い生活。

 だらけた生活。

 男をはべらせる生活。

 家事もしたくないし、かとって外に出て必死に働いてお金を稼ぐのもイヤ。

 そんなことばかり常日頃から思っていたクララは、周囲からボンクラとあだ名を付けられ、そう呼ばれていた。

 一応、公式には、彼女のあだ名はボンクラではなく、ボン・クララであるとされていた。なぜ、ボン・クララと呼ばれるようになったのかといえば、もちろん理由がある。クララは、パパの仕事の都合で7歳の時に半年ほどボンに住んでいたのだという。そのことを繰り返し吹聴して自慢したために、多くの者達がクララといえばボン、ボンといえばクララを連想するようになった。

 もっとも、それが本当に彼女のあだ名の根拠かというと、それは怪しかった。なぜなら、ボンは彼女が「住んでいたことがある」と吹聴した場所の1つに過ぎないからだ。クララは、フィラデルフィアでは軍関係の秘密の実験を目撃したと言い、オオサカでは2年間の滞在のうち、熱狂的なファンを持つ地元プロ野球チームのリーグ優勝のお祭り騒ぎを3回も目撃したと主張した。しかし、クララが最も繰り返し強調したのは、サンクトペテルブルグでの体験だった。女王エカテリーナ2世が集めたお宝を何回もうっとりと眺めたという話は、ボンの話の何倍も繰り返された。サンクトペテルブルグという名前が長すぎて、サンク、サンクと繰り返すクララに、サンクラのようなあだ名が付けられても何ら不思議ではない状況であった。しかし、誰もクララをサンクラと呼ばずにボンクラと呼んだのは、やはり彼女がボンクラだと誰もが思っていたためだろう。

 しかし、だからといってクララが単なる無能少女であると決めつけるのは適切ではなかった。クララにも、自らが望んだ堕落した生き方ができるというそれなりの根拠があった。その根拠とは、クララに優しかった従兄弟のお兄さんの彼女という人物にあった。

 ベンキンというその女性は、いつも黒く身体の線も露わな服を着込んで、過剰なまでの色気を放っていた。ベンキンは、ほんの一瞬で、従兄弟のお兄さんの視界からクララを消し去った。それ以後、クララは下心ありげな従兄弟から優しくされることはなくなった。だが、それでクララは怒るどころか感銘したのだ。ベンキンは、従兄弟を完全に支配し、金を貢がせ、そして家事も全て実行させた。ベンキンを満足させた時、初めて従兄弟はベンキンのベッドに入ることを許された。その様子を、14歳のクララはしっかりとドアの隙間から覗いていた。性的な快楽なるものの存在を意識し始めていたクララは、ベッドの中でまで激しくひたすらにベンキンに支配され、快楽を与え続ける従兄弟を見、そしてその快楽の中でこれ以上ないほどの満足げな表情を見せるベンキンを見た。これこそが、クララの目指すべき人生でなくて何だろうか。

 それからクララは、自分もベンキンのようになろうと努力した。いや、努力したと思い込んだだけの話で、客観的に見て世間の努力家の10分の1の労力も払ってはいなかっただろう。しかし、それにも関わらず、クララは正しい結論に達していた。

 ベンキンには何か秘密がある。ただの女では、あそこまで上手く男を支配し、快楽と堕落の人生を送ることなどできはしない。

 そこで、クララはストーカーのごとくベンキンの行動を追いかけた。もちろん、勤勉さのカケラもなく飽きっぽいクララのことである。地道に情報を集めて、論理的に結論を導く、などということは行わなかった。

 その結果、ベンキンにまつわる膨大な情報の大半に、クララは気付きもしなかった。一部はクララの目にも入ったが、それらはクララの脳内を右から左に通過していって残ることはなかった。たとえば、人心掌握術に優れるカリスマ達と深い関係があるといううわさ話であるとか、エステや整形手術に膨大なお金を注ぎ込んだという陰口は、クララにはまったく意識されなかった。

 そのかわり、クララはもっと手軽な結論に飛びついた。ベンキンの住んでいる高級マンションのベランダに立てかけてあったほうき、そのベランダでいつも寝ている黒猫、そしてベンキンがセクシーな黒服しか着ない、というそのたった3点から、クララはベンキンの正体を魔女であると断じた。ベンキンが魔女であるとすれば、自らを美しく変貌させたり、いともたやすく他人を虜にしたりできる魔法も使えるのだろう。クララも同じ魔法が使えるようになれば、ベンキンと同じ人生を送ることができる。

 この判断は、まったく妥当ではなかった。なぜなら、クララがベンキンの住居のベランダと思って見ていたのは全く別人の住居だったからだ。単純に、マンションをドアの側から見た時とベランダ側から見た時では部屋の配列が左右逆になるという事実を見落としていたに過ぎない。まさにボンクラのクララである。

 クララのボンクラさは、更に留まるところを知らなかった。ベンキンは魔女であると結論づけると、即座にベンキンの部屋に向かったのだ。そして、こともあろうに、チャイムを鳴らして出てきたベンキンに向かって、「あなた魔女でしょ?」と指を突き付けたのだ。

 そう指を突き付けられたベンキンは狼狽した。ベンキンは自分の正体がばれないようにあらゆる緻密な偽装情報を張り巡らせていたのだ。どんな人間にも見破れるはずがない偽装であるはずだった。そのことは、魔女協会のセキュリティ・アドバイザーも太鼓判を押していたほどだった。

 ベンキンは、かつて致命的に堕落させ、破滅させた男の従姉妹にあたる少女の顔をきちんと覚えていた。それは、自らの正体を隠し、安全に仕事を遂行するために必要な技能の1つであった。

 そこでベンキンは悟った。あれから何年も経つが、その間、この少女はコツコツと情報を集め、論理的に結論を導き出したに違いない。それだけの優秀さを持った人間に対して、下手に嘘を付いても問題がこじれるだけである。いざとなれば、人間の一人ぐらい跡形もなく消し去るのは容易なことだ。もちろん、人間を堕落させることが目的である魔女にとって、殺人は敗北を意味する。死んだ人間はそれ以上堕落できないからだ。しかし、やむを得ない場合には始末書の山さえ書く覚悟と引き替えに行使可能な魔法であった。

 「ええ、そうよ。私は魔女です」とベンキンは緊張しながら答えた。

 すると目の前の少女は突然満面の微笑みに満ち溢れた。「私も魔女にしてください!」

 ベンキンは面食らった。「人間なのに、快楽と堕落の行使者になりたいですって? それは本気なの?」

 「快楽と堕落、大好きですから」と少女は何のためらいもなくうなずいた。

 ベンキンは思った。これほど優秀な少女が、ここまで迷いなく言い切れるということは本気であるに違いない。魔女がいかなる存在であるかは、とっくに調べ上げているはずだ。それにも関わらず魔女になりたいとは。これは魔女界にとって優れた新人を獲得するチャンスかもしれない。優秀な新人をスカウトすれば特別ボーナスも出るのだから、彼女はぜひとも自分でスカウトしなければならない。他の魔女に気付かれてはならない。

 ベンキンは慌てて言った。

 「分かったわ。見所がありそうだから、私が魔女界に連れて行ってあげる。快楽と堕落を学ぶ魔女の学校への入学できるように私が紹介してあげるわ」

 少女は嬉しそうにベンキンに抱きついてきた。「大好きよ、魔女のお姉様!」

 その甘い口調に、この少女は大物の魔女になるベンキンは確信した。

 クララは魔女界に足を踏み入れた。

 魔女界は、この世界とは地続きではなかった。魔法が無ければ行き来できない特殊な空間だという。まだ魔法を使えないクララのために、暫定的に移動魔法を使える使い魔の猫が与えられた。それが実に美しい黒猫の姿をしていることにクララは満足した。

 そして、クララは古めかしい石造りの大きな建物へベンキンによって連れて行かれた。そこが魔女の学校だという。クララは、そこで教えられるという快楽と堕落を思って、うっとりと陶酔しそうになっていた。

 魔女の学校の門をくぐる時、クララは少しだけ「入学試験があったらどうしよう」と思った。クララの学力では、あらゆる試験を突破することが困難であるからだ。しかし、ベンキンの推薦だけであっさりと入学は認められた。さすが快楽と堕落の学校だ、とクララは妙に感心した。

 人の良さそうな老婆である校長と、少しいかめしい痩せた中年美女である教頭への挨拶が済むと、クララはベンキンと分かれ、担当の教官に引き渡された。教官は、まさに男を自由自在に操縦できると思わせるだけの色気に満ち溢れた美女だった。クララは、自分もこの教官のようになれれば、一生男をはべらせて、快楽と堕落の人生を送れると思い、心を奮い立たせた。はやく、そんな姿になれる魔法を教えてくれ、と心の中で叫んだ。

 「さて」と教官は妖艶に微笑んだ。女のクララですら引き込まれてしまいそうな微笑みだった。

 「はい!」とクララは元気よく答えた。

 「あなたは途中編入になりますから、他人よりも相当な忍耐と努力が必要でしょう。そして、人並み以上に素早く学ぶ聡明さも必要とされます。ベンキンからは、それを満たすだけの優秀な生徒だと聞いていますが、覚悟はよろしいですね?」

 クララは、嬉しさのあまり、その言葉を良く聞かずに「はい!」と答えた。答えた後で違和感に気付いた。忍耐? 努力? 聡明? おおよそ、クララに似合わない言葉がずらずらと並んだ感がある。それよりも、快楽と堕落を教える魔法の学校で、なぜ忍耐や努力が必要とされるのだろうか。

 教官は更に説明を続けた。

 「この学校は全寮制ですから、寮に入って頂きます。朝は5時に全員起床、朝礼、体操、そして全員で寮の清掃を行ってから朝食。食事は質素な菜食になりますが、アレルギーなどは無いですね? 食事の後は精神修養のための座禅。それから学校に登校し、みっちりと教養を身に付けてもらいます。そうそう、先に学校で使う教科書をお渡ししますが……」

 教官は、クララが見たこともないほど分厚い本をドスンとテーブル上に置いた。

 クララはその厚さに目を丸くした。しかも、ページをめくってみると目がチカチカした。何しろ、小さな字がびっしりと並んでいて、挿絵もないのだ。

 「とりあえず、これを1週間程度でやりましょう。なに、本を読み慣れていれば難しいことはありません。魔女学の初歩の初歩ですから。これぐらいの厚さの教科書を10冊ぐらいやれば、他の生徒達に追いつけます。そうすれば、みんなと同じ授業に出られますから」

 それを聞いて、クララは耐えきれなくなった。

 「ちょっと待って下さい。1冊でもこんなに分厚いのに10冊もですか!」

 「ああ、そうでした。優秀な方でしたわね」と教官はうなずいた。「もちろん安心して下さい。卒業までには1万冊ぐらい読んで頂くことになりますから。普通の生徒なら300年以上掛かりますが、あなたなら100年ぐらいで読み切れるかもしれませんね。魔女になれば長寿になりますから、この程度の期間は一瞬に思えて物足りないかもしれませんが」

 教官がクララは優秀であると致命的に勘違いしていることよりも、100年も掛けてこんなに分厚い本を1万冊も読むという話にクララは気が遠くなった。

 そして、クララは重要なことに気付いた。そうだ、ここは快楽と堕落の学校なのだ。この学校で学ぶべきことが堕落であるなら、真面目に本を読むことが求められているはずがない。

 クララは叫んだ。「分かりました! つまり、この本を読まないで学校をさぼって堕落することが魔女の修行なのですね!?」

 教官はニッコリ微笑んだ。

 「面白いことを言いますね。さすが、ベンキンが推薦しただけのことはあります。ですが、そのような冗談はこの学校では禁止です。下手をすると処分の対象になります。ああ、この学校での処分とは、学校で飼っている魔物のエサにするという意味ですから気をつけて下さい」

 「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい」とクララは慌てて言った。「だって、ここは快楽と堕落の学校でしょう? どうして、決まりをきっちり守らなくてはいけないのですか?」

 「私を試しているのですね? もちろん答えられますとも。我々魔女は、人間達を堕落させるために存在します。より良くあろうと願う強い欲望を持つ人間達を、我々の正体に気付かれることなく、完膚無きまでに堕落させるには、たゆまぬ努力と緻密な計算が必要です。快楽と堕落を与える側の者が、快楽と堕落に囚われては、人間に完璧な堕落を与えることなどできません。何が起ころうとも堕落せずに職務を全うするストイックな強い心こそが魔女に求められる必須の資質なのです」

 そう言って教官は誇りに満ち、意思の強そうな微笑みを浮かべた。

(遠野秋彦・作 ©2004 TOHNO, Akihiko)

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