2004年11月23日
トーノZEROアニメ感想ハウルの動く城total 3595 count

ハウルはジブリによる「家族の映画(山田くん)」のリベンジか?

Written By: トーノZERO連絡先

 映画「ハウルの動く城」で印象に残ったのは、ハウルの城に集まった者達がまるで家族であるかのように共に生活する描写です。

ハウル一家とは §

 ハウルは家長であり、マルクルは子供、荒地の魔女はおばあちゃん、ヒンはペット、カルシファーは居候、そしてソフィーは妻であり母であり家事担当者としての役割を持つバランスの良い家族を構成しているかのように見えます。

 そして、ハウルはまさにこの家族を守るために戦うことになります。

 家族とは身体を張って守るに値するものである、ということがこの映画で示された価値観の1つであると解釈することもできるでしょう。

家族の映画で思い出すのは…… §

 家族の映画ということで思い出されるのはスタジオジブリで最も商業的に失敗したと言える映画「ホーホケキョ となりの山田くん」(高畑勲監督)です。世界の運命のような大きなテーマの次は身近な家族にテーマが揺る戻されると見込んで作った普通の家族の映画は、観客の支持を得られませんでした。その理由はいくつも考えられますがここでは触れません。

再びジブリが送り出す「家族の映画」なのか? §

 しかし、もしもハウルの動く城も家族について語る映画であるとすれば、家族をテーマにした映画が再びジブリによって作られたと言えます。

 既に一度失敗している家族の映画を再び作るというのは、どういうことでしょうか?

 当然、もう一度失敗すると思って作るはずがない以上、ジブリとして「山田くん」の興行的な失敗の理由は「家族というテーマ」ではなかったと結論づけていると推測されます。つまり、家族の映画で成功を勝ち取ることは可能である、と考えていると推測されると言うことです。

 より具体的に言えば、家族というテーマの料理方法(描写方法)を適切に選択すれば、家族の映画は受け入れられる、という主張があり得ると考えられます。

家族描写に関して「ハウル」と「山田くん」の違いとは何か §

 山田くんにおける家族とは、血縁関係のあるごく普通の日本のサラリーマン家庭です。

 それに対して、ハウルにおける家族とは、本当の家族ではありません。赤の他人が集まって、家族のように生活しているだけです。それは普通でも当たり前でもないことです。それ故に、見ていて家族であるという状況が強く意識されます。なんとなく、よくある光景として見過ごせず、強い印象を残します。

 更に、この家族は意識的に守らなければ崩壊してしまうのです。それゆえに、ハウルもソフィーも、家族を維持するために戦わねばなりません。荒地の魔女ですら、サリマンのスパイをカルシファーに食べさせるという方法で、一種の家族防衛に類する行為を行います。そのような危うさを持つ家族を描くことは、真に守るべき価値があるという深い印象を観客に与えうる可能性を持ちます。そして、山田くんの世界観の中では当たり前の存在であった「家族」が、努力してつかみ取る価値がある宝石へと変貌していくわけです。

居候のカルシファーという異物 §

 更に、もう1つ重要なポイントになるのがカルシファーの存在です。

 カルシファーは一般的な家族のどのポジションにも当てはまりません。それは夫でも妻でも子供でもおばあちゃんでもペットでもありません。いわば、家族に投げ込まれた異物です。

 そして、異物の存在は家族の安定した構造をかき乱します。(たとえば、ソフィーとカルシファーの約束の存在によって、ハウルとソフィーの関係に緊張感が発生したりします)

 しかし、かき乱されることはけしてマイナスの効果ではありません。

 安定が乱されることによって、普通なら無意識の中に沈み込んでしまう家族の構造が明瞭に浮き上がってくるからです。

 そして、カルシファーの居場所は家の中心、つまりは家族の中心と言えます。中心に異物を抱え込んだ家族は、異物と反応しつつ何もない場合と比較してより明瞭に様々な表情を見せてくれるように思われます。

これがジブリの答えなのか? §

 はたして、これがジブリから見た「家族の映画」の答ということになるかどうか、分かりません。あるいは宮崎駿監督から高畑勲監督に向けた家族に関する異論であるかどうか、それは分かりません。しかし、この2つの映画では、明らかに違う家族描写を見せてくれていることは間違いないように思います。

 どこかの暇人が、2つの映画を詳細に比較して論じてみたりしてくれると面白いと思います。

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