2005年01月13日
川俣晶の縁側電子出版事業部便り total 4972 count

このメイド萌え小説を読め! そして、なぜ気付いてくれないのだという情けない営業的嘆き……

Written By: 川俣 晶連絡先

 商品の魅力を売り込めていないことは、電子出版事業部の営業戦略としては欠陥であるかな、という気もします。

 というわけで、そのような観点から今ひとつアピールされていない商品の魅力というものを打ち出してみると。

萌えメイド小説としての「イーネマス」 §

 「イーネマス」全4巻は、かなりのボリュームを持つ大著であり、そこに含まれる要素は多岐に渡ります。

 さて、これは2002年に発行していますが、執筆はもっと古く主に1999年頃に行われています。それゆえに、この小説は20世紀から未来に行った者達の物語であって21世紀からではありません。その構想は更に数年を遡ると言います。

 そして、ここで強調したいことは、オタクの世界にある「メイドブーム」というものが現在ほど明瞭化する前から、この小説にはメイドが登場することが必然的になっていた点です。

 これは、作者の先見の明というべきでしょう。

ここにメイドあり §

 主にメイドが登場するのは、第2巻で、主人公の一人となる美少女、沢渡渚遊が、大商人オドマン・マルクに救い出された後です。

 奸計により性奴隷として売られる状況から救い出された渚遊は、オドマンの屋敷で賓客として扱われます。

 しかし、何もせずにやっかいになるのは申し訳ないという気持ちと、本物のメイド服を着てみたいという極めてオタク的な嗜好により、渚遊はメイドの仕事を手伝うようになります。

 イーネマスの世界は、もちろん、極めて変形させられた中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界であり、その世界の住人はオタク的視線をほとんど持ちません。しかし、20世紀のオタクであった者達がその世界に入り込むことによって、既にそこにあった例えばメイド服のようなファッションに異なる意味づけを行う視線が出現します。そのミスマッチの緊張感にこそ、今時の公然の常識としてメイド服を肯定するオタク向けメイド作品とは異なるより激しい魅力が発生している、と言ったら言い過ぎでしょうか?

気になる読者は、無料でも読めるプロローグを見よ! §

 メイドが登場するのはこの場所だけではありません。

 たとえば、作品のプロローグからして、既にメイドが登場しています。これは無料で読める立ち読み版にも含まれますから、ぜひ確認してみてください。

 ここで、登場するメイドは、メイドにしてはあまりに上品で、肌も美しい少女と表現され、そしてその正体はきわめて特殊な趣味をお持ちのために、この館ではメイドになっているだけ公爵令嬢であるとしています。

 つまり、メイドとは、趣味的嗜好 (特に性的ニュアンスを強く含む) によりなるものであるというマニア的な価値観が入り込んでいます。これはオタク的な視線とはやや異なる別の視線と言えますが、メイド萌えオタクにも十分に刺激的であろうと思います。

メイド開眼のルーツは…… §

 それだけのメイド描写を行う作者、遠野秋彦にとってメイドとは何か。

 それについて軽く質問してみたところ、あまりに予想外な答が返ってきました。

 とても公表できない未完の習作まで含めれば、おそらく1983年頃からメイドは作中に登場しており、1988年頃には既に濃厚な性的な意味を持つ存在としてのメイドを書いていたと言います。1988年頃の時点で、イーネマスのプロローグにちらりと登場し、主に第4巻の舞台の1つとなる背徳の館の原型となるコンセプトは既に書き込まれていたと言います。つまり、ディナーで給仕を行う若く美しいメイド達を客は品定めし、食後には選んだメイドと個室に入るという館が既にそこで明瞭に描かれていたと言います。

 そして、遠野秋彦は、今時のメイドブームなど、あまりに出遅れた生ぬるいものでしかないとまで言い切ります。(「おいおい、そこまで言ってないぞ。読者の気を引こうとして勝手に捏造してるんじゃない!」遠野談)

これを読め! いや読んでください、お願いします §

 なかなかアピールポイントが分かりにくい小説ではありますが、こういう魅力もありますので、ぜひお読みください。せめて立ち読み版だけでも……。

株式会社ピーデー電子出版事業部