2005年09月01日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 3446 count

メイドのプリンセス メイディー・メイ 第17話『ご主人様の仕事と聞いて首をかしげる新米メイド』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 君は知っているか。

 美しく可愛く献身的な少女達からなるメイド達。

 そして彼女らのご主人様となるオターク族。

 その2種類の住人しか存在しない夢の中の世界を。

 ある者は、桃源郷と呼び。

 またある者は、狡猾なる悪魔の誘惑に満ちた監獄と呼ぶ。

 それは、どこにも存在しないナルランド。

 住人達がボックスマン・スーフィーアと呼ぶ世界。

 そして、悪魔と取引したたった一人の男によって生み出された世界。

前回のあらすじ §

 本来ご主人様であるはずのオターク族であるのに、メイドになっている人物。そして、彼女を呼ぶご主人様の声。いったい、彼女とご主人様の関係はどうなっているのか。そして、男と女は対等だと言い切り、メイを混乱させるメイン・ベスの真意とはいったい?

 第16話より続く...

第17話『ご主人様の仕事と聞いて首をかしげる新米メイド』 §

 まだ何かを言おうとしていたオターク族のメイドは、彼女を呼ぶ声を聞くと態度を変えた。

 「さて、怠ける時間はこれでおしまい」と彼女は立ち上がった。「じゃあね、あなたと話をすると面白いから、また仕事をさぼってお話ししようね!」

 彼女は、楽しげにウィンクすると、そのまま屋敷の裏口から中に入っていった。

 メイは、どうやらオターク族のメイドは、メイン・ベスという名前らしいと気付いた。

 ドアを閉じる直前に、メイン・ベスは振り返って言った。「1つ、あなたにアドバイス。仕事をしているのはメイドだけだと思わないように、ね!」

 そして、メイン・ベスはドアの中に消えた。

 ドアの向こうから、声高にメイドを叱責する甲高い声が聞こえた。

 メイは、メイン・ベスが叱責されているのかと思った。

 しかし、厳しい体罰を与えているらしい悲鳴がかすかに聞こえてくると、分からなくなった。メイン・ベスはオターク族であって、オターク族は罰を与える側の存在だ。

 メイは別のメイドが罰を与えられているのだと解釈した。しかし、それで納得できたわけではなかった。

 その後、メイの心は別の問題で一杯になった。

 仕事をしているのはメイドだけではない……。メイン・ベスはそう言った。

 メイドはご主人様に言いつけられて仕事をする。それは間違いのない真理だ。メイン・ベスはそれを否定したわけではない。しかし、メイドの他にも仕事をしている者がいるというのだろうか。この世界には、メイドとご主人様しか存在しないというのに……。

 それとも、ご主人様も仕事をしているというのだろうか。しかし、ご主人様が掃除や洗濯をしているという話は聞いたことがない。いや、メイン・ベスはしているかもしれないが、彼女はメイドなのだから当然だ。

 しかし、メイン・ベスが自分のことを示してあのような言葉を言ったとは思えない。

 やはり、ご主人様も仕事をしているということなのだろうか。

 メイは、自分のご主人様である鉄鎖にそのことを質問しようかと考えた。しかし、その考えはすぐに捨てた。ただでさえ、メイド服のオマケとして置いてもらっている身なのだ。おかしなことを言って愛想を尽かされて放り出されるのは困る。

 では、先輩のノノ・ロイーズに質問してみようか。しかし、てきぱきと無駄なく仕事をこなすノノ・ロイーズには、そのような質問を行う隙が無かった。

 メイン・ベスに質問するという選択も考えたが、あの後、彼女と出会う機会はなかった。

 メイは、悶々とした日々を過ごすことになった。

 しかし、メイン・ベスと出会った3日後に、思わぬ機会が訪れた。

 その日、昼食ができたことを告げるために、メイは鉄鎖の部屋に向かった。

 鉄鎖は床一面に紙と本が散らばった重厚な書斎で、パソコンに向かって頭を抱えていた。

 箱の中の表情は見えなかったが、焦燥しきっているように見えた。

 メイは、おそるおそる、「昼食のご用意ができました」と告げた。

 鉄鎖は、パソコンの画面を見つめたまま答えた。「仕事が片づかない。1時間ぐらいしたら、食事に下りるとノノ・ロイーズに伝えてくれ」

 メイは雷に打たれたように驚いた。

 仕事が片づかない?

 つまり、ご主人様も仕事をしているということだろうか?

 しかし、いったい何の仕事をしているというのだろうか?

続く.... §

 ご主人様も仕事をしている……。

 それはメイには驚愕の出来事に思えた。いったい、鉄鎖の仕事は何だろうか。洗濯だろうか、掃除だろうか、それとも料理だろうか。

 次回へ続く。

(遠野秋彦・作 ©2005 TOHNO, Akihiko)

★★ 遠野秋彦の長編小説はここで買えます。

遠野秋彦