たまたまakirameiさんの以下のブログ記事で見かけた話ですが……。
「グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書」という書籍に以下のような記述があるそうな。
ところがマイクロソフトはすべてのAPIを公開せず、こっそり一部の規約だけは隠していたとされる。そして自社の「ワード」や「エクセル」はこの隠し規約をうまく利用して作られ、この結果、他のメーカーが作ったソフトよりも高性能にすることが可能になり、優位に立つことができたといわれている。「ワードやエクセルは使いやすい」という評判へとつながり、市場を制覇することができたのだ。
実際、16bit時代にはそのようなことが言われていた §
Windows 3.0から3.1にかけての時代には、確かに隠しAPIが存在しているという主張はまことしやかに流布されていました。
日本語版のWindows版のExcelはWindows 2.1から、日本語版のWordはWindows 3.0から提供されたように記憶しますが、この当時、ライバル他者がWindowsアプリケーションに参入しようとしても、これらに匹敵する性能が出ずに、その理由として求められたものです。
ここでいう性能は、主に表示性能と考えて良いと思います。
基本的に、Windowsの世界とDOSの世界の差は、ほとんどそこにしかありません。内部ロジックの性能は、UIがグラフィカルかどうかで差が出るわけではありませんから。
さて、いくら頑張ってもExcel並の性能が出ない……という状況に遭遇したときに、合理的な理由を推測するのは当然の成り行きでしょう。
その結果として、同じAPIを使っていないから……という結論に達するのは1つの合理性を持ちます。
ところがどっこい、そんな便利な隠しAPIなど無いのだ §
一見、合理性を持っているかのように見えるこの解釈、実は単なる都市伝説です。
16bit Windows時代(2.1～3.0)に、まさに表示の心臓部となるGDIのソースと格闘していた当事者として、これははっきり言いましょう。
劇的に表示が早くなるような隠しAPIはありません。
これは、実際にWindowsの解析本が出版され、明らかにされた話であるはずなので、おおっぴらに書いておきましょう。
当時のWindows開発チームの立場から言えば、それほど素晴らしいAPIがあれば、即座に公開していたはずです。なぜなら、16bit時代のWindowsとは、3.0で大ヒットとなるまで、誰からも相手にされなず普及が危ぶまれたOSだったからです。遅いという批判をかわせる手段があれば、それを公開しない訳がありません。
なぜ都市伝説は生まれたのか? §
同じAPIで描画しても歴然とした速度差が出るのはなぜでしょうか?
おそらく、単純にGUIの描画システムを上手く活用するノウハウ蓄積の差でしょう。
この時代のPCの性能は驚くほど低く、グラフィック描画も驚くほど低速です。このような状況下では、独自の描画ノウハウが必要とされます。たとえば、描画メッセージをキューに入れて遅延させる場合と、即座に描き直す方法をどう使い分けるか。いかにして描画API呼び出し量を減らすか。等々……。
おそらく、このような問題は、グラフィック描画にハードウェアによるアクセラレータが使われるようになって(S3 86C911の出現以降)、顕在化しなくなったのだろうと思います。
