2006年05月04日
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機動戦士Zガンダム デイアフタートゥモロー カイ・シデンのレポートより (1) ことぶきつかさ 角川書店

Written By: 川俣 晶連絡先

 カイが、「テロリスト集団のリーダー」の家族となったフラウ達に会いに日本の山奥に行ったとき。平和に見えるその光景の頭上をサイコガンダムが通過するところを読んで、「これは凄い作品だ……」と思ったそのすぐあと。

 PCのスピーカーからフォウの「止まれ、怪しい奴。動くと撃つ。バーン。(笑い声)」という台詞が流れてびっくり。偶然にも間が良すぎだぞ、このMP3ランダム再生プレイヤー。

 ちなみに、流れたのは、サイケガンダム(サイコガンダムの書き間違いではないことに注意)の「サイレント・ヴォイス」です。これは冒頭に、TVシリーズZガンダム劇中の台詞が挿入されています。

地に足が着いたまっとうなガンダム漫画 §

 実は、ガンダム漫画は山ほどあれど、地に足が着いたまっとうなコミックの割合は多くありません。ある意味、コミックの世界でも特につまらないジャンルだと言っても良いのではないでしょうか? そう思う以上、私もさほど多くを読んでいません。とはいえ、その僅かな割合の読書量だけでもかなりのボリュームになるのがガンダム漫画というジャンルでしょう。

 その中で、地に足が着いたまっとうなガンダム漫画として勧められるものがいくつあるかというと、たぶんコミックボンボンの「MS戦記」と「魔法の少女ブラスター・マリ」だけです。

 え? 魔法少女漫画のブラマリなのに、それが「地に足が着いる」かって?

 巨大ロボットだろうと魔法少女だろうと、何を出そうと地に足が着いた作品は描けます。

 それは言い換えれば、「リアル」とは何かという問題意識の「ねじれ」と言っても良いですよね。この「ねじれ」は、おそらく「オリジン」の出現で決定的に「ねじれきった」ような気がします。富野ガンダムと安彦ガンダムの間には、決定的かつ渡れないほど深い溝があったりするわけですが、富野ガンダムに見られる「常に足を地に着けようとするリアリティの根源」が安彦ガンダムには決定的に欠落しているように感じられます。だから、オリジンにはブラマリよりも高い評価を与えていないし、そもそも、部分的に読んだだけで単行本が出ても買わないわけです。買うだけの価値を見いだせないわけです。上手い絵と情報量と整合性はあるから、見ればそれなりに感心しますが、それは技術であって、作品の本質ではないわけです。

それにも関わらず §

 それがガンダム漫画の現状であるにも関わらず、こういう凄い作品が生まれてきたというのは特筆すべき奇跡と言って良いと思いますね。

 全般的に、整合性を取るために苦しい描写が見られるところがあるのが残念です。文字や理屈も多いし。その点で、MS戦記や、ブラマリと比較してスカッと来る分かりやすさはありませんが、きっとカイ君というのはこういう奴なのでしょう。

 ともかく、全てのエピソードに関して、見るべきところ、語るべきところがある素晴らしい本です。とても語り尽くせないので、あえて書きません。良いものを見させてもらいました。