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2006年06月22日
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オルランドのデストロイヤー乗組員

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オルランド宇宙軍が持つ武装の中で、特に「これぞオルランドの必殺武器」と称されるものは2つあると言える。

 1つは、100Kクラスバトルシップの主砲にして、C型以降の2Kクラス バトルクルーザーの艦首部に1門だけ装備された恒星破壊砲。

 この兵器は、祖国防衛戦争(オーバーキルウォー)の段階では、まだ恒星を破壊するだけの威力はなく、恒星破壊砲と呼ばれてもいなかった。銀河三重衝突事件の際、オルランドの故郷となる銀河に向けて撃ち込まれた2つの銀河を破壊し、銀河の衝突を回避しようという努力の過程で、まさに恒星を破壊する手段として改良、整備されてきた武装と言える。そのような意味で、この武装は比較的新しい存在なのだ。

 もう1つは反物質弾頭ミサイルだ。これは、祖国防衛戦争(オーバーキルウォー)の初期にまで遡ることができる比較的古い存在だ。

 言うまでもなく、反物質は通常の物質と触れあることで全質量がエネルギーに変換される。有名なE=mc^2の式により、僅かな質量でも莫大なエネルギーに変わるのだ。これを弾頭に組み込んだミサイルの持つ破壊力は絶大と言える。反物質を通常物質と触れ合わないように保持する機構がいかに大きく複雑とはいえ、それでも破壊力に比べて小さく軽いのだ。宇宙艦の大きさ、数、質において圧倒的に劣る初期の地球防衛軍すなわち事実上のオルランド宇宙軍にとって、これこそが劣勢を乗り切るための切り札となったのだ。

 事実として、初期の艦対艦の砲撃戦で圧倒的劣勢に追い込まれたとき、反物質ミサイルが逆転の切り札となった事例はいくつも見られる。それは、小型宇宙艇タイガーが、自分の機体よりも遙かに長い反物質ミサイルを抱え、敵艦に肉薄攻撃を仕掛けるというギャンブル性の高い行為ではあったが、確かに勝利を勝ち取るために貢献したと言えるのだ。

 そして、現在も反物質ミサイルはオルランドの主要な攻撃手段と見なされており、それを発射するためのに開発された最新装備がデストロイヤー(駆逐艦)ということになる。

 デストロイヤーは、本来なら対艦攻撃機アタッカー マーク4と呼ばれるべき存在だが、超光速航行能力を持つものは「艦」と分類するという規定により、攻撃機ではなく駆逐艦に分類されたものだ。

 8門の反物質ミサイル発射管と、4斉射分の反物質ミサイル(計32発)を持ち、ギャンブル性の高い肉薄攻撃を行わずとも、敵艦を包み込む飽和攻撃を可能としていた。また、自衛用の2機の戦闘機、そして反物質ミサイル攻撃を妨害するために出てくる敵の小型艦艇を排除するために、砲身収納式の連装荷電粒子砲を1基(2門)装備していた。その他に、レーザー銃座等の近接防衛装備も充実しており、デストロイヤー1個駆逐大隊(12隻)の攻撃を単艦で防ぎきることは、どのような高度な防御テクノロジーを持とうとも不可能……とすら言われた。

 2Kクラス戦艦『オクタビアヌス』搭載駆逐隊の護衛戦闘機隊配属を命ず……。

 辞令を受け取ったとき、レイミア少尉は心が躍った。

 レイミアは、男しかいないオルランドの者達を慰めるために作り出されたハイパー・アンドロイド、ハイプに過ぎない。しかし、制式採用された高機動型マークIファイターのパイロットは、生身の身体では務まらないということで、ハイプのパイロット職への進出が始まった。

 とはいえ、新規生産されるハイプはともかく、既存のハイプは適性試験を通らねばパイロットにはなれない。

 レイミアは、実はパイロットになることに興味はなかった。レイミアが望んだのは、デストロイヤーへの乗り組みだった。

 だが、それには理由がある。

 最初にレイミアが個人的に親しく慰めていたオルランド人は、祖国防衛戦争(オーバーキルウォー)で活躍したアタッカー乗りだった。敵艦の懐に飛び込み、反物質ミサイルを撃ち込んで、味方の苦境を救う英雄的なヒーローだった。撃沈スコアは仲間との共同スコアを含め、10隻を超えていた。だが、彼はすぐに怪我を負い、現役パイロットを退き、デスクワークにまわって今に至る。

 レイミアが寝物語によく彼から聞いたのは、いかにして勇気あるアタッカー乗り達が苦難を超えて味方を救ったかのという美化されたヒーロー物語と、アタッカーの後継機となる現在のデストロイヤーが、いかに理想的で素晴らしい機体かということだった。彼は、身体さえ許せばデストロイヤーに乗り組みたがっていた。

 そういった話をずっと聞き続けていたレイミアは、特にデストロイヤーとデストロイヤー乗りに興味を持っていた。他の男を慰めるように役目が変わったあとも、心の中でデストロイヤーへの憧れは消えなかった。

 そのような状況で降ってわいたのが、ハイプがパイロットに登用される道である。デストロイヤーに搭載される護衛戦闘機のパイロットになれば、自分もデストロイヤーに乗れる。そして、その可能性はけして低くはない。ハイプしか飛ばせない高機動型マークIファイターは、デストロイヤーの小さな戦闘機格納庫に収まる機体でもあるのだ。

 そして、勉強とトレーニングを重ね、レイミアはまさに希望を叶える辞令を受け取る段階にまで達したのだ……。

 レイミアは、人工惑星のドックに鎮座する巨大な艦を見上げ、側面に書かれた識別符号のOVを確認した。2Kクラス バトルクルーザー『オクタビアヌス』に間違いない。

 タラップの衛兵が親切に駆逐隊の司令室に案内してくれた。

 駆逐隊の司令官は、レイミアが想像した理想のデストロイヤー乗りそのものだった。荒々しく大胆で、それでいて瞳には強い勇気と理性が見える。

 レイミアは着任の報告を規定通りに行った。

 「君には、戦闘機パイロットに欠員のあるデストロイヤー7号に乗り組んでもらう。識別符号はOV-D7だ。そういうわけで、艦固有の戦闘機隊には、既にハイプのパイロットが2名着任しているが、本艦の駆逐隊では初めてだ。つまり、まわり全部は男というわけだ」と司令官は言った。「ハイプパイロットとの付き合い方がまだ飲み込めていない男も多いと思う。かなりきつい仕事になると思うが、よろしく頼む」

 「はい。問題ありません。自分はデストロイヤー乗りの男達に憧れておりましたので、一緒に乗り組めるなら多少のことは乗り越えられるつもりです」

 それを聞いた司令官は、少し肩の荷が下りたようにホッとした表情を見せた。

 しかし、それはレイミアが次の言葉を言うまでだった。

 レイミアは、自分がいかにデストロヤー乗りを理解しているか示すために言った。

 「デストロイヤーが味方の窮地を救う必殺の反物質ミサイルを発射する瞬間は、何としても敵の妨害からデストロイヤーを守って見せます」

 だが、それを聞いた司令官は急に表情を曇らせた。

 「ふむ。これは盲点だったか……」と司令官は言った。

 「と言いますと?」

 「君は、オルランド宇宙艦隊において戦闘機が果たすべき役割は教えられたはずだね」

 「正規カリキュラムは全て受講しております」

 「そこに、デストロイヤーが艦隊で果たすべき役割が書かれていたかね?」

 「いいえ。自分のデストロイヤーについての知識は、昔お慰めした祖国防衛戦争時代のアタッカーパイロットから教えられたものです」

 「そうか……。確かに、祖国防衛戦争の頃なら、君の言うことは正しい。だが、今はもう時代が違う……」

 レイミアは急に不安になった。「時代が違うと言いますと……?」

 「反物質ミサイルは当たらないのだよ」

 「なぜ……。反物質ミサイルは、推進部が破壊されても反物質が慣性で飛び続けて命中するのではないのですか。そして、それを排除するための攻撃は、敵艦の至近距離で対消滅反応を発生させて敵艦に大きなダメージを与えると……」

 「祖国防衛戦争の頃はそうだった。いや、より正確に言えば、祖国防衛戦争の末期には既に変わっていた。手の内を読まれてしまえば、対策は容易……というのが反物質ミサイルの最大の問題だ。反物質は何らかのフィールドでいくらでも進路を逸らすことができるからな。推進部を破壊されてしまえば、反物質を誘導する手段はこちらにはない。敵はやりたい放題というわけさ。それに加えて、後始末の問題がある。1個駆逐大隊12隻が持てる全てのミサイルを発射して遠距離飽和攻撃を行ったとしよう。12かける32で384発だ。このうち、命中が期待されるのは、実は2発に過ぎない。1発ではなく2発なのは、故障等のトラブルを見込んだ安全係数だ。さて、当たらなかった残り382発のミサイルはどうなるのだろう? もちろん、推進剤が尽きたらそのままの速度で進み続けるだけだ。反物質の保持装置の動力が切れたら、反物質はそのまま宇宙空間に解放され、そのまま進み続ける。そして、誰かが住む惑星にでも落下したら何が起こると思うかね? 大気圏上層部で膨大なエネルギーを放出し、惑星に天変地異を引きおこしかねない。滅びる生物や文化が生じることもあり得る。つまり、分かるかね」

 司令官はレイミアの顔を覗き込んだ。

 「我々は反物質ミサイルを撃ったら、それを全て回収しなければならないのだ。当たらない兵器に過ぎないのに、撃ったら回収しなければならないとは、あまりに無駄が多すぎる。ゆえに、我々はよほどのことが無い限り反物質ミサイルを撃つ許可をもらえないというわけだ」

 「では……」とレイミアは震え声で言った。「もはやデストロイヤーに存在意義などないと?」

 司令官は、そこでにっこりと笑った。「そうではない。図体が大きく小回りが利かない大型艦ではできない作業を一切肩代わりして実行するのがデストロイヤーの役目だ。艦隊を実質的に支えているのは、我々だという自負もある。大型艦の主砲を持ち出さねば解決できない問題など、滅多にあるものではない。しかし、デストロイヤーが出向いて解決すべき問題は、毎日のように生じているのだ。我々は、それらの問題に立ち向かうために、日々飛び回っているのだ」

 「はあ……」

 「そして、デストロイヤーとは、その任務を遂行するために信頼するに値する、素晴らしいフネだ。危険も大きいが、一度乗ったらやめられない……。君も、この素晴らしい価値を身体で感じてくれることを期待するよ」

 レイミアは、自分の頭の中で気持ちが切り替わるのを感じた。結論を出すのはまだ早そうだ。たとえ反物質ミサイルを撃たずとも、デストロイヤー乗りは素晴らしい人達かもしれないではないか。それに、憧れのデストロイヤーに乗れることには間違いないのだから。

(遠野秋彦・作 ©2006 TOHNO, Akihiko)

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