映画「さらば宇宙戦艦ヤマト」を再び分析の対象にしてみようという時代錯誤な企画。まずは、序論として気が付いた部分から手を付けて行こうと思います。間違い、勘違い、異論、反論などは上記メールアドレスかtestml4までお寄せ下さい。
ここでは下記の書籍に掲載されたシナリオ(撮影開始時のもので、映画内容と若干異なる)をベースにしています。
ロードショー責任編集「さらば宇宙戦艦ヤマト」VOL.2 昭和53年11月20日発行 集英社
森雪の謎 §
「さらば」における森雪の行動には謎が多いと言えます。
簡単にリストアップしてみます。
ヤマトに密航する理由 §
旧ヤマト乗組員は、少なくとも映画に描かれている範囲内では全員がヤマトに乗艦しています。それにも関わらず、旧ヤマト乗組員で生活班長という要職にあった雪が乗れない理由は考えられません。
それにも関わらず密航した理由は何でしょう?
あっさり古代に前に顔を見せる理由 §
密航したにも関わらず、土方を医務室に運ぶために、雪はあっさりと古代の前に顔を出します。
運ぶだけなら他の誰かに任せても問題ないはずです。
それにも関わらず、あっさり顔を見せた理由は何でしょう?
テレザートでは敵地に行かないのにデスラー艦では敵地に行く理由 §
テレザートの戦いでは、多くの者達が傷ついていますが、雪が戦場に自ら出向くという話はありません。
しかし、デスラー艦の戦闘では、自ら率先して手当のためと称して戦場に出向きます。
テレザートでの空間騎兵隊員の悲惨な負傷がデスラー艦の戦いに劣っていたとは思えません。
それにも関わらず、デスラー艦でのみ治療に出向いた理由は何でしょう?
最後の言葉が古代の勝利の祈願である理由 §
雪の死に際の古代に向けた言葉は、愛している……ではなく、勝って……なのです。
なぜ、雪は愛より戦闘(あるいは戦争)の勝利を古代に託さねばならなかったのでしょう?
雪は結婚式の話をほとんど持ち出さない §
雪が結婚式を意識した発言を行うのは、映画序盤のデートのあたりまでです。
その後、結婚式を意識した発言を行うのは古代であって、雪ではありません。
雪の発言は、結婚式を通り越して「二人だけの家であなたと……」という話になってしまいます。
なぜ雪は結婚式の話をしないのでしょう?
雪の心に秘められた「何か」 §
古代の心情は単純に理解できます。
彼は、宇宙全体の幸福と個人の幸福(雪を幸せにし、自分も幸せになる幸福)の2つを天秤に掛け、前者を選び取ったのです。それゆえに、雪に対して後ろめたさを持っています。
では、雪の心情は、古代と同じでしょうか?
古代と同じように、宇宙全体の幸福と個人の幸福を天秤に掛け、どちらかを選ぶ必要がある……と状況を理解しているのでしょうか?
もしそうなら、雪が取りうる選択は2つあることになります。
1つは、自分も宇宙全体の幸福を選択し、ヤマトに乗り組むこと。
もう1つは、個人の幸福を選択し、古代に行くなと言うこと。
しかし、実際にはどちらの選択も取られていません。雪の行動は「密航」です。
ということは、雪の心情は古代の心情とは異なる構造を抱えていたと推測できます、
ここで、「個人の幸福」については、古代と雪の認識にさほど差はないと推測できます。結婚間近の二人ですから、よく話し合って認識をすりあわせているはずです。
とすれば、食い違うのは「宇宙全体の幸福」ということになります。より具体的に言えば、古代は「宇宙全体の幸福」を見ていたのかもしれませんが、雪は別の何かを見ていた可能性があります。
それはいったい何でしょう?
雪の行動が変わるポイント §
ここでは「テレザートでは敵地に行かないのにデスラー艦では敵地に行く」という疑問から雪の心情を解き明かしてみましょう。
さて、雪は戦場においては応急手当を行う看護婦です。
では、傷ついたのは誰でしょう?
テレザートでは空間騎兵隊員です。
デスラー艦ではあらゆるヤマト乗組員です。空間騎兵隊の生き残りもいますが、主力はヤマト乗組員と思って良いでしょう。
つまり、雪は、空間騎兵隊員が傷ついている時には医務室(か第1艦橋)で冷静に待機していることができたのに、ヤマト乗組員が傷ついている時には冷静でいられず、医務室から戦場に飛び出さざるを得なかったことになります。
ということは、雪から見た両者には差があるということでしょうか?
陸戦のプロか否か、付き合いが長いか否か……という差もあります。
しかし、それ以上に大きな差が両者には存在します。
ヤマト乗組員は藤堂長官の挑発に乗って、謀反を起こした者達です。つまり、藤堂の挑発さえなければ、命を掛けて戦う立場に立つことはなかった者達です。しかも、彼らは藤堂によって上手く騙され、操縦されただけであるにも関わらず、自発的に正義の行動を取ったと信じ込んでいます。
一方、空間騎兵隊員は、藤堂の命令でヤマトに乗り組んだ者達です。彼らは自分たちの職務を心得ており、粛々と職務を遂行しただけ……と言うことができます。
さて、雪はこの両者の差を正しく把握していたでしょうか?
才媛であり、藤堂の秘書であった雪は、それを知らされていた可能性が高いと言えます(さらば宇宙戦艦ヤマト再分析序論・藤堂長官は武力クーデターを準備していたという仮説で述べた藤堂派の一員だった……という解釈もありです)。仮に藤堂から明確に示されていないとしても、藤堂の意図を見抜くことができたと考えられます。
ということは、雪は両者の差を把握していたことになります。
では、雪から見て、両者はどう見えたでしょうか。
空間騎兵隊員は、藤堂の命令通りに動いている者達ですから、それ以上の気持ちはないでしょう。
しかし、ヤマト乗組員達は、藤堂に騙されたのにそれに気付かない可哀想な者達……と見えるでしょう。
とすれば、ヤマト乗組員を助けるために雪が戦場に出て行かねばならない理由は明らかです。こんなにも誠実な若者達が、本来落とさなくても良い命を落としていくことを見ることが耐えられなかったのでしょう。
さて、雪の心情を一言で要約すると「後ろめたさ」ではないかと思います。雪は、このような状況とカラクリを知っていながら止められなかったのです。そのような心情は、「後ろめたさ」と呼ぶのがもっともにあっているように思われます。古代の心にはないが、雪が心にはある「何か」とは、おそらくこのような「後ろめたさ」ではないでしょうか。
最後の言葉が古代の勝利の祈願である理由も、雪は結婚式の話をほとんど持ち出さない理由も、「後ろめたさ」によって取られた行動として解釈できるような気がします。
密航の理由 §
さあ、リストの中で、残った謎はあと2つです。
雪がヤマトに密航する理由です。
一見、雪が正規に乗り組まず、密航しなければならない理由は、古代に反対されるから……であるかのように見えます。
しかし、古代が雪に「ヤマトに乗るな」という意志を示すシーンはありません。むしろ、雪なら古代を思い通りに操縦することなどたやすいでしょうから、私も乗ります……といえば、それだけで乗り込むことができたはずです。
ということは、雪が密航しなければならなかった理由は別にあります。
「後ろめたさ」というキーワードを軸にこの理由を考えてみると、挑発のカラクリを知っていた雪は、挑発に乗ってヤマトに乗り組むことがない立場だと言えます。逆に、カラクリを知っている雪がヤマトに乗ってしまうと、何かの拍子にそれを言ってしまう可能性すらあります。そういう意味で、雪はヤマトに「乗せてはならない」人物と言えます。
しかし、「後ろめたさ」を持った雪は、自分の身体を張ってヤマト乗組員達に埋め合わせをしなければならないと思い、ヤマトに乗り組みたいと思ったかもしれません。少なくとも、古代の近くにいて彼の助けにならねば、雪は自分が許せないでしょう。
乗せてはならない人物が乗り込むとすれば、「密航」しかあり得ません。
つまり、雪は古代に見つからないために密航したのではなく、藤堂、そして藤堂の手先である斉藤に見つからないために密航を選択せざるを得なかったと考えることができます。
雪と土方の関係の謎 §
しかし、雪はあっさりとみんなの前に顔を見せます。
なぜでしょうか?
雪が顔を出すタイミングは、土方の生存が確認され、彼が運び込まれた時です。
ここで、生きた土方が艦内にいる……という状況が、雪の密航の理由に影響を与えた……という可能性が生じます
というわけで、土方という人物の分析を行わねば先に進めないことになりました。
次のテーマは土方艦長の分析としたいと思います。
