ガンダムマガジンについて書いたついでに、余談的な話題も書いておきます。
面白いガンダム漫画と面白くないガンダム漫画の境界を考えてみると、バックグラウンドの広さという問題にしばしば突き当たります。
「眼下の宇宙」は、この問題を考える非常に優れた題材なので、これについて見てみましょう。
さて、ガンダムという作品は、ゼロから生まれた訳ではありません。
巨大ロボットアニメというジャンルはそれ以前から存在していました。
それに、歴史的なミリタリーの世界が注入されることによって、ガンダムは生まれたと言えます。
ここでいうミリタリーの世界とは、たとえば過去の歴史的な事実であったり、戦争映画であったり、兵器の模型であったりします。
特に模型は大きな影響を持っていたと思います。当初、生まれたばかりのプラスチックモデルは「遊ぶ」という側面が大きく、船なら池に浮かべてモーターで進む、戦車ならモーターで走るということが重視されていました。しかし、その後、走る模型から見る模型への転換が起こります。正確な縮尺と精緻な作り込みで大人のホビーへと変化していったわけです。たとえば、艦船なら喫水線下を省略したウォーターラインモデルであり、戦車ならモーターを組み込めないディスプレイモデルです。
このような境地に達した時、実は模型に決定的な質的変化が起こります。
艦船なら戦艦、戦車なら戦車そのものだけが模型の題材になっていた状況が変化します。艦船なら艦隊を組むための補助艦艇を、戦車なら戦車と共に戦う歩兵などへのニーズが高まっていったわけです。
そのような文化の反映としてガンダムという作品は生まれたと見るべきでしょう。
それゆえに、ガンダムという作品には、主役の強い兵器が1つあれば良い……というそれまでの常識を否定する特徴が多く見られます。
最も分かりやすいのが、ガンダムとペアを組むガンキャノンやガンタンクが、「劣った主役メカ」ではなく、「支援火力という別の役割を与えられたメカ」となっていることでしょう。アムロは要塞攻略にはガンタンクの方が良いと言ってブライトに怒られていますが、目的や状況によってはガンダム以外の方が良いこともあるわけです。
これらは、ガンダムのバックグラウンドが過去の広い世界にあることを示します。
一方で、今時の作品によく見られるパターンは、ガンダムをバックグラウンドにしてガンダムを描く……というようなパターンです。ファンタジーの世界では、ドラクエを見てファンタジーを描くというのも同じようなパターンと言えます。
このようなパターンで生み出される作品は、どうしても世界が狭く、つまらない傾向を持ちがちであると言えます。なぜなら、バックグラウンドの広さが決定的に狭くなるからです。
現実世界の出来事をバックグラウンドにする限り、驚くほど多くの実際に起こった出来事や実際に生きていた人物をモデルにすることができます。しかし、ガンダムを見てガンダムを描くのでは、その範囲は自ずと限られてしまいます。
おそらく、ファーストガンダムを踏み越えられないガンダムを名乗る作品群には、多かれ少なかれ、このような問題があるのではないでしょうか?
さて、話を「眼下の宇宙」に向けましょう。
このタイトルは、有名な「眼下の敵」という映画を意識して付けたものと思って良いでしょう。「眼下の敵」とは第2次大戦の大西洋で、ドイツの潜水艦とアメリカの駆逐艦が死力を尽くして戦う内容です。
つまり、この作品の持つバックグラウンドは狭い「ガンダム」ではなく、広い「世界」であることが明瞭に示されています。
そして、何より特徴的であるのは、作品の内容が単純な「MSの対決」になっていないことです。
船団を襲撃したゴッグが最初に沈めたのは駆逐艦です。次は、対潜攻撃機を発艦前に撃破しようとします。つまり、ゴッグから見て、駆逐艦と対潜攻撃機は厳しい敵であるという認識があり、最初にそれを無力化しようとしたのでしょう。
このような描写は、戦争を「人の殴り合い」ではなく、システムのぶつかり合いと見ることによって成立しているものと言えます。
つまり、その場にいる全ての名もない兵士達にはそれぞれに異なった役割があり、勝利も敗北も彼ら全員が職務を全うして手にするものだと言えます。
それが、本物の戦争と子供の戦争ごっこを区別する条件であり、ガンダムにおける戦争が「戦争ごっこ」ではないことの理由であると言えるかもしれません。
あえて極論を言えば、この条件を正しく優れて満たす作品はファーストガンダムと並べて論じる価値があり、そうではない作品は読まずとも別に損をした気分にもならない……と言えるのかもしれません。
つまり、魂が震える作品とは、ファーストガンダムを並べて論じる価値がある作品の別名と言えるかもしれません。
もちろん、ここでいう「魂が震える」というのは、全く個人的な気持ちの問題を述べているだけで、一般性はないのですけどね。