2006年10月24日
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当たり前だと思った「変身」にメスを入れる・妊娠らんま問題を起点に考える「変身」メカニズムの判定手段

Written By: 川俣 晶連絡先

 世の中には、思いもよらない話があります。

 WikiPediaにある妊娠らんま問題は、その1つと言えます。

 妊娠らんま問題とは、以下のようなものです。

アニメ及び漫画作品の『らんま1/2』の主人公早乙女乱馬は、呪泉郷の呪いにより水を被ると性別が変わって女になり、湯をかけると元の男に戻るという特異体質を持ちます。このとき、女になった乱馬(=ひらがなで「らんま」と表記して区別する)は妊娠できるでしょうか? 妊娠したらどうなるのでしょうか?

 日本のファンはほとんど問題にしていないような気がしますが、海外ではポピュラーなネタということのようです。

 さて、この問題は性に関する好奇心に満ちた、どちらかといえば異常性愛に通じる異端的な話題です。

 しかし、じっくり考えてみると、これはコミックやアニメによく見られる「変身」という問題を考え直す良い機会であるようにも思えます。

 そこで、軽く検討を加えてみました。

前提・細胞の加除の問題に限定する §

 「変身」と言っても、そこで起こりうるプロセスは多岐に渡ることが考えられ、その全てを考察することはできません。

 ここでは、「細胞の加除」の問題に限定して考察を行います。「細胞の加除」とは、変身の前後で元々あった細胞が消滅した……あるいはもともと無かった細胞が出現した状態を示します。

 このような状態は、「変身」によって頻繁に起こっていることが推定されます。たとえば、男から女へ変わるキャラクターは、生殖器の多くの細胞を消失させ、体格の変化に伴って身体の細胞も消失していることが考えられます。一方で、女性にしか存在しない子宮等の器官を構成する細胞は、もともと無かった細胞が出現していると考えられます。ヒーローへの変身でも、体格が飛躍的に良くなるものは、細胞の出現が含まれると考えて良いと思います。

 ちなみに、同じ変身でも「成長」系の変身(ミンキーモモやふしぎなメルモ等)についてはこの前提は当てはまらないと考えられます。これらは、成長を通常よりも素早く行うことで細胞を獲得し、成長を逆転させることで細胞を失っていると考えられるためです。

「細胞の加除」のタイプ §

 「細胞の加除」は、細胞がいつどのように作られるかで2つに分類できます。

  • 新規作成タイプ→「変身」が発動した時点で新規に作られ、不要になった時点で破棄される
  • 保管タイプ→あらかじめ作られた細胞があり「変身」が発動した時点で取り込まれ、不要になったら次の変身に備えて保管される

 更に、細胞を取り込む範囲によって2種類に分類できます。

  • 部分追加タイプ→足りない細胞のみを補う
  • 全交換タイプ→全身の全細胞を交換する

 後者は、細胞を加除した身体を別途用意しておき、「変身」はその身体と差し替える方法を意味します。傷だらけでも変身すると無傷の身体になるヒーローを想定すると、このようなやり方はあり得ると考えられます。

 逆に言えば、そのような傷の変化を見ることで、「細胞の加除」のタイプを判定できることになります。

「細胞の加除」のタイプ判定は「妊娠らんま問題」の答につながる §

 タイプの判定は「妊娠らんま問題」を考える大きな助けになります。

 妊娠という現象を胎児の細胞が胎内に追加される現象と考えるなら、「妊娠した後、男にもどったらどうなるのか」という問いの答は以下の2つに分類できます。

  • 新規作成タイプ→男に戻った時点で不要になった細胞は破棄される、つまり胎児は消滅して次に変身しても戻らない
  • 保管タイプ→胎児の細胞は保管され、次に女になった時点で胎内に胎児が存在する

 胎児が消失しないとしたとき、胎児の成長速度は以下のタイプで分類できる可能性があります。

  • 部分追加タイプ→男の状態で余った細胞は部分的に保管されているだけなので、胎児の成長環境は存在しない。ゆえに成長は行われない可能性が大きい
  • 全交換タイプ→女を構成する全細胞が保管されているので、胎児が成長する環境は維持されている可能性がある。胎児は成長を続ける可能性がある

 つまり、部分追加タイプの場合は、女になっている期間の累計が十月十日(とつきとおか)を経た後に出産に至る可能性が高いのに対して、全交換タイプの場合は妊娠後女になるか否かに関わらず、十月十日(とつきとおか)で出産に至る可能性があり得ます。

「細胞の加除」のタイプの判定方法 §

 新規作成タイプと保管タイプの判定のためには、「変身」によって明らかに追加され、「変身解除」によって消失する身体の部分を微少な範囲で良いので切り取り、保管しておきます。その後、再度「変身」を行った時点で、以下のチェックを行うことでタイプを判定できます。

  • 切り取られた部分が復元していて、保管した「部分」が残っている場合→新規作成タイプ
  • 切り取られた部分が復元していない場合→保管タイプ
  • 切り取られた部分が復元していて、保管した「部分」が残っていない場合→保管タイプ

 部分追加タイプと全交換タイプの判定のためには、「変身」によって明らかに加除の対象にならない細胞を用いて、同様の判定手順を行えば良いことになります。

まとめ §

 ここまでの考察は、あくまで限定された範囲内の問題しか扱っていません。

 しかし、「変身」能力を持った人達には、この程度の考察でも有用でしょう。

 戦うヒーローであれば、自分の身体にどこまでダメージを許容できるかの判断基準になります。たとえば保管タイプ+全交換タイプの変身を行っているなら、ボロボロにやられた後に変身を解除すると完全な身体が戻ってきて、回復したかのように錯覚するかもしれません。しかし、再度変身を行えばボロボロの身体に戻ることになり、危険です。

 また、性転換「変身」を行う場合、新規作成タイプであれば、仮に妊娠しても「変身解除」と「堕胎」がイコールになります。これを、「安心してやりまくれる」と思うか、あるいは「神の冒涜」と思うかは人それぞれでしょう。しかし、仮に出産を意図した場合には、出産まで変身を解除できないという強い制約が課せられる点で大きな注意が必要です。

補遺・共同幻想タイプについて §

 実は、上記の全ての解釈を無意味化するタイプがあり得ます。

  • 共同幻想タイプ→「変身した」という幻想を全ての人達が共有することで「変身」が事実だと認定される

 これは冗談ではなく、明らかにそこに存在しないものが「ある」と認識された事例は珍しくもありません。それを寓話的に語ったのが「裸の王様」の物語と言えます。

 このタイプは、「変身」の解釈としてはもっとも現実的で筋が通っています。

 仮に、らんまの変身がこのタイプだとすれば、らんまの妊娠とは「想像妊娠」そのものであり、とりたてて特異なトピックは含まないことになります。