2007年07月17日
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正義のヒーローという属性を持たざるポケモンレンジャーとしてのシンジという問題

Written By: トーノZERO連絡先

 「蒼海の王子 マナフィ」で思ったことがあるので、簡単に書いておきます。

 ちなみに、単なる思いつきなので信じてはいけません。眉に唾を付けつつ読むのが正当な態度でしょう。

ポケモンレンジャーとは §

 ポケモンAGに登場するポケモンレンジャーとは、野生ポケモンをキャプチャし、一時的にその力を借りて様々な問題を解決する者達です。

 それを行うためには、キャプチャ スタイラーという道具を使用しますが、ポケモンレンジャー本人もポケモンと心を通わせる資質が必要とされるようです。誰でもできることではありません。

 ポケモンレンジャーとポケモンの関係は、対等ではなく一時的なものとなります。

 対等ではない……というのは、ポケモンレンジャーとポケモンの協力関係は常にレンジャー側からのみ発動することが可能であり、ポケモン側にはいつ、どのレンジャーに対して協力するか……といった選択を決定する余地が存在しないことを意味します。

 また、関係が継続することはなく、問題が解決されればポケモンは常に解放されます。つまり、関係は常に一時的なものになります。ポケモン側から見て、解放されるには都合の悪い場所やタイミングで解放されたとしても、それを拒否することはできません。

 人とポケモンは対等の存在だ……と思うなら、このような関係は受け入れがたいかもしれません。しかし、ポケモンレンジャーという存在が間違っていると思うのは適切ではないでしょう。ポケモンレンジャーとは、より大きな問題を解決するために、身の回りにある大自然そのものの力を使う存在といえます。そこでは、個の都合を上回るより大きな必然性により、ポケモンという個が動員されるわけです。

 そのような状況は人間社会にも見られます。たとえば、非常災害の場合など、緊急に助けるべき人が近くにいるときに、助けるための労力提供を求められることもあるでしょう。その際、「はやく家に帰ってアニメが見たい」といった「個の都合」が尊重されないことも珍しくないでしょう。

 それと同じような意味で、ポケモンレンジャーは野生ポケモン自身の都合を無視して、野生ポケモンの力を借りることのできる存在と見ることができます。

ポケモンレンジャーの構造 §

 ポケモンレンジャーとポケモンの関係は、構造の骨格だけを取り出すと、以下のようになります。

人間側都合によるポケモン取得→人間側都合によるポケモン利用→人間側都合によるポケモン解放

シンジの構造 §

 ポケモンDPでサトシのライバルとして登場したシンジは、ゲットしたポケモンの能力が低いとすぐに解放してしまいます。

 つまり、シンジとは以下の構造の体現者に他なりません。

人間側都合によるポケモン取得→人間側都合によるポケモン利用→人間側都合によるポケモン解放

 つまり、骨格だけ見るなら、ポケモンレンジャーとシンジは同じ構造を持ちます。

 両者の相違は、正義のヒーローという立場の有無だけだと言えます。

「人間側都合によるポケモン解放」を否定するサトシ §

 ここでサトシの立場からはねじれた状況を見ることができます。

 サトシは、トレーナーに捨てられたヒトカゲをゲットしてから「人間側都合によるポケモン解放」を一貫して否定してきました。ポケモンの交換すら行いません。

 しかし、サトシはポケモンレンジャーを憧れの正義のヒーローとして受け入れています。

 ここに潜在的な矛盾が発生しています。

 しかし、ポケモンレンジャーを遠くに憧れの存在として見ている限り、その矛盾は顕在化しません。

 これが、ポケモンAGでの状況です。

矛盾を顕在化させるシンジ §

 シンジは日常的に「人間側都合によるポケモン解放」を行いますが、かといってダメなトレーナーではありません。それどころか、サトシよりも強く、ジムリーダーからも高く評価されています。

 つまり、強く社会評価も高い人物です。

 シンジのポリシーは、サトシのポリシーとは決定的に相容れません。

 しかし、社会はシンジを肯定します。

 サトシはシンジが間違っていることをバトルに勝って証明したいと思っていますが勝てません。

 ここに、サトシのポリシーとポケモンレンジャーの間にあった矛盾構造が顕在化します。

 サトシと視聴者は、この矛盾に向きあい、それについて考えざるを得ません。

結論はない §

 というわけで、ポケモンDPのシンジは、ポケモンAGのポケモンレンジャーという問題の延長線上に位置づけられるキャラクターであり、大きく重要な問題を橋渡ししているかもしれない……と気付きました。

 しかし、気付いたというだけで、結論はありません。

 結論は、この状況からサトシ自身が苦悩しながら掴み取っていくしかないでしょう。