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2007年10月11日
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羽無し天使

Written By: 遠野秋彦連絡先

 ある世界に天使と呼ばれる者達がいた。

 天使とは神に仕える特権を得た者達でありった。

 その特権は、理想的プロポーションの身体、無限の命、美しい服、甘美な食事、宙を舞い続ける背中の羽を与えた。

 そして、天使達は雲の上にある天上界で神々に奉仕を行っていた。

 一方、地上界には人間達がいた。人間達は、過酷な環境で生きるために必死に戦っていた。ゴツゴツした身体、限りある命、みすぼらしい服、質素な食事、そして羽はないので2本の足で地上を歩くしかなかった。

 神々のお使いで地上界に出向く天使達は、人間達を見るといつも蔑んだ。野蛮で汚い生活を続ける者達は、きっと大昔、何かの大罪を犯して地上に突き落とされた罪人のなれの果てだと、皆は噂していた。

 中でも、天使達が嫌悪の念を露わにしたのは男と女が交わる行為だった。気持ちの悪い人間の男の身体の一部が、自分の身体の中に入ってくると考えると、天使達はとても耐えられない嫌悪感を感じるのだった。それにも関わらず、人間の女達は交わりを求めている理由を、天使達は寿命の問題だと考えていた。つまり、限りある命しか持てないので、交わりを通して自分の分身を作らねば、自分という存在が永久に消えてしまうのだ。だから、やむを得ず交わっているのだと考えたのだ。

 それが、天使にとっての最も合理的で納得しやすい解釈だった。

 さて、この世界の神々から見た天使とは、下っ端の使いっ走りであった。見苦しくないように美しい身体や衣服を与えているが、知恵や教養も十分とは言えず、到底神々と同レベルで並び立つことなどできない者達であった。

 であるから、当然のように、規律を破る天使が出てくることもある。

 天使ヌーケは、天上界の菓子倉庫に入り込み、中の菓子を全て平らげてしまったのだ。その中には、天使ではなく神々のための菓子も含まれていたから、事態は深刻だった。

 いや、より正確に言えば神々は菓子程度でそこまで深刻になったりはしない。深刻に受け止めたのは、天使達の方だった。天使達にとって、神々の食べ物に手を付けることは、絶対にあってはならないタブーと認識されていたからだ。

 そこで、天使達は協議し、天使ヌーケの行いは過去に前例のないほど重大な犯罪行為である……と結論を下した。

 前例がないので、新しい刑罰を作ることも決まった。内容は、最もおぞましい体験でなければならない。

 そして、様々なアイデアが出され、協議された結果、現時点でもっともおぞましい体験とは、あらゆる天使の恩寵を剥奪した上で、地上界に追放することだと決定された。あらゆる恩寵が剥奪されるということは、永遠の命も失われ、自分という存在の完全消滅を回避するためには人間の男と交わって子を産まねばならないのだ。これほど、おぞましい刑罰があるだろうか……、いやない。天使達はそう思った。

 そのようなわけで、さっそく天使ヌーケは羽をもがれ、美しい服を奪われ、地上界に突き落とされた。理想的なプロポーションだけは奪われなかったが、それは身体そのものの形であり、奪えるような性格のものではかったからだ。

 さて、全裸で地上界に落下したヌーケは、しばらくあまりの衝撃に放心していた。ヌーケは単なる菓子好きだったに過ぎない。ただ、菓子の甘さの快楽に酔って我を失っただけなのだ。

 だから、地上界で生活するなど、考えたこともなかった。

 やがて狩りに出ていた人間達のグループが放心したヌーケを発見した。

 人間達は、ヌーケのあまりの美しさに心を奪われた。

 そのままヌーケは人間達のキャンプに連れて行かれ、そこで人間達の寝床に連れ込まれた。

 ヌーケはこの世で最もおぞましい行為が始まると恐怖したが、逃げる気力はなかった。もはや逃げられないと既に分かっていたからだ。たぶん、行為が始まったら、おぞましさのショックで自分は死ぬと思った。

 だが、ヌーケの身体を求めてきた人間は優しかった。ヌーケの身体を愛撫し、ヌーケの身体から緊張を解きほぐした。そしてヌーケの身体はそれまで体験したことのない不思議な状態になった。身体が潤い、甘い感覚に全身が包まれ始めたのだ。そして、人間の男が入り込んできたとき、ヌーケの甘い快楽は最高潮に達した。

 ヌーケは、相手の人間にしがみつきながら、その甘い快楽をむさぼった。

 そして全てが終わったとき、ヌーケは知った。

 交わりとは甘い行為であり、おぞましいことではない。天使達はそれを知らないのだ。

 ヌーケは、人間の男達に心を開き、彼らと一緒に暮らすことを決意した。

 ヌーケは人間達の村に連れて行かれた。

 そこで、優しい男達との幸せな生活が始まると思っていたヌーケは、思わず壁に突き当たることになった。

 村を守っていた女達は、美しいヌーケに嫉妬の炎を燃やしたのだ。

 男達は、面倒を見るようにとヌーケを女達に渡した。そこでヌーケは女達から陰湿ないじめを繰り返し受けた。

 そして、女達はそれぞれ自分の恋人や夫に対して、ヌーケに対して鼻の下を伸ばさないように強く求めた。

 そこで、ヌーケは更に学んだ。

 素晴らしい交わりは独占できるものではない。誰もが欲しいものなのだ。だから、誰もが全力でそれを守ろうとする。それだけの価値がある素晴らしいものなのだ。

 だから、特定の相手を決めて、その関係をみんなで尊重する価値がある。

 それを、人間達は「結婚」と呼ぶのだ。

 最終的に村長が出てきて、ヌーケと村の独身男を見合いさせた。ヌーケは、若く力強く、そして寝床の中では女に優しいその男を気に入った。

 ヌーケは、その男と結婚した。他の男に手を出せなくなった代わりに、他の女もヌーケの男に手を出せないことになった。

 村の女として結婚生活を始めると、ヌーケは急速に「生きる」ということの意味を学んでいった。ただ神々に言うとおりに走り回っていれば自動的に服も食事も出てきた天上界とは違う。必要なものは、全て調達し、作り出さねばならないのだ。そうやって、必死に生きていると、まさに「本当に生きている」という実感が得られた。それは、天上界では絶対に得られない充実感だった。

 それに、信頼で結ばれた助け合う仲間もできた。地上界では、人は助け合わねば生きていけないのだ。次第にヌーケは、村の中で、1人の「女」として馴染んでいった。

 やがてヌーケは懐妊した。

 村の者達は、それを祝った。

 それは、ヌーケが本当の意味で村の女になったことを意味する大きなイベントだった。

 ヌーケは幸せの絶頂だった。

 だがその夜、思いがけない訪問者がヌーケを訪れた。それは、天上界の天使だった。

 天使は、ヌーケの罪が許されたことを伝えた。

 神々に断りも無しに刑罰を与えたという事実が神々の耳に届き、神々は天使達の勝手な行為に怒り、刑罰は無かったことにされたのだ。

 それを聞いたヌーケは動揺した。

 既に村での生活に馴染み、大切な夫や仲間もでき、子供すらお腹の中にいるのだ。

 今更、天上界に戻って、生きるということの本当の意味も知らない天使達と暮らすなど、あり得るはずもなかった。

 それを聞いた使いの天使は、ともかく神々への挨拶だけは行い、天使達の謝罪を聞くために天上界に1回は来いと伝えた。

 天使に戻るか、人間として地上で暮らすかは、その後で決めれば良いというのだ。

 ヌーケは再び背中に翼を与えられ、天使の美しい衣服が与えられた。無限の命を持つ天使の身体に戻り、酷使されて傷だらけになった皮膚も傷1つ無いツヤツヤのお肌に戻った。

 ヌーケはすぐに戻るつもりで羽を広げて天上界に舞い戻った。

 ヌーケは天使達の歓迎を受けた。

 そして、ヌーケが大のお菓子好きだったことを覚えていた天使達は、天上界の菓子でヌーケを歓迎した。

 ヌーケは喜んでその菓子を口に入れた。

 そして、ヌーケの頭の中身がとろけた。

 なんという甘さ。

 なんという美味。

 これを超える快楽など、この世に存在するはずがない。

 その瞬間に、ヌーケの頭から人間界での体験の全てが消し飛んでいた。

 ヌーケはそのまま天使として生きる道を選んだ。

 お腹の中の子供は、神々に頼んであっさりと堕胎した。無限の命さえあれば、子を産む必要など最初から無いのだ。

 そして、時々思い返すのだった。

 なぜ、あれほど醜く汚い人間界の暮らしを素晴らしいと思ったのだろうか。

(遠野秋彦・作 ©2007 TOHNO, Akihiko)

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