2008年07月06日
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シナリオの秀逸性に驚かされた・ブルードラゴンの着ぐるみショー

Written By: トーノZERO連絡先

 2008年7月5日にWii「スカイ・クロラ イノセン・テイセス」先行体験会のためにイオンモールむさし村山ミューまで行きましたが、そこで偶然にもブルードラゴンの着ぐるみショーを見てしまいました。

 ショーの会場前を通りかかったら、まさに始まるところだったので、そのまま見ていきました。

難しさの問題 §

 まず、見る前にブルードラゴンという題材が難しいと思いました。理由は以下の通りです。

  • 登場人物が多い
  • ストーリーが複雑
  • 影を使った戦いは、ほとんど着ぐるみショーでは表現不可能 (なにせ影使いと影は繋がっていなければならないのだ。激しいアクションは無理)
  • 主たる対象となる子供達が見て分かるか?
  • 付き合わされる親御さんは、意味が分かって楽しめるか?
  • 途中から見始めた人はついて行けるか?

 実は、これらの懸念の全てをクリアするシナリオ構成だったので、これは驚き。見事です。

独立した小さな世界 §

 登場人物は、以下の5人でしかありません。

  • シュウ
  • ジーロ
  • クルック
  • ロギ
  • ドラグノフ

 この5人で過不足無くストーリーが構成されているのも見事なら、この5人に物語上の全ての役割が割り振られているのも見事。

 シュウとジーロは喧嘩を繰り返す男の子。クルックはその間に入る緩衝役の女の子。ロギは敵、ドラグノフはジョーカーです。

 これは、これ以上人数は減らせない最小構成です。

物語の構成 §

 物語の流れは以下のようになります。

  • シュウ、ジーロ、クルックは旅をしている。シュウだけ荷物運びをさせられている
  • 3人退場後にロギが登場し悪役をアピール
  • 3人をロギが襲うが、喧嘩するシュウ、ジーロは勝てない
  • ここは影が出せない場所であると明らかになる
  • ドラグノフが助けに入り、3人は助かる
  • ジーロはドラグノフを敵の一員として疑うが、シュウは信用できると言い対立する
  • ドラグノフはシュウとジーロを攻撃して、敵であるかのように振る舞う
  • しかし、ジーロが敗北を確信すると攻撃をやめ、自分の指示で全員が協力して戦わねばならないと言い、全員を説得する
  • ロギとの再戦で、クリックを後ろに下げて男3人で戦うが、シュウとジーロが指示通りに行動している間に、ドラグノフはクルックを人質に取る
  • ドラグノフは偽物であることが明らかになる
  • シュウは影を呼び出して必殺技を撃ち、ドラグノフとロギを倒す

 これを構成という観点で見ると、以下のようにまとめられます。

  • 登場人物の紹介。シュウとジーロの喧嘩を軸に、観客の興味を引く
  • この時点で焦点となるアイテム「重い荷物」は実は本筋と関係ない。この段階は、あくまで道行く人を立ち止まらせることが目的であり、ここで使われるアイテムを本筋に絡ませてしまうと途中で話が分からない人が出てしまうので、絡ませないのが正解
  • ロギを悪として強調。ここに、3人対悪という構造が分かりやすく観客に提示される。詳細の設定など知っている必要はない。単に3人対悪と分かれば良い
  • ロギの強さをアピールする (ロギを倒すことが最終目的であると観客にアピール)
  • 「影を出す」という必殺技があることをアピールし、同時にそれが出せないことをアピールする。ここで影が何かを知る必要はない。単に必殺技と理解するだけで良い (あるべき本来の結末の提示)
  • シュウがジーロと喧嘩していては勝てるものも勝てない、というピンチの提示。観客は、2人の男の子が協力して勝つ結末を期待し、2人を見守る
  • 期待は裏切られ、ドラグノフが助けに入る (期待の裏切りは観客に緊張感を生む。予測通りの結末に至らないとしたら、どうなってしまうのか?)
  • ドラグノフは全員が協力することの重要性を説き、戦いで納得させる (観客は、大人のドラグノフが指揮を執ることで、ロギを倒す開放感を期待する)
  • しかし、ドラグノフは偽物であり、クルックを人質に取ってしまう (ここに来て、いるだけだったヒロインがストーリーのキーに浮上する意外性)
  • 人質を取られ、戦闘力でもロギに勝てないシュウとジーロに勝ち目は無くなる (どう結末を付けるか、観客はもう目が離せない)
  • シュウだけは特別であり、出せないはずの影を出すことができた。他の誰も影を出せないので、必殺技1つで決着が付く (観客が応援していたシュウの大勝利で、観客の屈折を全て解放して終わる)

 この構造で特に秀逸なのは、「影を出せない」という設定です。これにより、ステージ上で実現しにくい「影」をブルードラゴン1つに絞ることができ、また、「出現」と「必殺技」の2つのアクション以外何も行う必要が無くなります。これだけなら、ちょっとした道具と演出上の工夫があれば実現でき、しかもブルードラゴンのショーを見たという満足感を与えられます。

 また、予感と裏切りの繰返しにより、観客は結末を見届けずには去れない状況に立たされてしまいます。予感が的中し続ければ、「もう分かった」と思って去ってしまうかもしれませんが、そうではないのです。

 特にドラグノフが偽物、という裏切りは「これで終わる」という予感を綺麗に裏切って盛り上げる見事な展開です。

少ないお約束 §

 このストーリーの秀逸なところは、知っているべきお約束が極端に少ないことです。

 登場人物は全員、明快で分かりやすい役割を与えられています。たとえば、ドラグノフは、喧嘩しがちな子供達を導く大人です。

 悪は、悪というだけで、子供達を狙う必然性を納得させられます。

 唯一、固有のお約束は「影」です。ブルードラゴンを知らない人は最後までしこりになって疑問が残るかもしれません。しかし、最後に具体的にブルードラゴンを登場させることで、その疑問には答えを付けています。

 つまり、このショーは、ブルードラゴンのお約束を知らなくとも理解可能になるよう、きちんと慎重に設計されているわけです。

まとめ §

 このショーのシナリオは以下のような特徴を持つと思います。

  • ブルードラゴンを知らない人でも楽しめる
  • 最小限の登場人物と舞台装置で成立する (ローコストかつ、どこでも上演でき、1回限りの上演も容易にできる)
  • 二重三重に観客の注意を引きつけるどんでん返しがある
  • きちんとブルードラゴンを登場させる見せ場を用意している
  • ブルードラゴンのファンに対しては、個々の登場人物の個性をきちんと描くことで納得に行く物語にしている (声はあらかじめ録音された声優の音声)

 というわけで、本当に完成度が高く、見ていて感心しました。内容も面白いのですが、シナリオの構造も見事に洗練されています。

 非常に感心しました。

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