2008年09月02日
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まだあった宮崎駿と赤松健の共通点・それは「モブシーンの魅力」

Written By: 川俣 晶連絡先

 昔、遠野秋彦名義で「赤松健とクリエイション論」という文章を書いていますが、ここで宮崎駿と赤松健の類似性について述べています。おそらく、2人は同質の特異的なクリエイターと言って良いのではないかと思います。

 最近、ネギま!23巻を読んでいるときに別の共通点に気付きました。

 それは、

モブシーン

 です。

23巻選抜試験の背景 §

 選抜試験の背景にはともかく大量の人が書き込まれています。学生達や、街の人たちなど。おそらく、普通のコミックではここまで描くことはありません。作中に頻出する麻帆良学園の生徒達なら、有る程度ストックがあるから使えるという可能性もあり得ますが、このシーンはそうではありません。初登場して間もないアリアドネーであり、麻帆良とは制服も人種も違います。

 それにも関わらず、背景の人々をきちんと大量に描き込もうという態度は一般的なものではなく、赤松健を特徴付ける特質の1つと考えて良いと思います。

 そして、その効能は絶大です。そこに人がいて、社会があって、虚構の世界がまるで生きているように感じさせます。そして、読者が自分の居場所を見つけることも可能にします。

モブシーンの宮崎 §

 と考えると、人を大量に描き込むことで有名なあの人が思い浮かびます。そう、あの宮崎駿です。

 気付いていない人がいたら、どれでも良いから宮崎駿監督の作品を見てください。たいていの作品には、大量の人が所狭しと描き込まれたシーンが必ずあります。(魔女の宅急便ならトンボ救出を地上から見守る人たちや、紅の豚ならカーチスとの決戦の見物客達など)

他にもある共通点 §

 最近知った話です。赤松健のアシスタントは滅多に募集がないのだそうです。つまり、顔ぶれの変動が少ないようです。更に言えば、おそらく赤松健作品とは赤松健個人だけの力で成立するものではなく、優秀なスタッフ達がいることで成立するものだろうと思います。そのようなスタッフを持つこと、持ち続けることができる点に、赤松健の決定的な強みがあるだろう……と推測します。

 このように考えると、やはり似ているものとして連想されるのは宮崎駿です。彼個人の専属スタッフにも等しいスタジオジブリという組織を持ち、そこにはなかなか得難い優秀な人材が揃います。これ抜きには、安定的に優れた作品を作り続けることはできないでしょう。

 そして、これは重要なポイントです。人間1人だけで出来ることはたかが知れています。それはコンピュータがいくら発達しても埋められない問題です。1人で思いつくことなど、たかが知れているからです。それを克服するには、やはり仲間となる他人が必要です。それも、言われたとおりの単純作業だけを行う人材ではなく、新しいアイデアで何かを付け加えられる優れた人材です。

 そのような人材を確保し、かつ、活用できているとすれば、やはり宮崎駿と赤松健は似たタイプなのでしょう。たぶん。

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