2008年09月24日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編 total 4018 count

ノエルの気持ち 2 (2) (ヤングジャンプコミックス), 山花 典之, 集英社

Written By: 川俣 晶連絡先

 すまん。

 なめてました。

 ノエルの気持ちというのは、血の繋がらないお兄ちゃん大好きなスケート界の妖精少女の物語です。兄の方はその気持ちを大切にしていて、かつ、距離感の節度もきちんとわきまえています。この世界観において、決定的に不幸な出来事はあり得ません。それがあるとすれば、誤解の連鎖によって心に亀裂が生じた場合ぐらいでしょうが、それは誤解を解くことによって解消されてしまうものでしかありません。バッドエンドはどう考えてもあり得ないぬるま湯的快楽世界の物語にしかなりません。

 いや、そのはずでした。

 しかし、違いました。

 確かにノエルとお兄ちゃんの関係にバッドエンドはあり得ません。予想通りに、ぬるま湯的快楽の世界が続きます。それはそれで気持ちよいものです。

 ところが、それとは全く別の次元でバッドエンドの存在が提示されました。ノエルの母親が(厳しいトレーニング込みで)丹誠込めて育て上げたノエルの身体、スケート界の妖精の身体を破壊してしまうというバッドエンドです。ノエルという妖精がぬるま湯的快楽を保証する唯一かつ絶対の存在です。それが精神面ではなく肉体面で破壊されるのです。精神面で破壊される可能性がほとんど無いことにうっかり安心していましたが、肉体面での破壊はあり得たわけです。

 しかも、その破壊の手段が悪魔的です。トレーニングマシンに身体を拘束され、苦痛を与えられつつ徐々に身体を破壊されていく描写は、破滅と引き替えの快楽、悪魔的快楽とも言えます。

 そう。ぬるま湯的快楽世界という認識で油断して入ってきた者を、悪魔的快楽へと不意打ち的に誘うのです。

 これはもう、素晴らしいと言うしかない作品ですね。