A国の政府は、隣のB国を侵略したいと考えた。B国にあった港が軍事的、経済的に極めて価値が大きかったのだ。それを手に入れるためなら、大きな無理をする価値があった。
そのためには、国境にある無敵要塞の攻略用に、地上戦艦を建造する必要があった。
しかし、そのための予算はどこにも無かった。当初考えられたのは増税だったが、これは不可能だった。B国を侵略するために増税と言えば、享楽的なB国の国民が拒否することは目に見えていた。
政府は秘密裏に様々な方策を検討した結果、コーラを国家の専売にする方法が最善という結果になった。
何しろ、コーラは身体に悪いと言われているにも関わらず飲まれ続ける人気飲料だった。健康のためと名目を付ければ、国家が全て管理する大義名分も立った。そして、売れるコーラの数は膨大であり、大金も儲かるはずであった。
A国政府はさっそくコーラの専売制導入を発表した。
だが、結果は予想外であった。国家が製造するコーラの品質が悪く、国民からブーイングの声が上がったのだ。即座にもっと美味い海賊版コーラも出回り始めた。
政府は慌ててコーラの品質を改善する作業に着手した。何しろ、国家の力を総動員して改良するのだから、どのような民間企業も勝てないような美味いコーラが生み出された。
もちろん、政府はその間、地上戦艦の建造を諦めなければならなかった。まずコーラが売れねば地上戦艦は建造できないのだ。
海賊版コーラや国外からの輸入コーラを相手に、国家コーラは激闘を繰り返した。
その結果、国家コーラは国内だけでなく、海外でも大人気となった。A国は、コーラの売り上げで莫大な外貨収入まで手に入れることが可能となったのだ。
国家コーラの専売局は、A国最強の国家組織にまで成長すると同時に、莫大な資金を政府に供給し始めた。もはや、首相ですら専売局には頭が上がらない状況になっていたが、それに不満を述べる者は誰もいなかった。どのような不満も帳消しになるほどの収入があったからだ。
この状況に、A国政府は満足し、ついにB国侵略用地上戦艦の建造に着手することを決めた。
ところが、計画が始まると即座に国家コーラ専売局の局長が首相官邸にやって来た。
局長は、B国侵略用地上戦艦の建造を即刻中止するように求めた。
首相は慌てた。
「政府に収められた資金の使い方は、政府に一任されたはずではなかったのか」
「むろん、その通りです」と局長は答えた。「しかし、コーラの売り上げを落とすような行為には中止を勧告する権限を与えられております」
「コーラの……、売り上げ?」首相は首をかしげた。
「はて。ご存じない? B国は国家コーラ最大の消費国です。それを侵略するなどとんでもない」
「しかし。B国の港がぜひ欲しいのだ」
「港? それならとっくに我が専売局の所有物になっておりますが?」
「な、なんだって!?」
「何せ、膨大なコーラを運び込む都合上、港を所有する必要が生じたもので。政府がお望みなら、いくらでも港を使っていただいてよろしいですぞ。軍事的にも経済的にも」
(遠野秋彦・作 ©2008 TOHNO, Akihiko)
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