2008年11月24日
川俣晶の縁側過去形 本の虫ネギま!を読む total 3836 count

24巻・最初の感想・空飛ぶ船のデザインが傑出して見事だっ!!

Written By: 川俣 晶連絡先

 用事が多く重なっており、なかなか24巻の再読が終わりません。

 なので、見切り発車で最初の感想だけ書いておきます。

構成の見事さ §

 23巻の最後は、明日菜の記憶を示唆する描写で終わります。

 24巻は、まず明日菜の記憶が問題にされ、それを抑止するらしい薬を飲ませることで決着します。その後も、明日菜が楓らと同行してはいけない理由等として、「記憶」の問題が出ます。そして、最終的に24巻の最後は、フェイトによる記憶の暴露というシーンで終わります。全体が、きちんと一貫しており、緻密な構成を立てて物語が進行していることが分かります。これは素晴らしいですね。

フェイトを殴るネギ §

 24巻のラストシーン、話し合いに来たフェイトをネギは殴ります。

 通常、物語は「味方=善=非暴力=話し合い」「敵=悪=暴力=殴る」というパターンを取りますが、このラストシーンにおいて、立場と行為が逆転しています。途中でフェイトが自分の目的を「世界を救う」と述べ、ラカンがフェイトの目的を「知らない」ととぼけたことも含めて言えば、実はネギの立場は本当が「善」であるか疑わしいことになります。

 つまり、ネギがお尋ね者として追われる根拠は「陰謀による冤罪」だったはずですが、実は冤罪ではない可能性も出てきたわけです。

 ネギが闇の魔法の道に進み、それと相性が良いことも合わせて考えると、本当に先の展開が見えません。

 ワクワクしますね。

 もしかしたら、ネギは「闇の力を持って悪をなす者」として大成していくかもしれません。

 しかし、当然のことながら善悪など相対的な概念に過ぎません。

 社会的な悪をなす者が、僕らの心情的な味方かもしれません。

 そういう、屈折した状況を描くことができれば、それは本当に素晴らしいことだと思います。

国家と軍事 §

 アリアドネーの潜空艦や、大国が誇示する軍事力など。国家と軍事の描き方が実に見事。単に戦艦やロボットが出てきて戦っておしまい、的な描写とは無縁の素晴らしい内容です。見るだけ、見せるだけでそこに緊張感があり、手出しができない状況は軍事の本質を見事に描いています。そして、見せびらかす武器の本質を「男のアレ」になぞらえる説明も、見事にはまっています。

空飛ぶ船のデザイン §

 空飛ぶ船というジャンルは、いわゆる「宇宙戦艦デザイン」論の対象になるものでしょう。その点で、実は納得のいく「空飛ぶ船」のデザインにはあまり出会いません。

 「空飛ぶ船」とは、まず「パッと見て説明を聞かずとも船だと察知できる」だけの船らしいデザイン要素を備えつつ、「パッと見て説明を聞かずともいかにも空を飛びそうな」デザイン要素も備えねばなりません。その点で、宇宙戦艦ヤマトは合格。しかし、銀英伝の宇宙戦艦は落第です。合格したヤマトも、戦艦大和という記号に依存しているという点ではデザインとして不十分です。

 更によくある「生物的なフォルム」という要求を加味すると、「空飛ぶ船」のデザインの難易度は更に上がります。そもそも「生物」らしさと「船」らしさは両立しないからです。

 その点で、24巻に出てくる空飛ぶ船はどれも見事に合格。素晴らしいです。

 特に、グレート・パル様号のデザインの素晴らしさ。生物らしさ、船らしさ、いかにも飛びそうな印象、この3つが全て両立しています。

余談 §

 ちなみに、「空飛ぶ船」のデザインを個人的に評価する手段の1つとして、模型化してテーブルの上に安定して置けるか、というものがあります。置けるものは「物足りないかも」、置けないものは「良いかも」です。

 つまり、テーブル上に安定して置けるということは、デザイン自身に飛ぶ必然性が含まれないことを意味するわけです。

 更に言えば、ヨットのような底部に大きなウェイトを張り出した船の存在を考えれば、陸上のものではない、という積極的な自己主張とも考えられます。

 たとえば、宇宙戦艦ヤマトは第3艦橋だけで安定的に全体を支えられないので、テーブルにはそのまま置けません。これは「良いかも」です。しかし、第3艦橋では自己主張としては小さすぎます。

 このような観点でグレート・パル様号を見ると、腹に大きな膨らみや大きなフィンがあり、まさにバランスの取れた優れた自己主張を行っています。

 こういう、良いデザインの「飛ぶ船」を見る機会は少ないので、ともかくこれだけでも感動ものです。

UQ HOLDER