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2009年01月29日
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面白ショートショート『歩けば東都市』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 そこは駅ではなかった。

 反重力浮上列車の中継ステーションであり、逆方向からやってくる列車と鉢合わせしないための時間調整用の信号所に過ぎなかった。

 しかし、俺はそこで浮上列車を降りた。

 職員がその俺を見とがめた。

 「ここは駅ではありません! ここからは反重力浮上列車以外の交通手段はありませんし、徒歩で歩けば東都市しかありませんよ!」

 俺は、その東都市に行きたいのだと説明した。すると、職員は呆れた顔で俺を見た。

 「危険ですから、それは禁止されています」

 もちろん、そんなことは知っている。

 だから、俺は職員の目を盗んで、こっそり中継ステーションを抜け出した。

 俺はともかく東都市を目指して歩いた。

 荒れ果てた道路に沿っていけば、東都市に到着できるはずであった。

 東都市とは、かつてこの国の首都があり東都と呼ばれた土地が、市制の公布に伴って東都市と呼ばれるようになったものだ。

 だが、ある時突然、東都市は全ての交通ルートを遮断し、一切の外部との交流を絶ってしまった。

 公式には伝染病で隔離されたとなっている。しかし、何やら狂気の宗教に住人全員が取り込まれて、都市に立てこもったというのがもっぱらの噂である。

 しかし、別の解釈もある。東都市の人々は、人類の愚行に付き合うことに辟易し、自分たちだけの理想郷を作り出したというのだ。

 そして、億単位の人間を一瞬で殺し合う兵器を向け合って対立する国家群は今でも存在し、それに辟易しているのは俺達も同じだ。俺は、この状況を打破するヒントを求めて、東都市を目指したのだ。

 俺はひたすら2本の足を動かして歩き続けた。東都市まで半分は来たか、という頃、俺は声を掛けられた。

 「止まれ。おまえは人間か?」

 犬を連れた軍人が俺の行く手を遮った。

 しかし、犬は8本足で、軍人は緑の肌に4本の腕があった。

 俺はあっけに取られて犬と軍人を見つめた。

 「重ねて問う。おまえは人間か?」軍人は更に言った。

 俺はやっと答えた。「ああ。人間だ。決まっているじゃないか」

 「そうか。宇宙人ではないんだな。それで、何が望みだ?」

 「東都市に行きたい」

 「なるほど。宇宙人から逃げてきたというわけか」

 俺には相手の言っていることが理解できなかったが、それは黙っていることにした。まだ相手が何者かも分からないのだ。まさか本当に宇宙人が実在するとでもいうのだろうか? この犬と軍人はまさか本当に宇宙から来た?

 「しかし、俺のような緑色人種と違って、黄色人種や白色人種は人間と宇宙人を外見だけで区別しにくい。東都市に入れるかどうかは隊長の判断を仰ごう。ついてきたまえ」

 そこから10分ほど歩くと、そこには粘液の塊のような奇怪な物体があった。

 「す、スライム!?」

 「隊長に失礼なことを言うな」4本腕の軍人が俺を叱った。

 軍人は隊長と何やら話をしていた。しかし、粘液を泡立たせるだけのスライムの言うことは俺には全く理解できなかった。

 ようやく俺は分かってきた。東都市は4本腕やスライムのような宇宙人によって占拠されていたのだ。だから、孤立して外部との交渉を絶ったのだ。

 「隊長の許可が出たぞ」軍人が俺に告げた。「それに、東都市の女王、デリンジャー・スミスとの謁見の許可まで取ってくれたぞ」

 東都市は、閉鎖前の記録写真通りの壮大な都市だった。しかし、東都市を闊歩するのはあり得ない怪物ばかりだった。中には人間らしい姿をした者もいるが、よく見ると頭に角があったり、背中に羽があったりする。

 4本腕の軍人は俺を中央の巨大な建物に連れて行った。

 そこで待っていたデリンジャー・スミスは、ガンベルトに拳銃を下げている他は、ほとんど裸も同然のセクシー美女だった。

 俺は思わずデリンジャー・スミスに見とれた。

 「宇宙人の支配地域で苦労したようだな」とデリンジャーは俺にチョコレートを勧めてくれた。

 「あ。いえ。その……」俺はどう説明するか迷った。「どうみてもあなた方の方が宇宙人に見えるのですが」

 「何を言っている。この火星の大地に侵入して、火星人のようなふりをして浸透して、ついにはほぼ全土を支配してしまったのは地球人ではないか。見てみろ、この街の外は、地球人だらけだ」

 「ひょっとして、火星人から見れば地球人が宇宙人?」

 「そうだ。当たり前だろう」

 「でも、ここは地球ですよ。地球では火星人が宇宙人ですから」

 「ここは火星だ!」

 「だってほら。火星なら月が2つあるはずでしょ! 空に月は1つしかありませんよ!」

 「それは地球人が1つ破壊してしまったからだろう」

 「違います。あれは地球の月です。ほら、よく見てください。あそこに、アポロ11号で月面に降り立ったアームストロング船長の足跡があるでしょ!」

 俺は髪の毛をかきわけて、額の第3の目をむき出しにした。そして、聴視覚を発動させ、月面の足跡をくっきりと拡大して確認した。

 ほら、あそこにちゃんと足跡がある。

(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)

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