コミックブレイド掲載コミック「スカイ・クロラ イノセン・テイセス」の単行本1巻が出ました。
というわけで、感想など。
表紙 §
シンプルでいい表紙です。明らかに、コミックブレイドの他のコミックとは全く異質で浮いています。しかし、スカイ・クロラ関係の書籍の中には上手く馴染んでいるような気がしますね。私はこの方針でいいと思いますが、営業的にこれで良いかは分かりません。
全般的な感想 §
連載で読んだときよりも、ずっと印象が良くなっています。
SD化も心理描写の演出手法として成立しているし、心理描写の的確さ、分かりやすさも向上しているように思えます。
うん。悪くない。
実際、本当にSD化という手法が必要なのか、という問題は好意的に棚上げにすれば、ですが。
さてこうなると問題は「どれぐらい連載時から修正が入っているのか?」です。
分析 §
Misson 01から02まで、連載時の内容を比較してみました。
その結果、Misson 01は差異を発見できず。Mission 02は以下の差異を発見しましたが、基本的な表現、構成には差異を発見できませんでした。小さな修正ばかりと言っても良いと思います。
発見した差異は以下の通りです。
以下のコマにトーン追加 §
「黒猫」「どこの基地だろうと」「よう」の次のコマ「女の子」「まったく勿体ない」「この人がエース」「さすがは空に愛された」「黒猫」
トーンの点の細かさがの相違 §
「オリシナ」のコマのツルホの顔のトーンがより細かい (他にもあるかもしれない)
以下のコマの目にベタの追加 §
「なにこの空気」「勘違い」
※ チェック対象外だがたまたまMission 03の「謙遜は無用です」のコマは逆に目の黒ベタが除去されているのを発見。つまり、常にベタが追加されているわけではない
以下のコマの口の表情の微修正 §
「昨日墜ちた人」「これでいいね」
実はこれとは別に、修正されていないにも関わらず印象が変わっている箇所に気づきました。
「ここはおまえみたいな」の上のコマで寝ている人物のトーンが、紙の色に馴染んで目立たなくなっていたのが目立つようになっています。髪を切るコマも同じです。
考察 §
実は、このイノセン・テイセスというコミックは、最初からかなり高い完成度で仕上がっていたと考えられます。それにも関わらず印象が良くなるまでに時間を要した理由は以下の点にあるかもしれません。
- 表現が連載1回分で完結していない。連載1回分だけで見るとSD化が唐突すぎて心理表現に見えない (数回分を一気に読む単行本では心理表現に見える)
- 質の悪い色つきの紙に印刷されることが正しく想定されていない。これにより、一部のトーンは資質に埋没してしまって、ニュアンスが見えにくい (白い上質の紙に印刷される単行本ではくっきりと表現が浮き上がって見える)
- 一部の心理表現のライン、トーン、ベタなどが完全に突き詰められておらず、心理描写の印象の方向性を曖昧化したりミスリードする余地があった
より簡潔にまとめれば、雑誌掲載、雑誌連載に対する作者の経験不足による問題でしかなく、経験値の蓄積によって自動的に解消されつつあるのかもしれません。
感想 §
このように考えると、実は凄く面白いものを見たのかもしれない、という気がします。というのは、ごく僅かな表現の差が、大きな印象の差を生んでいるからです。これは、表現論、演出論という観点で大きな問題を提起しています。
ちなみに、画面上で扱っているデータを紙に持って行くだけで全く異質になる経験は珍しくもありません。しかし、自分でやっている場合は最終的な仕上がりを見ながら修正を入れることができるので、まだしも致命的ではありません。ですが、雑誌掲載ともなれば、最終的な紙に印刷された状態を見ることができるのは、おそらく印刷が終わった後の段階であり修正は入れようがないのでしょう。なかなか難しい話です。
別の感想 §
連載と単行本をチェックして修正箇所を調べ上げるなど、そんな苦労を行う人の気持ちは全く分からない……と思っていましたよ。それなのに、まさか自分がそれを行うとは!!