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2009年06月18日
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オルランドと2つの宇宙軍

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オルランドには伝統的に2つの宇宙軍が存在する。1つは、オルランド・スペース・ネイビーであり、略称はOSNとなる。もう1つはスペシャル・スター・ネイビーであり、略称はSSNとなる。

 両者の役割分担は明確だ。OSNの役割は純粋な軍事力の投入にあり、彼らに与えられるのは、戦闘あるいは戦闘を前提としたプレッシャーを相手に与える任務以外にあり得なかった。オルランド宇宙軍の大多数はOSNに属する。

 それに対してSSNは様々な特殊な任務に従事する部隊であり、OSNとは完全に独立した少数精鋭部隊であった。

 両者が完全に別個の存在として切り離されているのは、役割の相違というだけでなく、SSNがOSNに対する警察的な行動を担う役割を持っていることも大きな理由と言える。たとえば、OSN内にトラブルが発生した場合、SSNはOSNに対して中立の立場から介入して問題を収拾する。これは、別個の組織のSSNだからできることであって、同じ組織のOSNではできない。

 また、情報収集活動や外交などの、戦闘以外の特殊技能を要する任務もSSNが主に担うことになる。これらの技能を持つ人材はそれほど多く必要ではないが、通常の軍事活動とは一線を画する特殊性を持つ。よって、それらは一般の宇宙軍の活動からは一線を画す必要があったのだ。

 ちなみに、皇帝専用ハイプとして作られたアヤが配属されたのもSSNである。それはSSNがそのような特殊な立場の者を受け入れる余地を持つと同時に、アヤのような特殊な技能を持つ人材を活用できるポストがSSNにしかなかったことを示す。

 まさに、SSNはOSNとは別個の役割を担った存在なのである。

 ……。

 以上が公式の説明であるが、実際はそのような綺麗な話ではない。

 オルランドには伝統的に2つの軍が存在し、確執を繰り広げてきた過去がある。OSNとSSNとは、その2つの軍の末裔であり、ある種のムダと非互換の象徴ともいえる。そもそもOSNとSSNは、2文字目の"S"がスペースとスターであり、同じではない。どちらも「宇宙」を意図したネーミングだが、違う言葉を使う意味がない。また、1文字目もオルランドの"O"を冠するOSNが「我こそはオルランド唯一の宇宙軍」と誇示するのに対して、SSNはスペシャルの"S"を冠して特別な存在であると対抗するのも、無駄な争いという感がある。

 では、この対立はどこまで歴史的に遡れるのだろうか。

 まず、OSNの母体はオルランド海軍である。オルランドは小さな島々であり、後の国土拡張も人工島やメガフロートによって行われた関係上、固有の陸軍は存在しない。陸上部隊は海軍陸戦隊であり、航空部隊は海軍航空隊として統括されていた。つまり、他国によく見られる海軍対陸軍という対立の図式は存在しない。

 その代りに存在したのが近衛である。小さな島国であるオルランドが帝国や皇帝を僭称する以上は、普通の軍事力だけでは世を渡ってはいけない。そこで、皇帝の警護や情報収集、特殊工作などを専任する近衛が存在し、それがオルランドの命運の半分を握っていた。(もちろん、残り半分はオルランド海軍が握っていた)

 それゆえに近衛は、常に仮想敵国に対して圧倒的戦力不足のオルランド海軍を「国を守れない」と馬鹿にした。

 一方で、オルランド海軍側も負けてはいない。近衛の若く美しい女騎士は、皇帝の身辺警護だけでなく夜のお相手まで務める、と揶揄したのである。

 ちなみに、歴代オルランド皇帝の中で、実際に近衛の女騎士とベッドを共にした経験者は少なくないらしい。しかし、これは近衛の警備マニュアルに記載された通常任務の一部とされたのも事実である。常に人手不足、予算不足の近衛からすれば、皇帝が抱く女の身元を全て洗い出して安全確認するよりも、身内の女騎士を抱かせてしまった方が安上がりだからだ。

 更に言えば、マニュアルに明文化されてはいないが、女騎士が皇帝の子を懐妊すれば近衛と皇帝の関係が非常に近いものになり、近衛の立場が安定するという目算もあったようだ。もちろん、懐妊する女騎士側の立場も格段に上がる。もともと騎士とは男だけが就任する地位であり、女騎士とは正規ではない「見なし」騎士でしかない。それが「王族の母」になり、場合によっては「次期皇帝の母」になれる可能性すらあるのだ。野心ある女であれば、喜んで身を投じる任務だったといえる。

 もちろん、そのような行為まで行われてオルランド海軍が面白いわけがない。彼らには、そのようにして皇帝との関係を深くする手段は存在しないのだ。

 両者の確執は深まることはあれど、解消されることはなかった。

 さて、この確執のルーツはどこにあるのだろうか。初代皇帝は、そのような確執を取り除いた形でオルランドを建国することはできなかったのだろうか。

 結論から言えば、それはできなかったようだ。なぜなら、建国の時点でこの2つは全く別の集団をルーツに持っていたからだ。

 まず、オルランドの建国の経緯を振り返ってみよう。ヨーロッパの帆船が世界を駆けめぐっていた時代、半分海賊のような商船隊が、イギリス人総督の娘を誘拐し、勤勉な原住民を従えて南太平洋の島々に建国したのがオルランドである。このときの商船隊が発展的にオルランド海軍の基礎となった。つまり、初代オルランド皇帝の商船隊が国家の海軍になったわけである。それに対して、皇帝の后となったイギリス人総督の娘に付き従って、イギリスから離反した軍人の一団があった。彼らはもともと娘の警護の任に付いていたが、本国よりも娘の方に忠誠を誓い、そのままオルランドに来て警護の任務を続けた。これが近衛の基礎となった。

 しかし、この2者はもともと敵であり、信頼関係があったとは言い難い。

 それにも関わらず両者がオルランドという国家で共存し続けた理由は簡単である。オルランド皇帝とは両者が忠誠を誓う皇帝と后の末裔であり、どちらの勢力も忠誠を誓う必然性を持っていたからである。その結果、皇帝は常にこの2つの勢力の中間にあって、バランスをとり続けねばならない立場にあったとも言える。

 その結果、通常戦力をより多く必要とするオルランド海軍には予算を、戦力以外の何かの証を必要とする近衛には身近な親しさを与えてきたとも言える。

 だが、ベーダーの侵攻はこのバランスを決定的に崩してしまう。オルランド海軍を母体とするOSNは、対ベーダー戦の全てを担うことになる。近衛の装備やノウハウは人間相手にしか通用せず、近衛の存在意義は希薄化していった。いやそれは正確ではない。実際にはこの期に乗じてオルランドを潰そうという動きも地球上には多く、近衛の仕事はかえって増えていた。だが、オルランド世論はそのような水面下の動きを知る機会がないために、近衛を無用の長物として非難した。

 結果、急速な規模拡大と共に規律の悪化が目立つようになった連合防衛軍の綱紀粛正という名目で、近衛が母体となったSSNが設立されねばならないことになった。

 人工惑星の建造も近衛には追い風になった。軍艦と違ってあらゆる人間が闊歩する人工惑星では、近衛が皇帝を警護する必要があるという意見はそれなりに説得力があったのだ。これもSSNが担うべき任務とされた。

 ここに、OSNとSSNという異なる2つの宇宙軍をオルランドは抱えることになったのである。

(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)

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